岐路に立つ消防団の役割
毎日新聞No.657【令和6年2月18日発行】
1月1日に発生した能登半島地震では、多くの尊い命が犠牲となった。その中には、一人の消防団員もいた。輪島市の40代男性消防団員は、最初の地震で同居する母と祖母を家の外に逃がし、続いて発生した震度7の地震で、自宅の1階で出動する準備をしていたところ、倒壊した2階部分の下敷きとなった。近隣住民が直ぐに救出作業を進め、約1時間後に救出されたものの、担架代わりの布団の上で息を引き取った。
総務省消防庁によると、2023年4月1日時点の消防団員数は、76万2,670人で、前年より2万908人減少している。また、定年がある中で世代交代は進んでおらず、30代以下の若年層の団員構成率は4割程度に止まっており、担い手の減少に対し、各自治体ではその確保に追われている。
消防団の歴史は古く、その起源は江戸時代にまでさかのぼる。1719年に8代将軍徳川吉宗が、江戸城下に町人の義勇消防組織である「店火消」(町火消)を組織したことに始まり、江戸城下以外の農村部では、名主や五人組による臨時火消の制が整備されるようになった。
明治時代に入ると、1894年に全国で「消防組」が設置され、太平洋戦争開戦前の1939年には、主に防空活動を目的に新設された「警防団」に組み入れられた。戦後の1948年には、今の消防団の原型が形作られた。
こうした長い歴史を経る中で、当初は消防、特に消火を担っていた役割が、時代の変遷とともに、警防や、現在では地域の祭りや各種行事への参加など、幅広い役割が求められるにいたっている。
そうした状況下で、山梨県では、過疎地域を抱える複数の自治体で、団員不足に伴う消防団の統合に向けた議論が進められている。
しかし消防団には、祭りなどの各種地域行事への参加などを通して、火災や自然災害の発生に備え、平時から地域に存在する様々な組織をまとめ、火災発生時や災害時に向けた共助体制の整備や強化を行うことが求められている。こうしたことから、消防団の統合には、高齢化が進む地域側から反対意見や不安視する声が挙げられている。
今後、さらなる高齢化や人口減少が想定される中、限られた人員により平時の地域活動を通じて災害に備えるためには、町内会自治会を核とする自主防災組織などの各種団体との連携の強化が求められる。
(公益財団法人 山梨総合研究所 研究員 宇佐美 淳)