ブックタイトル山梨発の地方創生に向けて 公益財団法人山梨総合研究所 創立20周年記念誌

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概要

山梨発の地方創生に向けて 公益財団法人山梨総合研究所 創立20周年記念誌

20th Anniversary45「ある朝、目を覚ますと、そこは未来の牧歌的な理想郷だった」―1890 年に、イギリスのウィリアム・モリスが著した不朽の名作『ユートピアだより』の冒頭である。19世紀末、産業革命でロンドンが煤煙の街と化した時、社会思想家で工芸家でもあったモリスは、建築家、デザイナー、作家らとともに、田園に移り住み、自然の中で、芸術的な活動に喜びを感じられる「自然回帰」の暮らしを提唱した。イギリス人の自然志向・田園生活への憧れはこの時に始まる。30 年前、この本との出会いが私の人生を変え、今日の山梨との深いかかわりへとつながる。当時、農村雑誌『家の光』の編集者として、全国津々浦々の農山村に取材で出かけ、高原酪農のモデル地域だった八ヶ岳にも、しばしば訪れていた。高度経済成長期の時代で、NHK朝ドラ「ひよっこ」に描かれるように、農村からの出稼ぎと若者の集団就職で、日本の都市が肥大化し、農山村の過疎化が激しくなる時代だった。「豊かな農山村があってこそ、都会も維持できる」。徳川時代より江戸の町は何度も大火に見舞われ、その都度、各地の山から木材が切り出され復興した。それは同時に、山村にも賑いをもたらした。第二次大戦後の食糧難も、農村の食料増産運動で乗り切った。それが、工業製品の輸出で経済発展を遂げるという国策は、その見返りに食料・木材など第一次産品の大量輸入をもたらし、いずれ国土の荒廃につながることは、目に見えていた。「都市と農村が共生」し、「都市と農村が循環」する社会でなければならない。「都市と農村のかけ橋」となり、農村に人々を呼び戻すため、ふるさと情報館を東京・四谷に設立したのは、1990 年のことだった。情報誌『月刊ふるさとネットワーク』を発行し、全国各地の空き家情報を都会の田舎暮らし志向者に提供する事業である。1995 年には八ヶ岳南麓(高根町)に、八ヶ岳事務所と田園生活宿泊体験施設を設けて受入れ体制を整える(以来、私は北杜市長坂町と東京の二地域居住)。首都圏で最も人気のあるエリアは、山梨・長野の甲信地方で、これまでにふるさと情報館を通して山梨県に980 世帯、長野県に670 世帯の人々が田舎暮らしを実現している。八ヶ岳南麓の地元人口は、往時に比べ大きく減少し、近年は都会からの新住民によって人口を保っている。地元の人々と共に、比重を増す新住民のエネルギーが、“地方創生”“地域活性化”の新たな活力となることを期待したい。最後に、信州大学名誉教授で農村の実践的指導者だった玉井袈裟男の新住民(風)と地元民(土)の詩を紹介します。詩集「風のノート」風は遠くから理想を含んでやってくるもの土はそこにあって生命を生み出し育むもの君が風性の人ならば土を求めて吹く風になれ君が土性の人ならば風を呼び込む土になれ土は風の軽さを笑い、風は土の重さをさげすむ、おろかなことだ風は軽くさわやかに、土は重く温かく、和して文化を生むものを私のユートピアへの想いは、これからである。風は軽やかに、和して文化を生むものをふるさと情報館 代表 佐藤 彰啓