利他と共感による寄付


山梨日日新聞No.37【令和5年12月25日発行】

 年末になると普段よりも寄付や募金の街頭活動を目にする機会が増える。認定NPO法人日本ファンドレイジング協会によると、2022年の個人による寄付の総額は、推計で約1兆2千億円となっており、10年前から2.5倍になっている。この寄付の中には、ふるさと納税も含まれている。
 寄付に対する所得税法上の控除は、1962年度の税制改正から導入されている。また、東日本大震災の復興支援の目的もあり、2011年度の税制改正では、認定NPO法人や公益社団法人等への寄付に対する所得税法上の控除が可能となった。

 日本における寄付の文化は、さかのぼれば7世紀後半に導入された租税制度の内の「祖」にまで行きつき、この「祖」が土地からの収穫物の一部を「初穂」として、神の代理人たる当時の各地の豪族の首長に貢納する慣行から派生していたものとされる。
 つまり、古代における「祖」としての寄付は、ある種強制に近いものではあったが、自身の心の安寧だけでなく、その土地の豊作など社会全体のために行われていた側面もあった。
 現代日本における寄付に対する認識は様々であり、中には金銭的に余裕のある人が行うものとの印象や、特に最近では、ふるさと納税の影響もあり、寄付に対する返礼品といった何らかの見返りを求める考え方が浸透してきているように思われる。
 しかし、寄付に関するこれまでの研究では、金銭的に余裕がない場合でも寄付を行っているケースがそれなりに見られること、その要因の1つとして、寄付者が相手側に対し、金銭的な欠乏感を共感していることが挙げられている。
 また、そこに見返りは求めておらず、向社会的支出による幸福感、つまり、誰かのために自身のお金を使うことで幸福感を得ることを目的としていることになる。こうした利他のための行動は、人間における3つの基本的な欲求である関係性欲求(周りの人と良い関係でありたい)、有能性欲求(有能な人間でありたい)、自律的欲求(自分の行動は自分で決めたい)を満たすことにつながり、それにより幸福感が高まるのである。
 心理学的にはそのような捉え方ができるものと思われるが、そもそも寄付は公共的ないし社会的な目的を持って活動する団体や個人に対して行われるものである。さらに積極的な理由から寄付の必要性を考えるならば、寄付は社会をより良いものにするための手段であると捉えることもできる。
 つまり、寄付は必ずしもそれ自体が何か直接的に自身に利益をもたらすものなのではなく、自身がこれから生きていく社会全体がより良いものとなることで、いつかどこかで間接的にその恩恵を受けることもあり得るということである。

 冒頭に掲げた2022年一年間の個人による寄付額は、一見するとかなり多額の金額のように思われる。一方で、寄付や会費を主な収入源としているNPOやボランティア団体等にとっては、活動を維持していくために十分な寄付等を得られていないこともまた現実である。そこでは、利他を目的とするなど、寄付する側の意識の変容も重要となるが、寄付を受ける側の共感を得られるPRなどの工夫も重要となるのではないだろうか。

(公益財団法 人山梨総合研究所 研究員 宇佐美 淳)