宿泊税導入は必要か


山梨日日新聞No.56【令和6年12月16日発行】

 近年、訪日外国人旅行者の増加と共にオーバーツーリズム(観光公害)が全国各地で問題となっており、トイレの不足やゴミ処理といったインフラ整備が急務となっている。
 自治体が観光振興の強化を目指すとともに、地域住民と観光客の双方にとって、安心・安全な環境を整え、地域の観光資源を持続可能なものとする必要がある中で、観光振興のための財源確保は大きな課題である。その財源として、全国の自治体で宿泊税の導入を検討する動きが広がっている。

 宿泊税は、法定外目的税に分類され、地方税法に定める税目(法定税)以外に、地方自治体がそれぞれの事情を勘案し議会で条例を制定し、国との協議、同意の手続きを経て、税の用途を明確に定めた独自の税制を設けることが可能となっている。
 現在山梨県内では、宿泊税を導入している自治体は無いが、富士河口湖町において、同じく法定外目的税である遊漁税が導入されており、税収は環境整備と環境美化の財源として、主に駐車場やトイレの整備、湖畔美化などに使用されている。
 このように財政難に苦しむ観光地の自治体にとって、宿泊税の導入により確保される財源は非常に魅力的であり、宿泊者から公平に負担を求めることができるという点では、中立性の高い税金と言えるが、宿泊税の導入には、多くの過程と乗り越えるべき課題が存在している。
 まず、宿泊事業者および地域住民への宿泊税の導入に対する説明を行い、意見聴取や、税の具体的な使用方法に理解を求めるなどの手続きを経た上で、これら関係者の賛同を得ることが望ましいが、現実的には難しいのが実情である。
 宿泊税は利用者に対し、宿泊料金に応じて、もしくは一律の金額で課税されることが一般的である。その場合、宿泊料金の高い宿泊施設ではそれほど大きな負担を感じないかもしれないが、低価格帯の宿泊施設ほど利用者への料金面で影響が大きくなることから、宿泊事業者によっては、宿泊客の減少につながる懸念や、入湯税との二重課税を懸念する声もある。
 こうした事業者の不安を取り除く努力や、宿泊者に対して一律に課税するのではなく、乳幼児や修学旅行生などの宿泊者の属性や低価格帯の宿泊事業者の運営実態を考慮した減免を行う柔軟な運用など、検討すべき課題も多い。
 このように、宿泊税の導入は賛否が分かれるところだが、既に宿泊税を導入している自治体では、景観や自然環境の保全・整備を通じて、地域独自の魅力を磨き観光客に伝えることで、地域の価値向上と住民の豊かさの向上に繋がり、地域の観光振興を推進する原動力となっている事例もみられる。

 こうした取り組みは、最終的に旅行者や地域住民の満足度に大きな影響を与えると推察されることから、県内の自治体でも、宿泊税の導入について議論・検討が進んでいるが、旅行者が行政の区域を越えて広く周遊する特性を考えると、オーバーツーリズムの対策や観光振興のための整備は、限られた地域だけではなく、広域で行うことが必要と考えられる。
 こうしたことを踏まえつつ、今後も宿泊税の導入については、地域での活発な議論と、慎重な検討を重ねていくことが求められる。

(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 山本 晃郷)