Vol.328 官民連携による自治体の業務効率化について
元 山梨総合研究所 主任研究員
小澤 陽介
1. はじめに
現在、日本の自治体における業務負担が日に日に増しているのを感じている。近年ではSDGsの取り組みや環境問題への対応も求められるなど様々な新しい業務が発生している。既存の業務においても、老朽化した公共施設や市町村合併にともなう、過剰な公共施設の再編などすぐに解決できない課題を数多く抱えている。
一方、自治体の職員数はというと、行政改革の名のもとに、減少傾向にて推移してきた。足元では、新たに増える社会問題への対応などを考慮し増加に転じているものの、各自治体で十分な職員数を確保できているかと言うと、むしろ不足しているというのが現実ではないだろうか。
図表1 地方公共団体の総職員数の推移

こうした問題に対応するため、政府では総務省を中心に令和2年に自治体DX推進計画を策定し、自治体のDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進を図ることで業務を効率化し、行政サービスの向上を進めてきた。確かにDXを推進することで業務効率化につながることは理解できるが、システム関連については予算も大きい事業となり、また、こうした分野に精通している人材は官民問わず不足している状態であることから、上手く進めることができない。同様の課題を抱えている自治体が多いのではないだろうか。
本稿では、自治体の業務効率化策について、先進地での取り組みや、山梨県内の状況を調査する中、今後の展望や可能性について考察する。
図表2 自治体DX推進計画等の概要

2.人口増加のスパイラル
自治体の業務効率化に早急に取り組む必要性を考えたとき、冒頭に記載した目の前の数多くの課題への対応がある一方で、筆者は業務効率化への取り組みが長期的にみると人口の増加につながるのではないかと考えている。
まず、以下の図表3では行政サービスの向上に取り組んでいる自治体を例として示している。この自治体は行政サービスが充実していることから、他の自治体から人口の社会移動が発生する。社会増加したことで出生数も増加し、歳入や人員の増加にもつながり、さらなる行政サービスの向上を図ることができる。こうした自治体になるためには目の前の業務をできるだけ効率化し、創出したリソースを行政サービスの向上につなげる必要がある。そこで、このような自治体が業務効率化を進めるなか、どのように行政サービスの向上につなげているかを紹介する。
図表3 人口増加のスパイラル
3.先進自治体の取り組み
(1)流山市の取り組み
千葉県北部に位置する流山市は、行政サービスの向上における取り組みの先進地と言えるのではないだろうか。流山市のホームページによると、流山市は平成30年の転入超過数が全国8位、政令指定都市を除いては全国1位となっている。また、人口も平成17年以降、毎年増加している。つくばエクスプレスの開通など交通による条件もあるが、長年行政サービスの向上に取り組んできた成果が出ていると考えられる。そこで、流山市が取り組んできた業務負担軽減および行政サービス向上に向けた取り組みを紹介する。
図表4 流山市の人口の推移

流山市では「民間にできることは民間に」、「市民との協働」を方針として掲げており、自治体運営における業務に指定管理制度や民間委託制度を積極的に取り入れている。例えば、おおたかの森市民窓口センターにおける窓口業務や市内小学校の給食調理は民間委託を行っている。学童保育も指定管理者制度を活用することで、自主運営では難しかった夜間の預かりサービスなども実施しており、保護者の負担軽減につながっている。
また、大きな官民連携の活用として、流山市役所等デザインビルド型包括施設管理業務委託事業が挙げられる。これは流山市にある公共施設46施設の設備等の保守管理、点検、法定検査、維持管理等を包括的に委託する業務である。この手法は近年増加傾向にあり、自治体職員の業務負担を大きく減少させることにつながっている。また、民間事業者と連携し、施設を定期的に点検することで、保守業務の質の向上や長寿命化にもつながっている。
こういった取り組みには当然財源が必要となるが、市内施設のネーミングライツの活用や民間による省エネルギー化(ESCO)事業を活用した電気料金の節減などにより、財源の確保にも努めている。
この両輪の取り組みにより自治体職員の業務負担を軽減し、リソースを子育て世帯の行政サービス向上につなげることができている。その結果、子育て世代が流山市を目指し、移り住んできていると考えられる。
なお、市の職員も業務改善の意識が非常に高い。少し前の計画ではあるが、流山市行財政改革・改善プランによれば、市ではトヨタ自動車が導入しているトヨタ方式を導入し、図表5に記載したような業務のムダを徹底的に排除することで、日々の業務改善に取り組んでいる。
図表5 流山市の業務で考えられるムダの例

(2)明石市の取り組み
関西では兵庫県明石市に着目したい。明石市のホームページによると、明石市は9年連続人口増加が続いている。まちの好循環を生み出すことで、人口の増加につなげている。
図表6 明石市のまちの好循環

図表7 明石市の人口推移

明石市はまちの好循環を生み出すため、様々な行政サービスの向上を図っている。そのための業務負担軽減策の事例をいくつか紹介する。
まず、明石市においても、流山市同様、公共施設の包括管理を導入している。明石市では業務範囲に一定金額未満の日常修繕業務を含めている。日常修繕業務を含めることで、以前はそれぞれ担当課が実施していた修繕の発注業務の削減に成功しており、大幅な業務削減へとつながっている。
また、明石市ではDX推進による業務負担軽減に向けて、「明石市行政DX推進方針」を掲げている。また、DX推進については民間企業からの提案も受け付けている。令和6年度には、紙ベースの通知を電子通知に切り替えることで、市民に対し、迅速な通知が行えるほか、発送の作業負担や金銭的負担を軽減できるシステムの導入や、契約に関する事務負担、金銭的負担軽減に向けた電子契約システムの導入などを民間からの提案により、採用している。
図表8 明石市のDX推進に向けた取り組み

4.県内自治体における取り組み
(1)山梨市の取り組み(公共施設一括LED化事業)
山梨県内でも業務効率化が進んでいる自治体がいくつかある。その事例として山梨市では温室効果ガス削減に向けて、公共施設の照明設備のLED化を推進するため、山梨市公共施設一括LED化事業を行っている。本事業では市内公共施設のLED化に向けた、調査、工事、維持管理をPFI・BTO方式を導入し、一括で民間事業者に任せることで、市の業務負担軽減に加え、良好な保全状態の維持や整備コストの縮減を実現できている。
図表9 山梨市公共施設一括LED化事業概要

BTO方式…BTO方式とはPFIの事業方式の一つで、民間事業者が自らの資金で対象施設を工事し(Build)、完成後すぐに公共に所有権を移転するが(Transfer)、維持運営は民間で行う(Operate)形式のこと。
(2)甲斐市の取り組み(オープンデータ)
続いて甲斐市におけるDXに向けた取り組みについて紹介する。同市では、DX推進に向けて若手有志によるプロジェクトチームを組成し、コンサルタントや情報通信企業等との意見交換を実施し、活動報告書である「SMART 甲斐 TARGET 2025-2040」を作成している。本報告書に記載されている内容で、実際に取り組みが行われている事業として筆者が関心をもったのは、市における各種統計のオープンデータを整備している点である。市の人口をはじめ、気象状況や商工業に関する統計など細かくデータが整備されている。一見毎年の更新が必要であり、整備するのに負担がかかると思われるかもしれないが、市として統一した統計データを整備することで、市役所内の各部が重複し、データを作成する必要がなくなることで業務負担が軽減できる。また、住民や研究機関なども統計データを使用できるなど、メリットは大きいと考えられる。
5.終わりに
本稿では、自治体の業務効率化に向けた取り組みについて、先進地域や山梨県の状況について調査を行ってきた。今後も、各自治体の様々な社会課題への対応に伴い、業務負担の増加が想定されることから、既存業務などについては効率化を進めることが不可欠である。しかし、先進的な取り組みを行っている地域とは違い、事例数の少ない山梨県内の自治体においてはノウハウも限られており、積極的な取り組みが難しいと考えられる。将来に向け、国や県が県内自治体にDXの推進やPPP/PFIの事業化が進められるような支援の体制を整備するべく、官民がさらなる連携を深めることを是非期待したい。
〈 参考・引用資料 〉
「公務員数の状況」総務省
「自治体DXの推進」総務省
「令和7年度版流山市総合計画実施計画」流山市
「流山市行財政改革・改善プラン」流山市
「明石市市政ガイド2022」明石市
「明石市第6次長期総合計画」明石市
「明石市行政DX推進方針」明石市

