平成27年度
公益財団法人山梨総合研究所自主研究
色をいかしたまちづくりに関する研究
-景観計画から地域の色について考える-
公益財団法人 山梨総合研究所 研究員 渡邉 たま緒
1.はじめに
人口減少社会が深刻化し、東京一極集中の是正が叫ばれる中、2015年は地方創生元年として位置づけられ、地域の特性に即した地域課題の解決が求められた。地域の特性は地域の魅力の再考・活用を促すものであり、各自治体では、地域の魅力を感覚的に訴えるPR動画が多く作成されている。
感覚的な視点では、視覚は人の五感のうち、目から得る情報は8割以上を占めるといわれる。大きさ、形、色、奥行きといった視覚からの情報を考えると、色が印象に与える影響は小さくない。
ファッション界でも最近、パーソナルカラー(個人個人の雰囲気や肌の色味によって異なる似合う色)が一般的に広まっている。パーソナルカラーが存在するように、リージョナルカラー(※regional=地域の)とも言うべき地域に似合う色、訪れた人に好印象を与える色が街には存在するのではなかろうか。街の魅力を存分に発揮する「色」は、人口流出を抑え、移住を促進し、観光客を多く呼ぶ一助とならないか。このような視点から、「地域の色」の考察をはじめた。本研究は3年計画とし、本年度は、色彩の意図的な活用に関する文献や、全国の市町村の景観計画等の考察を行った。
以下の1~5の順で見ていく。
1:地域には色があるか(問題意識)
2:地域と色の関係(研究の整理)
3:地域には似合う色があるか(仮説)
4:今後について
1:地域には色があるか ― 色の活用を考察 ―(問題意識)
<特徴ある街>
観光地や世界遺産などにもなっている場所について、色を中心に見ていく(図表1)。
図表 1 特徴ある街の風景
イギリス/ロンドン住宅地 | イギリス/ショッピング街/リージェントストリート |
【出典】google |
フランス/パリ | |
【出典】PARIS |
イタリア/ヴェネチア | イタリア/ ブラーノ島 |
【出典】allabout.co.jp | 【出典】Rana Tours |
メキシコ/グアナフォト | シンガポール/ リトルインディア |
【出典】activities.his-vacation.com | 【出典】pds.exblog.jpg |
それぞれに色に個性を持っている街が見られる。ブラーノ島の漁業の街である。霧の多い冬の時期になると漁から戻るまでに、家がほとんど見えないため、目印のために自宅を鮮やかなペンキで塗ったそうである。よって、隣り合う家には同色がないという。
また、メキシコのグアナフォトは、18世紀、銀の採掘量が世界の1/3を占めていたという。街は銀で栄えたその「富の象徴」として、色とりどりの建物となったという。
こうしてみると気候や風土、主要産業などの要素が関連し、街独特の色を創り出している。それは、その街にしか出せない色を持つ街は、観光地としても注目を浴びている。
<パーソナルカラー>
ここで、10年ほど前から一般的になってきた「パーソナルカラー」について見てみる。
パーソナルカラーは、肌、目、髪の色と調和し、個性を引き立て、魅力を最大限に活かす色のことである。色の対比効果を利用したもので、化粧や洋服、髪色などをパーソナルカラーで施せば、個人の魅力を発揮できるとされる。(図表2)近年では就職活動中の学生を対象にネクタイやスーツの色などを診断する講座も開かれており、性別を問わず人気が高い。
図表 2 パーソナルカラー
【出典】http://fortune.garo-hair.com
<色のイメージ・活用>
赤は「熱い、危険、闘争、情熱的な、活動的」等、黄色は「希望、喜び、賑やか、幼稚、嫉妬」等、緑は「安らぎ、癒し、さわやか、平凡、未熟」等、青は「冷静、知的、信頼、孤独、憂鬱」など、色のイメージは感覚的に固定化されている。ここでは、主に心理学の分野で特に児童画の分析による色の研究を行う研究者たちの一例を以下に記す(図表3)。
【出典】色彩心理のすべてがわかる本 山脇恵子著
こうした色彩学、色の心理的効果の応用は多分野で取り入れられている。
医療では医師の手術後の残像を抑制するため、手術室や手術着を赤の補色である青色にしている。防犯分野では、米国の刑務所が壁や床を淡いピンクに塗り替え、囚人間の争いの減少につなげたケースがある。英国のショッピング街は外灯を暖色から青色に変え、犯罪を激減させている。犯罪抑止効果が見込まれる青色外灯の導入は、LED灯の普及を受け日本でも進んでいる。
また、経済分野でもマーケティング等に活用され、商品パッケージ、広告、インテリア、ファッションなど多くの分野で色の効果が取り入れられている。
2:地域と色の関係(研究の整理)
< 景観計画>
日本では、高度経済成長期に景観問題が各地で浮上したことを背景に、国が平成16年、「都市、農山漁村等における良好な景観の形成」を図ろうと景観法を制定している。景観法に基づく景観行政団体となった自治体は景観計画を定め、計画区域内の建築物の高さや建造物の色に制限を設けることができる。
国土交通省によると、景観計画の策定団体は360団体(平成25年1月1日現在)。山梨県内で景観計画を策定したのは21市町村(平成28年1月1日時点)であり、今後5市町で策定を予定している。(図表4)
図表 4 山梨県内市町村の景観計画策定状況
【出典】山梨県
景観計画では、建築物の高さ、看板の大きさ等に加え、色彩基準(基準色や推奨色)を設ける自治体も多く見かける。色彩基準は環境色彩や景観色彩に配慮したものと謳われることが多いため、環境色彩、景観色彩についてまずは考察する。環境色彩、景観色彩の明確な定義がないため、各専門家による捉え方を以下にまとめる(図表5)。
図表 5 環境色彩、景観色彩のとらえ方
どの文献にも共通していることは、「地域や環境が持つ独自の色を探し出し、その調和により構成される」としている。つまり、環境色彩は地域の色とその調和と読み取ることができる。
これを基に、各自治体の景観計画に付随する色彩計画での基準色や推奨色を見てみた。
各自治体における基準色や推奨色は以下のとおり。(図表6)
図表 6 各地域における基準色・推奨色
大阪府
【出典】大阪府景観色彩ガイドライン
鈴鹿市
那須塩原市
【出典】那須塩原市景観色彩ガイドライン
甲府市
【出典】甲府市 甲府市の景観・風致における色彩基準の解説
これを見ると、基準色の範囲は多くの自治体で重なりあっていることが分かる。加えて、「周りと調和する落ち着いた色に」と指導する自治体も多い。重なりあった基準色で「景観色彩」を整え、すべて落ち着いた色で統一することは、地域の特色ではなく、「没個性」につながる可能性はないだろうか。
3:地域には似合う色があるか(仮説)
ここで、各地で似たような基準色・推奨色が定められる理由として、先述のパーソナルカラーに戻って考える。人によって似合う色が違う、すなわち主に「顔」によって似合う色が違ってくるとした場合、地域の「顔」とは何かが重要となる。地域の「顔」とは、シンボル(拠り所)である。
そもそも場所とは、人間の内部と外部を分けるものであり、「私たちの場所の経験には、社会の一員としても個人としても、この特別な場所に対する緊密な愛着、つまりここを知ることとここで知られることの一部である親近感を伴うことが多い。私たちの『根ルもとーツ』を構成するのはこの愛着である」(「場所の現象学」 エドワード・レルフ著)としている。さらに、景観をつくることについては「愛着と能力の再生が必要である。さらにいえば、テクニークとは無関係なところに、これを実行する可能性があるように思える」とする。
また、山梨県出身の思想家・中沢新一氏は著書「アースダイバー」で、地形や地層、縄文時代などまでさかのぼった文化や、これまでに起きた事象などと都市の成り立ちには深い関係があるという視点を示している。
これらは人々のシンボル(拠り所)の形成要素として考察に値するだろう。
さらに、「日本列島・好まれる色 嫌われる色」(佐藤邦夫著)では、地域住民の無意識心理のうちにはエリア・アイデンティティー・カラ―が根強く潜んでおり、それは地域住民の色の嗜好を調査することで引き出せることを示している。
4:今後について
テクニック偏重にならず、場所への愛着、地域住民の心に潜む地域の顔に合う色。それは、単なる「地域の色」ではなく、住んでいる人の心にあるソウルカラーともいうべきものなのかもしれない。
その地域のルーツとなっている顔やソウルカラーの模索や街づくりに活かす提案について、次年度の課題として取り組んでいく。
参考文献等 |
山脇惠子著 色彩心理のすべてがわかる本 鳴海邦碩編著 景観からのまちづくり 吉田慎悟・藤井経三郎共著 都市と色彩 尾崎真理+佐久間彰三著 風土色による色彩学のすすめ 加藤幸枝寄稿 建設コンサルタンツ協会誌「Consultant」269号 エドワード・レルフ著 場所の現象学 中沢新一著 アースダイバー 佐藤邦夫著 日本列島・好まれる色 嫌われる色 日本カラ―デザイン研究所著 景観色彩計画 国土交通省 景観法アドバイザリーブック 山梨県 美の郷やまなしづくり基本方針 山梨県ウェブサイト 大阪府ウェブサイト 鈴鹿市ウェブサイト 那須塩原市ウェブサイト 甲府市ウェブサイト |