学生志向と地域の未来


毎日新聞No.700【令和7年10月12日発行】

 人生の大きな岐路の一つに、「どこに就職するか」という選択がある。就職は人生の基盤を形づくる重要な意思決定だ。進路は多様化したが、多くの学生はいまも企業や官庁を志望する。では、学生はいまどのような目線で企業を見ているのか。

 マイナビ・日経「2026年卒大学生就職企業人気ランキング」によれば、文系ではニトリが3年連続で1位。続いてみずほフィナンシャルグループ、味の素、伊藤忠商事、日本航空、良品計画などが上位に入った。理系ではソニーグループが4年連続1位、続いて味の素、Sky、KDDI、パナソニックグループなど。トヨタ自動車やデンソーなど自動車関連も根強い上位人気を保っている。
 一方、リクルート就職みらい研究所「大学生・大学院生の働きたい組織の特徴(2024年卒)」によると、学生の就業意識は安定志向が際立つ。「若い企業」より「歴史や伝統ある企業」を選んだ学生は74.1%、自分の成長スタイルでも「短期で急成長」より「無理なく自分に合ったペース」が69.5%と、過度な負荷より持続的な成長を望む傾向が明確だ。また、「個人重視」より「組織目標に向けチームで働く」が76.9%、「自由に任せる」より「密なコミュニケーションと一体感」が77.4%、「仕事と私生活の一体化」より「バランスを自らコントロール」が85.5%と、学生は働きやすさや協調性を重んじつつ、生活との調和を大切にしている。
 こうした意識に応え、人気企業は多様な取り組みを行っている。ニトリは行動方針に「変化」「挑戦」「競争」「コミュニケーション」を掲げ、実務型インターンやSNS発信で学生との接点を拡大。無印良品は「生活者視点の企画力」を育み、若手から商品企画に関われる点が特徴だ。いずれも学生が求める「成長機会」「リアルな情報」に応えようとする。

 企業にとって人材獲得と育成は経営戦略そのものだ。採用広報と職場環境が乖離すれば早期離職を招き、企業価値を損なう。制度整備や透明性、社員の声の発信などが欠かせない。
 このことは山梨県、長野県でも同様である。地元の学生を県内企業に惹きつけるには、単なる呼びかけでは不十分だ。全国規模で比較される時代にあって、地元企業も安定性や成長環境、働きやすさを備える必要がある。学生の目線に応える企業努力と地域全体の魅力づくりが、未来の人材定着と企業価値向上につながるだろう。

(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 在原 巧