管理職を目指さない意味
山梨日日新聞No.47【令和6年6月24日発行】
先日、大学の授業で、6月5日付け山梨日日新聞の記事『「管理職目指さない」55%』について議論した。これは、山梨県内企業に勤める正社員のうち6割近く、女性社員の7割以上が管理職への登用を望まないという内容である。詳細は過去の記事をご覧頂くとして、これを読んでどう感じたかとの問いに、履修者からは「管理職のイメージが悪いのではないか」、「希望者が少ないと企業が困るのでは」、「メディアによる情報発信の影響ではないか」など様々な意見が出た。中には、「管理職を目指す人が4割もいるのであれば、十分ではないか」という意見も。
この結果は2千人以上からの回答に基づくものであり、統計的な信頼性は高い。しかし、データ自体は客観的な調査結果であっても、その捉え方は必ずしも「客観的」ではない。今回の結果を多いとみるか少ないとみるか、あるいは「管理職」というもののイメージも人それぞれである。
そもそも管理職とは何か。一般的には、組織の中で部下を指揮・管理、育成する社員のことを意味する。記事では、管理職を目指したくない理由として、「責任が重大」や「能力に不安がある」との回答が多くなっている。これは、管理職たるもの、組織の長としての全体を統括しその責任を追うことが求められるが、それを担うには荷が重すぎるし割に合わない、といった社員の意識がうかがえる。
そう言う私自身も、組織の中では管理職の職位を拝命しているものの、実は責任の重さを実感する機会はさほど多くはない。決して褒められたことではないかもしれないが、それはなぜだろうかと考えてみた。私は、「部下」である研究員一人ひとりが、責任を持って仕事をしているおかげだと感じている。実際のところ、私自身の管理職としての仕事は、「指揮・管理する」というよりも「調整する」というイメージに近い。
「管理職」のイメージは、組織での実体験を通じて形作られる。その姿は、アンケートに答えた正社員にとって、目指すのをためらうほどの責任を担っているように映っているのだろうか。それとも、目指すべき価値を見出すことが難しいのだろうか。
いずれにしても、管理職を目指さない社員が、自信を持って管理職になれるよう、知識やスキルを身に付けるための場や機会を設けることは重要であろう。しかし、仮に多くの人がイメージする「管理職」というものが、今日の仕事観とずれているとするならば、組織のあり方について問うことも必要ではないだろうか。もちろん、強いリーダーシップが必要不可欠な場面があることは確かである。しかし、経営者や管理職に権限や責任が集中するよりも、一人ひとりがそれらを担うことで、社員のやりがいや達成感、さらには社員相互の協力や信頼を築くことにもつながる。その結果、より働きやすい、働きがいのある職場へと変化していけば、自ずと管理職に対する意識も変わっていくのではないだろうか。
組織や管理職のあり方について、明確な答えがあるわけではない。しかし、社員にとってキャリアビジョンが見えないことは、将来への不安にもつながる。不安は、結婚や出産、子育てといったライフデザインにも影を落とす。果たしてそれは社員一人ひとりの努力や意識の問題なのか、それともそれを生み出している組織や社会全体の問題なのか、今一度立ち止まって考えてみる必要があるのではないか。
(公益財団法 人山梨総合研究所 調査研究部長 佐藤 文昭)