環状道路北部区間の整備


山梨日日新聞No.43【令和6年4月8日発行】

 先ごろ、新山梨環状道路(以下、環状道という)北部区間の一部の事業化が決定し、環状道全線のうち未事業化区間は塚原~牛句間の4.5kmのみと、全線事業化にまた一歩近づいた。
 甲府都市圏における交通の円滑化と周辺地域の連携強化などを目的に整備が始まった環状道は、甲府市中心部とをつなぐ幹線生活道路において朝晩生じていた渋滞に緩和をもたらしたほか、中央自動車道開通の恩恵が受けにくかった沿線外の地域に他地域への移動に関して大きな時間短縮効果を生み出し、山梨県域全体に計り知れない経済的な効用をもたらしたと言える。
 一方で、目的地への経路が変化したことにより、衰退が加速した地域があることも事実であろう。郊外への大型商業施設の誕生や甲府市中心部での人口減少などより大きな要因があるのだが、甲府市街地や周辺部で交通量が減ったことや、寄り道ができにくい高架構造でドライバー需要の取り込みができないことによる機会損失が、小売業やサービス業では生じたと考えられる。

 さて、北部区間の開通の恩恵は、東西南の各区間と違いIC周辺の人口や産業集積が少なく桜井~塚原間の需要はそれほど大きくないと想定されることから、全線が開通するまではかなり限定的だろうと思われる。もちろん、全線開通すれば、峡北・峡東方面間の移動は大きく改善され需要が高まり経済効果も大きくなるが、東西を結ぶ幹線道路の整備が進む一方で県人口が減少に転じ、山梨県の経済の重心が西南方向に移動しつつあると感じるなかで、北部区間全線開通の効果を山梨県域全体が享受できるよう十分引き出すためには、いくつかの方策が必要となろう。
 ひとつは、北部区間の利用促進のための布石を早めに打っていくことであろう。北部区間の利用見込みは1日当たり1万台余りと東西南区間と比べて少ない。こうしたなかで利用を増やしていくためには、県外観光客等の取り込みを図ることがひとつのポイントではないか。峡北地域と峡東地域の資源を魅力的な形で組み合わせて回遊性を高めたり、山梨市三富地域と埼玉県秩父市とを結ぶ雁坂トンネルを通るルートの利用を改めて促し、北関東からの、また北関東へ向かう観光客の掘り起こしを試みたりすることが有効であろう。雁坂ルートの活用が進まないのは、圏央道の開通や埼玉県側の道路整備の遅れなど山梨県側で管理できない要因も多いが、峡東地域の観光の魅力を高め、集客力を強化する取り組みを地道に進めていくことが求められよう。
 一方、全線開通のデメリットを抑える方策として、甲府市街地の再開発ということもますます重要となってこよう。北部区間が全線開通すれば、市内中心部を通過する車両はさらに減少する。行ってみたい、住んでみたいという地域の魅力を高める大規模な再開発など、遠心力が弱まらない現状を打破する手だてを計画的に整えていく必要はあるだろう。

 財政のひっ迫、県人口の減少、ICTの進展・交通需要の変化などを考えると、環状道レベルの道路整備は、今後ないであろう。環状道整備の効用を十分引き出すとともに、機会損失に見舞われる地域の衰退といったデメリットを抑える取り組みを期待したい。

(公益財団法 人山梨総合研究所 専務理事 村田 俊也)