観光公害について考えよう


山梨日日新聞No.36【令和5年12月4日発行】

 内閣府が新型コロナウイルス感染症の5類移行直前の令和5年3月に実施した「第6回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、日帰り旅行・レジャー(国内)について、「感染症拡大前よりも多く実施したい」「感染症拡大前と同程度で実施したい」と回答した割合が89.6%に達していた。新型コロナウイルス感染症の収束後の外出意欲が非常に高まっていたわけであるが、半年余り過ぎた現在、まさに国内外の観光需要は急速に回復し、多くの観光地が賑わいを取り戻している。

 しかし、反面、観光客が集中する一部の地域や、特定の時間帯において、車の渋滞、人の混雑で超満員の電車やバス、食事処の長蛇の列、溢れかえったゴミの山、景観の損傷など、いわゆる観光公害(オーバーツーリズム)により、旅行者の満足度を低下させることや、地域住民の生活環境を悪化させることなどが問題となっている。背景として、レンタカーやカーシェアリングなどの利用普及や、インターネットによる利便性の高い予約システムの構築により、面倒な手続きが要らず、交通手段や宿泊、施設の予約などが簡単にできる手軽さがあり、誰もが低価格で旅行を楽しめるような環境が整いつつあることで、人の移動が活発になっていることが挙げられる。またSNSの普及により、美しい景色や観光スポットの写真を誰もが気軽に投稿し、それが拡散されることで、新たな観光客を引き寄せていることや、ホテルや飲食店、タクシー・バスの運転手などの観光を担う人手不足なども、要因のひとつであると言われている。
 こうした中で、この観光公害の影響を一番受けているのは誰か。それは、観光客や観光事業者ではなく、地域に住まう住民ではないだろうか。出掛けようとしたら渋滞に巻き込まれる、家のすぐ横を大声で会話しながら観光客が頻繁に行き交う、庭先にゴミが捨てられているなど、例を挙げればキリはないが、こうした事態に、自治体でも対策を講じて施設整備やルール作りを進めている。しかし、多くは観光客のモラルに任せていることが多いため、観光客にモラルの遵守をどう訴えるのか、課題となっている。
 地域の魅力発信や観光客を呼び込むための開発と、地域住民の生活環境の保全という2つの目標達成には、観光客が増えることで、地域住民の生活環境に悪影響を及ぼす可能性があるというジレンマが付きまとっているが、解消に向けて、観光客のモラルに委ねるのではなく、実行性のある、更なる具体的な取組が求められている。

 令和5年10月18日に観光立国推進閣僚会議で決定された「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」の文章には、「地域自身があるべき姿を描いて、地域の実情に応じた具体策を講じる」とあり、こうした取組に対し、国が総合的な支援を行う旨が記載されている。
 今後地域は、こうした支援を利用しながら、観光が地域の環境、社会、経済への影響を十分に考慮しつつ、ニーズに対応できる環境整備が求められると同時に、地域住民の声を反映した誰もが気持ち良く、観光することができ、地域住民も受け入れることができる環境づくり、ルールづくりの構築が求められる。

(公益財団法 人山梨総合研究所 研究員 山本 晃郷)