Vol.329 消防団員「80万人の壁」崩壊後の構造改革
公益財団法人 山梨総合研究所
研究員 望月 泰介
1.はじめに
令和6年元日に発生した能登半島地震は、あらためて地域防災力、とりわけ「共助」の重要性を私たちに突き付けた。道路網が寸断され、公的な救助機関の到着が遅れる中、倒壊家屋からの救出や初期消火、避難誘導の最前線に立ったのは、地元の消防団であった。しかし、その消防団がいま、存続の危機に瀕している。気候変動により豪雨災害が激甚化・頻発化し、地域防災の担い手へのニーズが高まる一方で、その供給源である消防団員数は減少の一途をたどっている。本稿では総務省消防庁が公表している最新のデータなどを基に、消防団が抱える構造的な課題を分析するとともに、県内での直近の事例と先進自治体の取り組みを交え、持続可能な地域防災体制のあり方を考察する。
2.データと災害現場から見る消防団の現状
(1)「80万人割れ」 加速する減少
日本の消防団員数は、長らく100万人が維持の目安とされてきたが、平成2年にそのラインを割り込んだ。その後も減少には歯止めがかからず、令和4年にはついに80万人を下回った。総務省消防庁のデータによれば、令和7年4月1日時点の消防団員数は約73万2千人となり、前年から約1万5千人減少している(図表1)。この減少ペースは人口減少率を超えており、人口減少以外の要因が存在していることを示唆している。
(2)団員の高齢化とサラリーマン化の進展
団員数以上に深刻なのが、団員の構成変化である。かつて消防団の中核を担っていたのは、地域の自営業者や農林水産業従事者であった。彼らは地域に常駐し、平日の昼間でも災害対応が可能であった。しかし、産業構造の変化に伴い、現在では被雇用者(いわゆるサラリーマン団員)が全団員の7割以上を占め(図表1)、山梨県では令和5年4月1日現在で全団員の8割以上を占めている(図表2)。これにより、平日の日中に発生した火災や災害に対して、即座に対応できる団員が極端に不足する「昼間団員不足」が常態化し、一層深刻な状態となっている。
図表1 消防団員数と被用者である消防団員の全消防団員に占める割合(全国)

図表2 消防団員数と被用者である消防団員の全消防団員に占める割合(山梨県)

3.大蔵経寺山の林野火災が突きつけた現実
昼間団員の減少が、実際の現場でどのような事態を招いているか。令和7年1月から2月にかけて発生した、笛吹市と甲府市にまたがる大蔵経寺山の林野火災は、消防団活動の過酷な現実と、その不可欠性の双方を浮き彫りにした。
(1)人手の必要性
本火災は鎮火までに15日間を要し、焼失面積は約30ヘクタールに及んだ。期間中、自衛隊や県の防災ヘリによる空中散水が連日実施されたが、腐葉土の下にある地中の火種までは、上空からの散水のみでは完全に消火できなかった。そのため、地上から直接水をかける活動が必要とされた。甲府市側の現場では、ふもとの水利(消火用の水を取る場所)から火点(火が燃えている地点)までの距離と高低差が障害となった。現場は最大45度の急斜面であり、落石も発生する環境下であったが、団員はふもとから約1.2キロメートルにわたりホースを連結する「中継送水」を行い、山の中腹まで水を送り込んだ。
一方、笛吹市側の現場には水利や登山道が存在しなかった。そのため、団員は斜面に土囊(どのう)や石を積んで足場を確保することから始めた。その上で、約20リットルの水が入る「ジェットシューター(背負い式消火水のう)」を背負い、徒歩で往復して水を運搬した。空中散水だけでは処理しきれない火種に対し、ホースによる長距離送水や、人力による個別の散水を組み合わせたこれらの地上活動が、完全鎮火には不可欠であった。
(2)長期化する活動と団員の疲弊
一方で、この活動は団員に大きな負担を強いる結果となった。消火活動には1,000人以上の団員が動員されたが、2週間に及ぶ活動の中で、平日昼間の動員確保のために、多くの団員が本業を犠牲にして現場へ駆けつけた。「消防団がいなければ地域は守れない」という事実と、「これほどの負担をボランティアに強いて良いのか」という問いが、同時に突きつけられたのである。
4.なぜ、人は消防団を避けるのか
過酷な現場実態に加え、社会的な意識のズレも入団を阻む要因となっているのではないだろうか。そこで、令和7年7月~9月に群馬県が実施した「消防団のイメージ」に関するアンケート結果などから、住民が抱く消防団観と課題を読み解く。
(1)負担感と「タイパ」意識
まず、同アンケートで「あなたの思う消防団のイメージ」を募ったところ、際立ったのは活動の負担に対する切実な声だ。具体的には「休日が潰れそう」「訓練がきつい」「仕事との両立が大変そう」といった回答からは、活動に伴う時間的拘束が重荷となっている実態が浮かび上がる。加えて「飲み会が多い」「上下関係が厳しい」「古い気質」といった旧態依然とした組織風土を敬遠する声も散見される。共働き世帯が一般化し、個人の余暇時間が減少する現代において、消防団活動が「タイパ(タイムパフォーマンス:かけた時間に対する効果)」の悪いものとして敬遠されている証左と言える。特に若年層にとって過度な訓練による時間の喪失や、合理性に欠ける前時代的な慣習は、地域貢献という意義以上に忌避すべき「コスト」としてシビアに認識されているのだろう。
(2)プロ(常備消防)とボランティア(消防団)の混同
回答内容をさらに深掘りすると、別の課題も見えてくる。アンケートには「頼りになる」「かっこいい」「地域を守ってくれてありがとう」といった肯定的な意見も数多く寄せられた。
しかし、ここで見過ごせないのは、消防団に関するアンケートであるにもかかわらず、寄せられた回答の中には「常備消防(消防本部・消防署)」へのイメージや「違いがわからない」といった意見が見受けられることだ。これは、「常備消防」と「消防団」の違いが明確に区別されていないだけでなく、そもそも消防団の存在自体を知らない可能性を示唆している。
「消防=行政サービス(公助)」という認識が広がる一方で、消防団が担う「自分たちのまちは自分たちで守る(共助)」という本来の役割や意義が、地域住民に十分に伝わっていない現状がある。この認識のズレは、住民の意識を「守る主体」から「サービスの受け手」へと遠ざけてしまう懸念がある。結果として、「なぜ自分がタダ同然でやらなければならないのか」という不公平感を助長させ、入団への心理的ハードルを高める一因となっているのではないだろうか。
(3)地域のつながりの希薄化
内閣府の「社会意識に関する世論調査」によれば、近所の人との付き合い方について、昭和50年には「親しく付き合っている」と回答した人が50%を超えていたが、令和6年には「よく付き合っている」と回答した人がわずか9.3%まで低下している。調査方法や選択肢の変更などもあり単純比較は難しいが、半世紀の間に「濃い近所付き合い」が激減し、地域コミュニティの希薄化が劇的に進行している傾向は明らかだ。ここに、消防団員減少の構造的な要因が潜んでいる。
長野県が令和7年1月~2月に実施した調査によれば、入団のきっかけの1位は「先輩団員の勧誘(72.9%)」、2位は「友人・仲間の誘い(10.3%)」となっている。実に8割以上が、既存の人間関係、すなわち地域社会特有の「地縁」を経由して入団しているのが実態だ。つまり、現状の消防団組織は依然としてこの「地縁」の力によって支えられている。しかし、地域のつながりが希薄化しているということは、「自分たちのまちは自分たちで守る」という共助の意識を育む基盤が弱体化していることも意味する。そのため、従来通りの勧誘手法で成果を上げ続けることは、年々困難になってきていると言わざるを得ない。
人間関係という「下地」が薄れる中で行われる勧誘は、予備知識のない転入者などの目には、「得体の知れない負担の押し付け」として映りやすくなってしまっているのではないだろうか。
5.構造改革への挑戦:先進事例に見る解決の糸口
こうした現状を打破すべく、全国の自治体では従来の慣習にとらわれない新たな取り組みが始まっている。ここでは、4つの視点から先進事例を紹介する。
(1)機能別消防団員制度(京都市・埼玉県三芳町)
全ての訓練や活動に参加する「基本団員」に対し、特定の役割や活動のみに従事する「機能別消防団員」制度の導入が進んでいる。
京都市の「学生消防サポーター」制度では、大学生が大規模災害時の災害対応活動の支援や広報活動に従事する。特筆すべきは、市がその活動実績を証明する「学生消防団活動認証制度」を整備し、学生の就職活動におけるアピールポイントとして機能させている点だ。「団員の確保」と「学生のメリット」のWin-Winの関係を構築した若年層取り込みのモデルケースである。
一方、深刻化する「昼間団員不足」への切り札として期待されるのが、退団した「消防団OB」の再活用だ。埼玉県三芳町では、地元の団員OBを機能別団員として採用し、サラリーマン団員が不在となる平日昼間の火災などの対応に特化した部隊を組織している。十分な経験を持つOBが、現役団員の手が回らない時間帯をカバーする。このように、若者の「未来の力」とベテランの「熟練の技」を、制度を通じて適材適所に配置することこそが、持続可能な地域防災の鍵となる。
図表3 学生消防団員数の推移 (全国)

図表4 機能別団員数の推移 (全国)

(2)「体力」から「スキル」へ ドローン隊の結成(富士市)
従来の「体力勝負」の消防団像を脱却し、テクノロジーの活用で安全確保と効率化を図る「スキルベースの組織」への転換も一つの方策である。
静岡県富士市では、令和4年に「消防団ドローン隊」を結成した。民間企業と連携して操縦スキルを持つ人材を養成し、遭難者捜索訓練では上空から要救助者を発見して地上部隊を誘導するなど、実践的な活動を展開している。特筆すべきは、崖崩れの恐れがある場所や急斜面など、危険な場所を人の代わりに捜索できる点だ。二次災害のリスクから団員を守れることはもちろん、困難な現場を無闇に歩き回る必要がなくなるため、団員の肉体的・精神的な負担の減少にも直接つながるだろう。
(3)「現役団員開発アプリ」によるDX改革(須賀川市)
アナログな連絡網や書類作成の負担を減らすため、DX(デジタルトランスフォーメーション)も加速している。
福島県須賀川市の現役消防団員が開発したアプリ「S.A.F.E.(セーフ)」は、火災通知や出動状況の可視化だけでなく、消火栓の点検管理や報酬計算の自動化機能まで備えている。従来、火災発生の連絡は防災行政無線が主な手段であったが、屋内にいる場合や気象条件によっては放送を聞き逃してしまうこともあり、情報の確実性に課題があった。これに対し、アプリ通知は文字情報としてスマートフォンへ即座に届くため、場所を選ばず内容が正確かつすぐに伝わる新たな連絡手段として有用だ。また、「活動報告書の作成」もひとつの負担となっているが、スマートフォン操作で完結する仕組みにより簡略化されている。
こうしたデジタル技術による活動の合理化は、団員が感じる「無駄な手間」を排除し、心理的・物理的な負担軽減に直接寄与する。
(4)「デジタル」と「可視化」で心理的ハードルを下げる(京都市)
若年層の獲得において、入団への不安を徹底して取り除く上での鍵となるのが、入り口の「デジタル化」と、組織内部の徹底的な「可視化」だ。
京都市ではLINE公式アカウントを活用し、トーク画面から直接「入団面談」を申し込めるシステムを整備した。心理的ハードルを引き下げ、デジタルネイティブ世代がスムーズにアクションを起こせる導線を用意した結果、運用開始からわずか3カ月で13人の面談申し込みを獲得している。さらに特筆すべきは、情報発信における透明性の高さだ。同市のホームページでは、市内にある全ての分団ごとの紹介ページを設け、分団長の顔写真付きで分団の特色などを紹介しているほか、公式SNSを活用して日々の活動風景や雰囲気を積極的に発信している。消防団が敬遠される要因のひとつには、どんな人がいるのか分からないといった不安や活動の実態が見えないといったブラックボックス性がある。同市は、分団ごとの雰囲気やSNSでリアルな活動の様子を伝えることで、入団後の活動を具体的にイメージしやすくしている。
ツールで手続きを簡単にし、コンテンツで不安を解消する。この両面からのアプローチは、現代の消防団広報に求められる最適解と言えるだろう。
6.今後の展望
以上の現状と事例を踏まえ、今後の消防団政策には以下の3つのパラダイムシフトが求められる。
①「全員一律型」から「ジョブ型」へ
全員が火を消し、ポンプの操作ができなければならないという一律の活動スタイルから脱却する必要がある。「災害時の後方支援だけ」「昼間だけ」「広報だけ」といった、個人の生活スタイルに合わせた多様な関わり方を許容する「ジョブ型」組織への転換が必要だ。
②「精神論」から「合理性」へ
大蔵経寺山の事例が示した団員の献身は尊いが、そればかりに頼ることは、いずれ組織の崩壊を招くだろう。時代にそぐわない慣習の廃止、資機材の軽量化、ICT活用などの徹底した合理化で、団員の負担を物理的・精神的に最小化しなければならない。
③「顧客」から「当事者」へ
消防団に対する理解や入団への不安を払しょくするため、デジタル技術やSNSを活用して活動の透明性を高め、住民の心理的ハードルを下げる広報戦略が不可欠だ。その上で、消防団を「行政の下請け」ではなく「住民による自衛組織」としての認識を促す必要がある。
また、企業による支援を「地域貢献のブランド」として定着させることも重要だ。 従業員の勤務中の出動を認めたり、団員へ割引サービスを提供したりする「消防団サポート事業所」の認定が、企業の社会的信頼や実際の利益にしっかりとつながる仕組みを作る。 こうして地域経済と消防団活動をうまく循環させ、社会全体で支える環境を整えていく必要がある。
7.おわりに
消防団員の大幅な減少は、地域防災の基盤が揺らいでいる現実を突きつけている。かつてのように、強固な地縁や「お互い様」という精神性だけに依存して組織を維持することは、コミュニティの希薄化が進む現代においてはもはや限界と言わざるを得ない。当然ながら、大蔵経寺山の火災現場で示されたような、地域を守ろうとする団員の「誇り」や「使命感」は、決して失ってはならない尊い価値である。しかし、それのみを原動力として過度な負担を強いる「精神論」への傾倒は、いずれ組織の疲弊と崩壊を招くだろう。
今、求められているのは冷静な構造改革である。ICT活用や活動形態の柔軟化、運用の省力化による徹底した「負担(デメリット)の軽減」。そして、認証制度や団員への割引サービスといった具体的な「メリットの提示」。これらを「誇り」という内発的な動機と組み合わせることで、活動に参加する価値が負担を上回る状態を作り出さなければならない。伝統への敬意を持ちつつも、システムは現代の価値観に合わせて合理的にアップデートする。行政・住民・企業が連携し、過度な負担のない持続可能な体制を築くこと、それぞれの地域が自らの風土に合った「新しい消防団の姿」を設計し、実装していくこと、それらが地域防災の未来を切り拓く確かな一歩となるはずだ。
<出典・参考資料>
総務省 消防団オフィシャルウェブサイト 「消防団に関する数値データ」 https://www.fdma.go.jp/relocation/syobodan/data/scale/
総務省 消防団オフィシャルウェブサイト 「京都府における取組事例」 https://www.fdma.go.jp/relocation/syobodan/torikumi-jirei/26.html
総務省 「消防団の組織概要などに関する調査(令和6年度)の結果」
総務省 「消防団の組織概要などに関する調査(令和7年度)の結果」
総務省 「令和6年版消防白書」
内閣府 「社会意識に関する世論調査」
長野県 「消防団員アンケートの実施結果について」
山梨県 「山梨県消防団員数・被雇用者率の推移 (令和5年4月1日現在)」
笛吹市 「広報ふえふき 3月号」
やまなし in depth 「大規模山火事を食い止めた消防団、激闘の335時間」 https://yamanashi.media/?p=5103
群馬県 「あなたが思う「消防団」のイメージを教えてください!」 https://polipoli-gov.com/issues/216R9lACxkZ4KwVAwzWG
京都市消防局 「京の消防団」 https://www.city.kyoto.lg.jp/shobo/page/0000175954.html