若手が辞めない職場とは


山梨日日新聞No.91【令和8年10月12日発行】

 新入社員や若手社員の早期離職は、企業にとって採用・教育コストの損失にとどまらず、将来を担う人材の不足にも直結する。特に人口減少が進み、人材確保が難しくなっている山梨県では、「採用すること」と同時に「若手が辞めない職場づくり」が喫緊の経営課題といえる。
 厚生労働省によると、全国における2022年3月卒業者の就職後3年以内の離職率は、高卒で37.9%、大卒で33.8%であり、概ね3人に1人が3年以内に最初の勤務先を離職していることになる。また企業規模が小さいほど離職率が高くなる傾向も確認されており、中小企業が多い地方にとっては看過できない問題である。
 では、若者はなぜ職場を離れるのだろうか。労働政策研究・研修機構(JILPT)が2023年に実施した調査では、新卒正社員が最初の職場を離職した理由の上位3項目は、男性が「キャリアアップ」「人間関係」「賃金」、女性が「心身の健康」「人間関係」「労働時間・休日・休暇」であった。特に男女ともに上位の「人間関係」における別の調査では、勤続期間1年以内の離職者のうち、「人間関係」を理由に挙げたのは、男性が39.3%、女性が46.4%であるのに対し、勤続期間5年超では男性が20.9%、女性が29.5%まで低下している。
 これらの結果から、若手社員の職場定着には、入社直後から上司・同僚との良好な人間関係を築き、安心して働ける職場環境を整えることが重要だと考えられる。

 この現状に、企業の経営者や部下を持つ上司はどう向き合うべきであろうか。
 若手育成の参考となる考え方に、米国の行動学者ポール・ハーシーと経営コンサルタントのケン・ブランチャードが提唱・発展させた「状況対応型リーダーシップ(SL理論)」がある。
 その骨子は、上司は部下に対して常に同じ指導方法を用いるのではなく、部下の仕事ごとの経験や能力、意欲などを常に確認しながら、成長度合いに応じて方法や関わり方を変えていくというものである。
 これを新入社員育成に当てはめると、入社直後には仕事の手順や期待する成果を具体的に指示する。経験を積み始めた段階では、指示だけでなく対話とフィードバックを増やす。仕事を覚えても自信を持てない社員には、本人の考えや本音を聞き、サポートしながら成功体験を積ませる。一方、十分な能力と意欲を備えた社員には、細かな指示を減らし、裁量と責任を広げ、徐々に仕事を任せていく、などの社員一人ひとりの状況に応じた柔軟な対応が重要となる。

 早期離職対策というと、給与や福利厚生の充実に目が向きやすいが、それらに加えて「この職場なら自分は成長できる」「困った時にはいつでも相談できる」「自身の努力を公平・公正に見てもらえる」といった実感や人間関係への安心感も、職場定着を左右する極めて重要な要素である。
 若手社員の成長度合いを見極めながら、指導方法や仕事の任せ方などを変えていくことは、経営者や上司の立場からすると決して容易ではない。しかし、画一的な「人材育成カリキュラム」に頼らず、日々の対話を重視しながら部下のモチベーションを維持向上させること、また採用後の一人ひとりに合わせた丁寧なマネジメントを実践することが、いま求められている。「若手が辞めない職場づくり」は単なる離職防止策ではなく、これからの企業の持続的な成長と競争力を左右する、経営戦略そのものである。

(公益財団法人 山梨総合研究所 専務理事 降矢 結城)