若者世代の未来のために


山梨日日新聞No.68【令和7年7月28日発行】

 先月、厚生労働省が公表した令和6年の人口動態統計によると、山梨県の合計特殊出生率(女性1人が生涯に産むと推定される子どもの数)は全国平均の1.15をわずかに上回ったものの、前年の1.32を下回る過去最低の1.26となった。これは、全国的な少子化傾向の中でも、山梨県の出生率が厳しい状況にあることを示している。また、出生率と密接な関係のある婚姻率についても、山梨県は人口1000人あたり3.6人と、全国平均の4.0人よりも低い数値となっている。
 今年度、山梨総合研究所が山梨県民を対象に実施したWEBアンケート調査によると、40歳未満の回答者(n=213)のうち既婚者の幸福度は10点満点中6.88であったのに対し、未婚者は4.94と大きな差が見られた。やりたい仕事の見つけやすさ、適切な収入を得る機会、女性や若者が活躍しやすい社会への満足度においても、それぞれ未婚者は既婚者に比べて低い傾向が明らかになった。

 甲府商工会議所の「新卒者初任給調査」によると、令和6年度の平均初任給は高卒から大卒までいずれも前年より0.52.0%増加している。しかし、山梨県労働局の「令和7年度山梨県の賃金概況」によると、山梨県の全従業員の平均賃金(現金給与総額)は全国平均40万円に対して34万円と6万円低く、地域間の所得格差が浮き彫りとなっている。さらに、年齢や企業規模ごとの賃金差をみると、20代では企業規模による差はさほど顕著ではないが、年齢が上がるにつれてその差は拡大し、特に平均賃金がピークとなる50代前半の男性では、従業員100人未満の企業で36万円、1000人以上の企業では43万円と、約1.2倍の違いが現れている。
 また支出面では、昨今の物価上昇が家計の圧迫を強めている。標準的な生活に必要な基礎的経費である「標準生計費」を全国平均と比較すると、山梨県では世帯人数が少ないほど全国平均よりも生計費負担が重く、1人世帯で+3.0%、2人世帯で+0.2%、逆に3人世帯は-2.0%、4人世帯は-3.4%となっている。つまり、単身世帯や少人数世帯ほど生活費の負担が大きい傾向がみられる。
 賃金アップが進んでいるとはいえ、物価上昇がそれを上回るペースで進行している現状においては、特に単身世帯や若い世代にとって、暮らしの不安や将来に対する心配が増しているといえる。また、年齢を重ねるごとに企業規模による給与格差は大きくなることで生涯賃金や生活の安定度にも大きな違いが生じているという現実が、若者にとって将来への不安を抱かせる要因のひとつとなっているのではないだろうか。
 もちろん、幸せや生活の豊かさは金銭だけで測れるものではない。しかし、経済的な負担が結婚や出産などのライフデザインにまで影を落としているとするならば、住居費や教育費など、若者世代の支出を抑える政策や、地域社会で希望を持って働ける環境づくりなど、様々な取り組みが不可欠である。

 前述のWEBアンケートの結果では、40歳未満の5年後の幸福度は5.8と、現在の5.7よりわずかではあるが高くなっている。これは、未来に対する期待や希望が少なからず存在していることを示している。若者世代が将来、今よりも幸せになるためにはどのような環境や支援が必要か、社会全体でその答えを探ること求められている。

(公益財団法人 山梨総合研究所 調査研究部長 佐藤 文昭