(3)第3回 環境・健康ビジネス研究会
平成22年6月15日、16時~18時、会場:清里キープ協会新清泉寮会議室
□ 講演:高原、森林環境がもたらす保健効果
山梨県環境科学研究所は、自然環境の健康効果を継続して研究している。研究会では近年の研究成果や昨年行われた山梨県環境科学研究所国際シンポジウム2009の興味深い発表内容を紹介する。
講師:永井正則氏(山梨県環境科学研究所 副所長)
医学博士(東京大学)、東京都老人総合研究所研究員、マックス・プランク生理学及び臨床医学研究所研究員(ドイツ連邦共和国)、山梨医科大学准教授(生理学)、文部省海外派遣研究員(オーストラリア ニュー・サウス・ウェールズ大学)などを経て現職。
専門は、環境生理学、温熱生理学、自律神経生理学。
森林や高原の環境を形成する要因(温度、気圧、樹木の香り、音など)が人の心と体に与える影響についての調査研究を通じ、自然環境を活用したストレス軽減法を提案している。
□ 講演概要
山梨県は県土の78%が森林で覆われています。このような森林の恵みを、県民や来訪者の保健・休養の目的で活用するためには、森林が人の健康に及ぼす影響を科学的に示す必要があります。こうした観点から、環境科学研究所では、森林の環境が人の体や心に与える影響について研究して参りました。このセミナーでは、それら研究成果の一端を紹介します。また、環境科学研究所が平成21年7月に開催しました国際シンポジウムで発表された興味深い研究報告についても触れたいと思います。
1.森の散歩と高齢者
森林の散歩は血圧を下げる効果があります。若者ではこの効果は一定しないのに対し、中高年には血圧降下が明瞭に認められます。また、週に一度、森林での散歩を定期的に行っても、同様に血圧は低下しますし、繰り返し行うことによって、効果はより強まることがわかりました。つまり、中高年にとって森林の散歩は血圧の低下、心疾患のリスクを減少させます。森に定期的に出かけ、散策することは中高年の人たちの血圧を持続的に低下させる効果があり、こうした意味ではアンチエイジングに寄与するとも考えられます。
2.森林の中での安静
一般に、ストレスは心臓の働きに影響を与えるといわれます。人の健康状態を32年間追跡調査した海外のある研究報告によりますと、2280名の内402名が心臓病になり、その内103名が心筋梗塞などの冠動脈疾患で死亡しました。その原因は肥満や喫煙習慣、高コレステロールで説明できるのが半数、残り半数が、ストレスによる不安、鬱などの理由でした。ストレスが人の心身に及ぼす影響の大きさが分かります。
ストレスによる心理状況の変化は心臓の動きや血圧に影響します。一日の間でも、血圧は心理状態を反映し変化します。粘膜の免疫機能もストレスの影響を受けます。のど、気管、胃腸などの粘膜には免疫機能と呼ばれる働きがあり、のどや胃腸を感染から守っています。粘膜の免疫機能を担うのは分泌型免疫グロブリンA(sIgA)というタンパク質で、ストレスを受けるとsIgAの分泌が低下します。
森林環境のストレス軽減効果を調査した結果は次の図の通りです。森林の中で休むと、心拍数の低下、脈拍の安定化、不安感や緊張感の低下、免疫機能の強化などが認められ、ストレス耐性の強化に役立つことが分かりました。
3.高原環境の影響
県環境科学研究所では、300mの低地の運動と1400mの高原の運動の比較研究を行いました。高原では、運動による尿中の過酸化脂質は減少し、運動によるDNAへの損傷が少なくなること、つまり、高原の運動は低地の運動に比して、より健康的であることが分かりました。
4.メラトニンとアンチエイジング
平成21年7月、環境科学研究所は「バイオリズムと健康」をテーマに国際シンポジウム2009を開催しました。その席で発表された東京医科歯科大学の服部淳彦先生の研究報告について、ごく簡単に紹介します
メラトニンは、人のバイオリズムを観察するための重要な物質です。メラトニンは夜間に松果体より血中に分泌されるといわれてきましたが、脳、網膜、水晶体、消化管などからも産出され、食用植物なども存在することが報告されています。ヒトでは、血中のメラトニンのほとんどが松果体から分泌され、その濃度は昼間で低く、夜間では高い、というパターンがあります。加齢とともに夜間の分泌量が減少します。また、光が当たると減少します。メラトニンはホルモンとしての作用以外に、老化や生活習慣病に関連する活性酸素を消去する能力があり、神経細胞を守る効果が報告されています。認知障害、骨粗しょう症などに対する予防効果も期待されています。
メラトニンは食用植物にも含まれており、メラトニンを含む野菜を摂取した群と摂取しない群を調査すると、尿中のメラトニン代謝産物は有意に増加しました。アンチエイジングに対しての効果ある物質として期待されます。