地域課題と資金循環
山梨日日新聞No.72【令和7年9月29日発行】
各地域で生じている様々な社会的課題(以下「地域課題」という)を解決するための活動は全国各地で行われている。そうした活動を資金面から支援する仕組みとして、日本政策金融公庫による「社会的課題の解決を目的とする事業者」向け融資が挙げられる。同融資は、2015年度から開始され、開始当初607件、計7,746億円の実績であったが、最新の2024年度には1,153件、計1兆7,369億円の実績まで拡大している。融資の対象としている主な活動分野は、「保健、医療又は福祉の増進」や「農山漁村又は中山間地域の振興」、「環境の保全」などとなっている。
こうした地域課題解決のための活動に対する資金的支援の一例として、「コミュニティ・バンク」が挙げられる。コミュニティ・バンクとは、各地域で生じている様々な課題解決に取り組むNPOなどのソーシャルセクターに対し、その活動の資金を地域の住民等から募り、活動団体に融資するとともに、活動への伴走を行う役割を果たす組織ないし団体である。
愛知県で初めてのコミュニティ・バンクを立ち上げた木村真樹氏は、地域課題の解決に乗り出したNPOやソーシャルビジネスを応援するため、主として市民からの「地域のために何かしたい」という想いのこもった出資金や寄付金を「志金」と呼び、それらをNPOやソーシャルビジネスが行う地域をより良いものにするための事業に回す、「お金の地産地消」に取り組んでいる。
また、金融機関として、日本で初めてコミュニティ・バンクを宣言したのは、京都信用金庫である。戦前・戦中は主に会員同士の互助的機能が大きかった信用金庫や信用組合が、1951年の信用金庫法の成立を受け、そこから続く高度経済成長の期間を経る中で、主に各地域の中小企業への融資を業務とした地域の金融機関として位置付けられていった。
先に触れた木村氏は、コミュニティ・バンク立ち上げ後、愛知県内初のコミュニティ財団も設立している。そうした地域に根差した住民同士の互助組織の原点として、同氏は「無尽」の存在を挙げている。
当初の無尽は、加入した会員が低額の掛け金を支払い、一定の期日に入札などによって、会員の一人が集まった金額を一括して受け取り、次回はまた別の会員の一人がそれをもらうという、互助的な金融組合としての役割を果たしていた。そうした互助的精神は、現在の無尽にも活きており、またそれを大切に育んできた山梨県民の中に息づいている。つまり“お互い様”の精神で、自分の身の回りで起きている様々な地域課題に対し、出資や寄付を行い、地域の中で資金循環の仕組みづくりを担うコミュニティ・バンクを構築しやすい土壌が既にできているとも言えるのではないだろうか。
コミュニティ・バンクや、現在設立に向けた準備が進められている山梨初のコミュニティ財団が、地域における資金や想いの受け皿となり、小規模ながらも地域課題解決に動くソーシャルセクターの伴走を行うことで、「お金の地産地消」が起こる。それにより、地域においてお互いの生活を支え合う仕組みが広がっていくことが期待される。
(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 宇佐美 淳)