Vol.323 「サードプレイス」としてのスポーツ施設の可能性
公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 藤原 佑樹
1.はじめに
現代社会において、私たちの生活は「家庭」と「職場」という2つの場所で特に長い時間を過ごしている人が多いだろう。家庭では自分の時間がとれない、自分の居場所がなくゆっくり休めないなどから、また職場では、仕事でミスをしてしまい、上司に怒られてストレスを感じることがあるかもしれない。こうしたストレス要因が多い現代社会において注目されているのが、「サードプレイス」である。「サードプレイス」とは、職場でも家庭でもない、一時的にでも自分らしくリラックスして過ごすことができる場所のことである。
しかし、自分らしくリラックスするための時間を過ごすためであれば、カフェで飲み物を片手にゆっくり過ごす人もいれば、図書館で静かに読書をする人もいるだろう。また、スポーツや運動を行う場合でも、フィットネスジムに行き1人で行う運動や、スタジオのようなスペースを使って複数人で行う運動、さらにチームで行うスポーツもあるが、これらも「サードプレイス」にあてはまるのだろうか。
本稿では、「サードプレイス」の定義を確認していくとともに、スポーツ施設を例に、サードプレイスとしての可能性について考えていきたい。
2.「サードプレイス」とは
(1)「サードプレイス」の定義とメリット
「サードプレイス」とは、アメリカの社会学者であるレイ・オルデンバーグが提唱したもので、「第1の場所である家庭、第2の場所である職場(労働環境)で特に長い時間を過ごしているため、家庭でも仕事でもない中立の領域(第3の場所=サードプレイス)が重要である」と紹介している。具体的には、日常の煩わしさやストレスから解放され、人々が気軽に交流できるコミュニティの拠点となる場のことを指しているが、その中には以下の8つの要素があるとされている。
レイ・オルデンバーグが提唱する8つの要素

こうしたサードプレイスの特徴については、他にも細かい条件がいくつか挙げられているが、すべてを満たしていなくても、サードプレイスになる場合もあると説明している。
では、サードプレイスを持つことによってどういったメリットがあるだろうか。オルデンバーグは、サードプレイスに関わることで得られるものとして以下の3つがあるとしている。

サードプレイスの例として、欧米のカフェやパブが挙げられている。例えば、フランスのカフェは、ただお茶を飲むだけでなく、社交の場としても機能しており、芸術家や文豪、政治家が討論を繰り広げ思想を分かち合ってきた歴史があり、コーヒーやケーキの味よりも、人との交流や落ち着いた時間を求めてカフェを訪れている人が多い。また、イギリスのパブは、誰にでも開かれた公共の場所としての役割を担っており、ただお酒を飲むだけの場所ではなく、人々が交流し会話が交わされる社交場として存在している。
一方、日本では上記のようなサードプレイスは浸透しづらいとも言われている。その理由として、日本人の国民性である、見ず知らずの人と気軽に会話することへの抵抗感から、そもそもサードプレイスの8つの要素を満たした場所が存在しにくいということが挙げられる。
(2)日本に馴染みやすいサードプレイスの形
今の生活に満足している人の中には、サードプレイスの必要性を感じない人もいるかもしれない。しかし、自宅や職場以外に居場所があることは、心身のメンテナンスや人間関係の構築によい効果があるといわれている。
先に述べた通り、欧米型のサードプレイスは日本人には浸透しづらいことから、最近では日本ならではのサードプレイスが展開されてきた。石山 恒貴他の『地域とゆるくつながろう!:サードプレイスと関係人口の時代」によると、日本のサードプレイスは「マイプレイス型」と「交流型」に区分でき、さらに「交流型」は「社交交流型」と「目的交流型」に分けることができるとされている。
「マイプレイス型」は、日々の仕事や家事に追われる中で、ストレス解消のため、個人が人や時間を気にせずゆったりと過ごすことができる、自分自身を取り戻すことができる場所のことを指し、カフェや喫茶店などを例としている。自分の時間を過ごすことはストレス解消のためには必要なことではあるものの、人との交流がない以上、人との交流を通じて感じることのできる充実感や自分の価値観を拡げてくれるような人間関係の構築といった、本来のサードプレイスとしての役割を十分に果たしているとはいえないことから、筆者は不十分ではないかと感じている。
一方で、「交流型」は、自宅や職場とは異なる環境で、多様な背景を持つ人々と交流をすることで、日常生活のストレスを解消することができるとともに、多様な価値観や経験に触れることで視野を広げることができ、新たな人間関係を構築し、自己成長にもつなげることができるとされている。「社交交流型」は、地元の居酒屋など、なじみの常連の社交の場として賑やかに楽しむ場のことを指し、レイ・オルデンバーグが指摘したサードプレイスそのものであるとされているが、ここで筆者が注目したいのは「目的交流型」である。「目的交流型」とは、何かを変えたい、よくしたいという共通の目的を持ち、それを達成したいという人が自発的に集まって活動する場のことをいう。共通の目的をもって集まった人々のほうが交流が生まれやすく、より濃密になりやすいのではないだろうか。
以上のことから、日本におけるサードプレイスのあり方として最も効果的で重要な型は「目的交流型」であると筆者は考えるが、これらの考え方を基に、日本のスポーツ施設はサードプレイスに適しているのか、また、どういう事例があるかを考えていきたい。
3.スポーツ施設は「サードプレイス」になり得るのか
現代の日本のスポーツ施設は、複数人で行うスタジオ型のフィットネスクラブや、体を鍛えたい方やストレス発散のためトレーニングマシンのみ設置し、個人で利用するスポーツジムなど様々であるが、どのようなスポーツ施設がサードプレイスになり得るのかを考えていきたい。
スポーツ施設としてまず想像できるのが、筋力トレーニングのための機材や道具のみを置いたスポーツ施設である。公共のスポーツ施設でもこうした場所は多く、利用者は自身の体を鍛えることや、ストレス発散を目的に利用している方が多いだろう。こうしたスポーツ施設は、公共施設だけでなく、24時間営業で会員はいつでも利用できる民間が運営するトレーニングジムでも増えている。これらは、先に述べた日本のサードプレイスの中では、「マイプレイス型」に当てはまるのではないかと考えるが、やはり利用者間での交流があまりないことが考えられることから、サードプレイスとしての役割という点では不十分であるだろう。
一方で、自身の体を鍛えたい、ダイエットをして健康な体になりたいなど、利用者の中でも同じ目的で活動している人もいることから、「目的交流型」にあてはまるのではないかと考えた。例えばスポーツジムでは、全く知らない人同士であっても筋力トレーニングを手伝ったり教え合ったりすることや、スタジオでの集団レッスンで同じ動きをして同じ時間を過ごして一緒に汗を流す、といった場面が想像できる。しかし、こうした交流は、互いにどういう人間かを知ることができるような、新たな人間関係の構築につながるほどの交流ではないと感じることから、サードプレイスとしては十分ではないだろう。
それでは、スポーツ施設はサードプレイスにならないのかというと、そうとも言い切れない。むしろ、交流を生み出すきっかけとして、スポーツは十分な要素を持っている。それを活かすためには、スポーツをきっかけとして、互いの人間性を知ることのできる交流の場や機会があることが理想である。例えば、「スポーツをする場所」しか持たない施設でなく、利用者間の交流を促す仕組みを設けることや、クラブハウスやレストラン等、スポーツをする空間と交流する空間をうまく配置することで、スポーツを通して利用者間の交流を促す工夫があると良いのではないかと考える。
4.交流を生み出す仕組み・しかけ
スポーツを通して、地域の人や利用者同士の交流を生むような工夫をしているスポーツ施設が、愛知県半田市にある「ソシオ成岩スポーツクラブ」である。このクラブは、平成8年に設立された総合型地域スポーツクラブであり、人々が身近な地域でスポ-ツに親しむことのできる新しいタイプのスポーツクラブとして、子どもから高齢者まで(多世代)、様々なスポーツを愛好する人々が(多種目)、初心者からトップレベルまで、それぞれの志向・レベルに合わせて参加できる(多志向)、という3つの特徴を持っている。

このクラブは、学校・地域が共同で利用する施設として運営されており、施設の利用割合は、学校利用(成岩中学校)が65%、地域利用が35%となっている。このクラブは、「スポーツを通して、地域の子どもたちを地域ぐるみで育てること」をミッションに掲げ、これまで学校が担ってきた部活動の実施主体を担い、地域・学校・行政が連携し、多世代にわたる住民スポーツサービスの充実を図ることを目指して活動している。
「スポーツを楽しむ」ことについては、設備の充実はもちろん、利用者のニーズに合わせたサービスを提供している。例えば、トップアスリートを目指し、より高い意識で競技に取り組む子どもたちに対しては、元実業団の選手がコーチとして指導を行い、健康のために体を動かすことが目的の中高年に対しては、健康体操サークルといった気軽にスポーツができる機会を提供している。
また、利用者のニーズは、スポーツをすることだけではない。スポーツをきっかけとして「仲間を作る」ことや社会との繋がりを持つこともそのひとつである。このクラブには、会員が利用できるクラブハウスも整備されていて、一緒にスポーツをした仲間と温浴施設で汗を流した後に、カフェテリアに集って歓談できるようになっている。スポーツを通して交流するきっかけをつくり、利用者同士の交流の場を整備することで、住民の利用頻度の増加に貢献している。
さらに、様々な人との交流を生み出す工夫の1つとして、このクラブでは施設の予約利用は一切受け付けていない。学校の利用やスポーツクラブの事業で一部占有することがあるが、それ以外は基本的に施設を開放し会員が利用できるようになっている。そのため、利用したい施設が被った場合は、利用者同士の譲り合いや話し合いにより協同で施設を利用してもらうことで、お互い名前も知らない子どもや大人が会話する機会を創出している。また、スポーツ以外にも、子育て支援として小学生の放課後の活動をサポートする放課後スクールや学習支援プログラムなども実施している。地域住民や大学生が得意分野を活かした教室を実施することで異世代交流の場を設けるとともに、様々な学校・学年の子どもたちが集まり、自分達でテーマを決め、遊びの中から集団行動でのルールや人に対する思いやり、礼儀など、様々なことを身に付けることができるよう工夫しているようだ。このように、スポーツをだけでなく、子どもや地域住民など様々な主体との交流ができる場となるよう活動を推進している。
5.まとめ
オルデンバーグが提唱したサードプレイスの定義を踏まえて、日本のスポーツ施設はサードプレイスとして成り立つのかについて考えてきたが、その結果、スポーツ施設は十分にサードプレイスになり得るのではないかと感じている。
誰にでも始めやすいのがスポーツや運動の特徴であるが、ひとりで体を鍛えるためにジムに通うことや、スタジオで複数人が行うレッスンに参加することは、ストレス発散や自分の時間を過ごすという意味でいえば有意義な過ごし方であると思う。しかし、それだけでは、サードプレイスとしての恩恵を受けているかは疑問である。
本来のサードプレイスの魅力は、多様な背景をもつ人々と交流することで視野を広げることができたり、新たな人間関係を構築し、自己成長につながったりすることができる場である。スポーツ施設は、こうした日本ならではの「目的交流型」のサードプレイスになる可能性が十分あるが、そのためには、利用者同士の交流が生まれるような仕組みや場づくりが重要である。スポーツや運動することをきっかけに多くの人との交流が生まれ、身体的にも精神的にも充実するようなスポーツ施設がさらに身近になり、利用する人の人生をより豊かにしてくれるサードプレイスとなることを期待したい。
【参考資料】
- 『サードプレイス:コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』レイ・オルデンバーグ著
- 『地域コミュニティにおけるサードプレイスの役割と効果』 石山恒貴、片岡亜紀子 編著
- 『地域とゆるくつながろう!:サードプレイスと関係人口の時代』 法政大学大学院教授 石山恒貴 編著
- 『人が集まる場所をつくる:サードプレイスと街の再生』 国分裕正 著
- NPO法人ソシオ成岩スポーツクラブ ホームページ http://www.narawa-sportsclub.gr.jp/socio/
- スポーツ庁 スポーツ施設に関する調査研究事業(平成27年度)
- 一般財団法人 民間都市開発推進機構 URBAN STUDY Vol.46