地域経済の自律的好循環を目指して


山梨日日新聞No.42【令和6年3月25日発行】

 「自律的好循環」とは、地域の企業や金融機関、地方公共団体等の多様なステークホルダーが連携して地域課題の解決をしながらキャッシュフローを生み出し、得られた資金を地域に還流して再投資するという好循環を形成することであり、内閣府が2019年に策定した「地方創生に向けたSDGs金融の推進のための基本的な考え方」に記載された言葉である。「SDGs金融」とは、金融機関がSDGsの達成や地域課題の解決に取り組む地域事業者を融資等の金融サービスやコンサルティング等の非金融サービスで支援することにより、SDGs3つの柱である環境・社会・経済へのポジティブなインパクト(変化)の創出を目指すものである。

 山梨県では地域経済の基盤である企業の事業所数や従業者数が減少傾向にあり、人口減少や高齢化の進展による労働者や後継者等の不足が懸念される。そのため、今後も地域経済が持続的に発展していくためには、経済の活性化と地域課題の解決の両方に資する「自律的好循環」を形成して、SDGsを原動力とした持続可能なまちづくりを行っていくことが必要である。
 それでは、地域経済において「自律的好循環」を実現するためにはどうすれば良いだろうか。まずは地域の稼ぐ力を高めることが重要である。地域経済を牽引する大企業や中規模企業のみならず、地方企業の大半を占める小規模企業の成長が不可欠であり、そのためには、これまで県内企業が培ってきた高い技術力や紡いできた地場産業のほか、豊かな自然や水資源といった地域固有の資源を有効に活用して、持続的に収益を生み出していくことが重要であろう。また、イノベーションによる新たな付加価値の創出も重要であり、次世代エネルギーとして注目されている水素などの新たな産業の育成や、次世代の産業を支えるベンチャー企業などに再投資をしていく必要があるだろう。
 「自律的好循環」を実現するためには、経済面の成長だけでなく、環境面や社会面での取り組みも重要である。環境面においては、生物多様性の保全や地球温暖化防止、食品ロス対策などの社会課題の解決に資する事業を創出していくことが考えられる。また、社会面においては暮らしやすさや働きやすさ等の向上が重要であり、子育てと仕事の両立や高齢者でも働きやすい社会の実現等を目指した取り組みが考えられる。そして、これらの地域課題をビジネスという仕組みで持続的な解決を図るソーシャルビジネスの育成も重要となるだろう。

 最後に、「自律的好循環」を実現するために、私たちひとり一人ができることは何だろうか。地域経済への貢献という観点では、地域の企業で働くことや地域で事業を行うことが考えられる。また、仕事をしながら新たなスキル等を身に着けるリスキリングなどに取り組み、新たな付加価値を創出していくことなども重要となるだろう。地域内の資金循環という観点では、地域でSDGsに取り組む企業に関心を持ち、想いを共感できる企業から率先して商品やサービスを購入することで、消費という行動で応援することも考えられる。
 自律的とは「自らが主体となり自発的に行動すること」であり、山梨で暮らす私たち一人ひとりが「自分事」として地域に貢献していくこと、そして、皆で知恵を持ち寄り地域の「集合知」で好循環を創出していくことが大切だろう。

山梨県内の規模別企業数・付加価値額

(公益財団法 人山梨総合研究所 主任研究員 櫻林 晃)