自動化と心の豊かさ
山梨日日新聞No.46【令和6年6月2日発行】
飲食店などで、配膳ロボットが食事を運んでくれる。セルフレジの導入によりスムーズな会計ができる。導入率はまだ少ないと思われるが、山梨県内でもこのような光景を日常的に目にするようになった。
配膳ロボットやセルフレジなどの自動機は、新型コロナウイルスの感染対策として、人と人との非接触が求められるようになり、食事の運搬や会計処理を自動化することによる、接触を最小限に抑えることを目的として導入されてきた。
また、近年は労働人口の減少、少子高齢化の影響もあり、職場等における人手不足が深刻な問題となってきたことから、人の目が行き届いた範囲で、人手不足を補う一助として、導入が進み、今や現場において欠かせない存在となりつつある。
こうした時代背景や、社会の変化に対応した技術の進歩と共に自動化が進むことで、働き手の業務が効率化され、利用者の利便性が向上するといった喜ぶべき状況の一方で、これまで人の手が介在していた業務がいつの間にか無くなることで、気が付いた時には失われているものがないだろうか。
例えば、窓口などのサービスの自動化が進むことで、待ち時間が短縮するといった利便性は増しているが、人と人との接触が減少することにより、対話が無くなり、孤独感に近いものを感じることは無いだろうか。
また、SNSやWeb環境下での自動応答のチャットボットなどは、感情や相手に共感する能力を持っていないため、人間らしさや温かみが欠けていると感じることがないだろうか。
接客業では、従業員の負担が軽減されるなど自動化によるメリットは大きいが、現時点ではイレギュラーな要望に対応する柔軟性に欠ける部分はあるだろう。そのため店側の誠意やホスピタリティが客に伝わりにくくなることで、「接客」という店の魅力が失われ、客によってはそれに不満を感じることもあるだろう。
顧客サイドからすれば、自動化によって利便性や効率性が上がることで、新たな価値を享受することができるが、今まで満たされていた幸福感や安心感といった、内面的な豊かさが失われてはいないだろうか。
業務等の自動化は、効率化の一環として必要なプロセスであり、労働者の負担軽減といった働き方改革につながり、日々の暮らしやすさの向上にも、大きく寄与していることは間違いない。その一方で、技術の進歩により、便利となった反動として、人との接触が減ることで客への配慮が疎かになり、人間らしさや温かみに繋がる部分が失われていないだろうか。このバランスは非常に重要であり、リアルな対面による繋がりの大切さをいかに継承していくか、模索していくことが必要である。
現代社会において、物質的な豊かさという面では、多くの方が感じることができるようになっているが、人として豊かな営みという面ではどうだろうか。それだけでは満足できないことが多くなってきている実情がある。自動化という利便性・効率性を追求する社会の中で、人が介在することで得られていた安心感やあたたかさ、満足感といった内面的な豊かさが失われないように願うものである。
(公益財団法 人山梨総合研究所 主任研究員 山本 晃郷)