健康寿命の行方


毎日新聞No.664【令和6年5月26日発行】

 筆者は現在、山梨県立大学で「地域の豊かさ」という授業を担当している。この授業では、山梨総合研究所が「ぎょうせい」より出版した書籍「山梨ならではの豊かさ」の内容が議論されている。毎回、この書籍の各章を2コマ(1コマ90)連続でカバーし、1時間目が講義、2時間目がグループワークを行っている。

 5月10日の授業では、第2章「健康寿命日本一の山梨」を取り上げ、講師はこの章を執筆した山縣然太朗先生にお願いした。1時間目の講義では、山梨県の健康寿命が日本トップクラスであるとの報告に加えて、その要因分析がなされた。主な要因としては、(1)主観的健康度が高いこと、(2)ソーシャル・キャピタルが醸成されていること、(3)高齢者の就業率が高いことが説明された。ソーシャル・キャピタルとは地域における繋がりなどのことで、山梨においては「無尽」もその一つであると考えられている。この章のサブタイトルが「それを支える無尽という人のつながり」であり、無尽の重要性も指摘された。
 2時間目は、20人の受講生が4人ずつ5つのグループに分かれて話し合いが行われた。山縣先生からの質問の一つは、「山梨県における高い健康寿命は皆さんの世代も維持できるか、更には元気で長生きするために今何をすべきか」であった。
 この質問に対して様々な意見があった。例えば、現在では、無尽に関わる若者も少なくなっていて、インターネットの普及もあり人のつながりも変化してきていることを考えると、無尽や今までのようなつながりではなく、何か別のものが必要になってくるのではといった意見である。

 山梨県における高い健康寿命に、人とのつながりや無尽が影響してきたことは理解できる。重要なのは、無尽や人とのつながりが「どのように」人々の健康に影響を及ぼしていきたかという分析である。更に踏み込んだ要因が明らかになると、健康寿命の延伸のための、今の時代に即した別の取り組みや行動が見えてくるかもしれない。山梨の健康寿命が日本のトップクラスであり続けるためには、このような研究が必要になってくるのではないだろうか。

(公益財団法人 山梨総合研究所 理事長 今井 久