災害時のSNS活用


山梨日日新聞No.38【令和6年1月22日発行】

 正月に北陸地方を襲った令和6年能登半島地震から20日近くが経過した。本地震による被害は大きく、各種ライフラインに甚大な被害が生じ、今なお復旧途上である。こうした状況も踏まえ、今回は災害時のSNSの活用について考えてみたい。

 NTTドコモ モバイル社会研究所が2021年に8,837人を対象に実施した調査では、「在宅時の災害情報の取得方法」としてSNSを挙げた人は年々増加しており、2017年の19.5%から38.8%と倍増している。SNSは情報発信にも情報収集にも使えるとても便利なツールであるが、その反面注意も必要である。
 それは、情報の信憑性・正確性の低さである。テレビ・ラジオや防災無線では本当かどうか分からない情報が流れることは滅多にないが、SNSは誰もが発信者になれるが故に、不正確な情報が飛び交うといった事態が起こりうる。
 まずは、悪意を持って発信されるデマがある。熊本地震の際も、「動物園からライオンが逃げた」といったデマが流れ、住民は不安に駆られ、動物園も本来必要のない対応に追われることになった。次に、古い情報の存在も不正確な情報が流れる一因となる。SNSでは情報がいつまでも残るため、「ここに避難所が開設されている」、「ここの道路が崩れている」といった情報を信じて行動したが、現状は違っていたということが起こりうる。
 そして、SNSの最大の特徴は、こうした情報が不特定多数の人によって爆発的に広がっていくという点である。意図してデマを流すような一部の人間を除き、基本的に皆よかれと思い、善意に基づいて情報を拡散するのだが、結果的にデマの拡散に一役買っていたり、不正確な情報を発信してしまったりしているのである。

 こういった事態を防ぐために最も重要なのは、受け手がその情報が正しいかどうか、しっかり確認することである。「そんなことは当たり前だ」と思うかもしれないが、先の動物園の例のように、災害時は通常では考えられないようなデマや誤情報が広まることが度々ある。これは、平時とは違う利用者の心理状況などが影響していると考えられるが、有事のときだからこそ、普段以上にSNSの利用には慎重さが求められる。特に、「誰が発信している情報なのか」、「いつの時点の情報なのか」などは大切な要素で、「有名人が発信しているから、中身も見ずに拡散する」といった行為は控えるべきだろう。
 先に紹介したNTTドコモ モバイル社会研究所が2023年に行った別の調査では、「災害情報の真偽を見分ける自信があるか」との問いに64%の人が「あまり自信がない」、「自信がない」と答えている。災害時に飛び交う情報から正しい情報を入手することの難しさを表す一つのデータであると考えられるが、逆に言えば「(あまり)自信がない」と答えた人も、「不正確な情報がある」、「本当なんだろうか」と疑っていると考えることもできるのではないだろうか。もちろん何もかも疑えということではないが、情報を見た人、発信する人は「この情報は間違いなく正しいだろうか」と、一歩立ち止まり確認することは重要である。

 災害発生時に、SNSが情報発信・情報収集において有用なツールであり、今後も活用されていくことは間違いない。SNSが正しく活用されるよう、皆さんもいま一度、使い方を考えてみてはいかがだろうか。

(公益財団法 人山梨総合研究所 主任研究員 山本 陽介)