飲み会は浪費か投資か


毎日新聞No.710【令和8年3月1日発行】

 3月に入り、春の気配がいよいよ濃くなってきた。年度末を迎える職場は、異動や退職、そして新人を迎える準備で慌ただしさを増していることだろう。歓送迎会の案内が届き始めるこの季節、昨今の「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視する風潮の中で、ふと考える人も多いのではないか。「会社の飲み会に、時間とお金をかける価値はあるのだろうか」と。

 こうした迷いや負担感は、単なる個人の気分の問題ではなく、多くのビジネスパーソンが抱く共通の実感となっているようだ。ホットペッパーグルメ外食総研が2025年4月に実施した調査では、職場の飲み会のネガティブなイメージとして「気を使い、くつろげない」、「かえってストレスがたまる」、「プライベートな時間が削られる」が上位に挙がる。さらに、今後参加したい職場の飲み会を尋ねた質問では、「どれも参加したくない」との回答が56.2%に達し、過半数が参加に否定的な姿勢を示している。

 かつての私であれば、その感覚に深く共感していただろう。だが社会人として働き、自ら資産形成を始めて投資の仕組みを腹落ちさせた今、私は別の意義を見いだしている。今のタイパ論は、あまりにその瞬間の損得に縛られすぎていないだろうか。
 投資の基本は、目先の損得ではなく、時間を味方につけた複利効果にある。それは飲み会にもあてはまる。その場の2時間だけを切り取れば、コストに見合わない浪費に映ることもあるだろう。しかし、杯を交わして相手の人となりや価値観に触れる行為は、後になって効いてくる信頼資産の積立投資に他ならない。窮地に陥った時、助けてくれるのは積み上げた信頼関係のある「人」だからだ。
 もちろん、時代は変わった。終身雇用は揺らぎ、転職も一般的になった。「この先の関わりが見通しにくい相手に、労力を割くべきではない」という見方も、短期目線では合理的だ。だが流動的な時代だからこそ、組織を超えて残る個人の信頼は、一つのセーフティーネットになり得る。同時に、他者と深く関わり、価値観を受け入れる経験は、自分一人では得られない気づきをもたらしてくれる。それは何ものにも代えがたい人生の財産になるはずだ。目先の損得か、未来への投資か。その視点の違いが、これからの人生の豊かさを決める気がしている。

(公益財団法人 山梨総合研究所 研究員 望月 泰介