地域モビリティ×未来
山梨日日新聞No.74【令和7年11月3日発行】
今日の地域の課題を見ると、深刻になっているのが、住民の高齢化にともなう地域サービスの低下である。地域医療では病院の統合や診療所の閉鎖が進み、通院が難しくなった高齢者が増えている。日用品を買う店が減り、「買い物空白地」は年々広がっている。(人口減少により)公共交通の利用者数も減少し、バス路線の維持が難しくなっている。こうした暮らしの不便さは、移動手段の減少と深く関係しており、「地域モビリティ」は解決手段の一つとして注目されている。
私が、「地域モビリティ」と聞いて思い浮かべるのは、私自身もよく利用する「ゴルフ場のカート」だ。国内のほとんどのゴルフ場ではカートが導入されており、そのうち私の感覚ではあるが9割以上は自動運転で走っているイメージがある。プレーヤーは安全に、効率よくプレーでき、短距離移動を支える乗り物としての実績も十分だ。この技術を地域で活かせないだろうか、そう感じることがある。
では、新たな「地域モビリティ」がもたらす未来の姿はどんなものであろうか。たとえば、すべての運転操作をシステムが行う完全自動運転の車が、自宅前まで迎えに来て、通院や買い物に連れて行ってくれる。宅配や地域のお知らせも自動で届けてくれる。そんな未来も想像ができる。
すでに国内では、「レベル4(限定条件下の無人運行)」が実現段階に入っている。福井県永平寺町では鉄道の廃線跡を活用し、時速12キロで走行する完全無人の移動サービスを開始した。しかし、どんな道路でも、どんな天候でも自動で走る「レベル5」(限定がない無人運行)へ到達するには、なお多くの課題が残されている。
第1の課題は、悪天候や狭い道路などへの対応だ。カメラやセンサーの認識精度が雨や雪で大きく低下するといわれており、細街路や豪雪・濃霧地帯の多い日本では、全天候対応の複数センサーなどの開発が求められる。
次に、高精度地図の作成である。自動運転は道路標識や白線の位置まで正確に把握する必要があるが、工事や災害で情報が変化するたびに更新が必要だ。これに対しては、AIを使った自動更新の仕組みなども考えられる。
法制度の面でも、課題は山積している。「レベル4」では「運行管理者」が責任を負うが、「レベル5」では運転者が存在しないため、事故時の責任や保険の仕組みがまだ定まっていない。国は専用の自動運転保険制度の義務化などを検討している。
技術や制度だけではなく、地域社会の理解も不可欠である。山梨県甲斐市では、自動運転試乗会を通じ、住民の安全への不安が大幅に減少したという。段階的な導入と体験を重ねることで、信頼を築いていく取り組みが重要だ。
さらに、災害対応も見逃せない。停電や通信断時にも安全に停止・退避できる設計、一方ではEVバッテリーを地域の非常電源として活用することも考えられる。
このように、完全自動運転の実現とは、単に「完全無人の車」を意味するだけではない。技術、安全、制度、社会、経済が連動し、人と地域が安心して移動できる「社会の仕組み」を築くことを意味する。地方の実証で得た知見を全国に広げ、日本発の安全で持続可能なモビリティ社会をどう形づくるどうか。それが、未来へ向けての1つの答えとなるのではないかと考える。
(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 在原 巧)