Vol.339 県内中小企業の成長戦略としてのグループ化のねらいと実践
公益財団法人やまなし産業支援機構理事長(元山梨総合研究所 主任研究員)
山本 盛次
筆者は山梨県内中小企業の経営をサポートする組織に在籍しているが、近年、企業を取り巻く外部環境の変化や賃上げ圧力の増大などへの対応が二極分化する傾向を感じている。厳しい経営環境にあっても余力を残す企業がある一方で、例えば「賃上げ疲れ」で事業継続も覚束ないといった状況にある企業の話も方々で聞くようになった。総体として、困難な状況からの回復力を示す、レジリエンスの弱さを示す事例が多くなってきていることを実感している。
このような事態の招来は、企業を取り巻く外部環境が年々厳しくなってきていることが主因ではあろうが、他にも、本県特有の要因があるのではないかと考えている。
本稿では、その要因として、小規模零細企業が多いという本県中小企業の構造的課題とその影響を明確にしつつ、改善に向けた取り組みとして、「中小企業のグループ化」を提案することとしたい。特に、事業承継やM&Aとの関係性にも着目しつつ、企業の維持存続と成長機会の拡大・成長余力の増大を両立させる方策について、そのスキームや進め方を可能な限り掘り下げたい。
Ⅰ 山梨県中小企業の構造的課題とその影響
1 小規模零細企業の比率が高い山梨の事業所
企業の経済活動の状況を示す直近の基幹統計である令和3年経済センサスによると、県内40,814事業所のうち、個人事業主を含む従業員数1~4人の零細規模の事業所は全体の62.5%を占めており、5~9人規模の事業所とあわせると8割を超える。小規模零細企業の比率の高さは全国的な傾向であるが、全国のデータと比較しても、1~4人の事業所で約6ポイント、5~9人を含む10人未満の事業所で4ポイント余り高いことがわかる。
図1 従業員規模別の事業所比率

県内企業の従業員規模が全国平均より小さいのはなぜか。この点に関する掘り下げた調査は見当たらないが、思うに、本県は宝飾や織物などの地場産業が盛んであるが、これらの業種には家内工業的ものづくりの名残りが多く認められ、その事業規模は概して小規模である。また、地場産業以外の業種を含め、県内中小企業の少なくない割合が個人事業主により構成されていることも影響していると思われる。個人事業主の多さは統計上も裏付けられる。上記経済センサスによると、県内事業所の41.6%は個人事業主であり、全国(31.8%)と比べ10ポイント近く高い。
2 小規模零細企業が多いことの影響
従業員規模が小さいことは、県内中小企業の経営に大きな影響を及ぼしている。
より直接的な影響は、管理部門や経営企画部門への人的資源の配分が十分にできないことである。経理や人事、総務、法務などからなる管理部門は直接的に売上を生む事業部門ではないが、企業全体の運営基盤を支える中核的な機能を担う。また、経営戦略や設備投資計画などを立案する経営企画部門は企業の成長エンジンであり、付加価値生産額を向上させるためになくてはならない存在である。これらの部門に十分な人的資源が投下できないことは、海図のない航海を余儀なくされるこれからの企業経営にとって大きなリスク要因となる。
管理部門や経営企画部門に人的資源が十分に配分できないことは、設備投資計画だけでなく、経営改善や新事業・新分野への進出、リスキリングなど個々の取り組みにも支障を及ぼすおそれがある。近年、新型感染症の流行や国際紛争の頻発など企業を取り巻く外部環境が大きく変化している。そして今後も、地政学リスクをはじめ外部環境の変化に常に晒される、つまりボラティリティの高い状態が定常化することを前提とした企業経営が必要とされることは想像に難くない。具体的な取り組みとして、新たなサプライチェーンの構築やその見直し、成長が見込まれる事業や分野に果敢に挑戦する企業体制の構築、そして生産性向上に直結する従業員のスキルアップなどが欠かせない。そして、こうした取り組みは、従業員規模が小さな現在の体制のままでは難度が高いのである。
従業員規模の小ささが生産性向上に与える影響にも触れておきたい。従業員一人当たりの付加価値生産額を示す労働生産性は、付加価値生産額を従業員数で除すことによって得られる。この労働生産性は企業規模の大きさと正の相関がある。令和2年度法人企業統計調査年報によると、中央値ばかりでなく、上位10%、下位10%のいずれの区分をとっても企業規模が大きくなるにつれて労働生産性も高くなっている。継続した賃上げが企業を取り巻く大きな課題となっているが、その実現には企業規模の拡大が極めて重要である。
図2 企業規模別の労働生産性

Ⅱ 事業承継・M&Aと企業の成長
1 事業承継の現状と課題
次に、企業規模の拡大に資する取り組みとして現在行われている事業承継支援事業の現状と課題について触れる。
筆者が在籍する公益財団法人やまなし産業支援機構は、「山梨県事業承継・引継ぎ支援センター」の実施機関であり、同センターを通じて後継者不在企業を主な対象とする事業承継支援を行っている。事業承継とは、企業の経営権・資産・技術・理念など事業に関わるすべてを後継者へ引き継ぎ、事業を継続させる取り組みであり、親族内承継と第三者承継(従業員承継を含む)とに区分される。第三者承継のうちM&A(買い手企業による売り手企業の合併・買収)は企業価値を存続させるだけでなく、その規模拡大につながる方策とも言え、先述したとおり企業の生産性向上に向けた効果が大きい。
この事業承継を通じた企業規模の拡大を、事業承継診断に基づく支援ニーズの掘り起こしや事業承継計画の策定、譲渡・譲受事業者間のマッチングに至る支援までワンストップで行うのが、事業承継・引継ぎ支援センターの主な業務内容となっている。
事業承継支援事業は、支援ニーズに比べて実際に支援が実施できる件数に限りがあるという量的な課題と、事業承継に対する事業者サイド、特に売り手企業の心理的抵抗感が障壁となりやすいという質的な課題の両面がある。
量的課題は、支援できるのは支援ニーズのほんの一握りのケースに限られるという点に尽きる。事業承継・引継ぎ支援センターは年間60件程度の支援(支援完了ベース)を行っているが、支援ニーズはそれをはるかに上回る。仮に県内中小企業の経営者の年齢が70歳を超える企業を事業承継支援の対象と仮定すると、県内企業の後継者不在率47.5%(令和7年帝国データバンク調査)を乗じた要支援企業数は少なくとも数百社に上る。
表1 事業承継・引継ぎ支援センターによる支援件数(支援完了ベース)

このような量的課題に対しては、事業承継・引継ぎ支援センターが事業承継支援のハブ機関となりつつ、県内金融機関や商工団体などが連携し総力を挙げて支援に当たることにより改善が可能である。
より対処が困難なのは、売り手企業側の心理的抵抗感という質的課題である。対象企業の中には、事業承継支援の声が掛かっただけで抵抗感を示すところが少なくない。買収提案に対する直接的な不快感ばかりでなく、企業の先行きに対するネガティブな評価を受けたと感じる経営者が多いことが、その先に歩を進めることを困難にしている。
M&Aは企業価値を存続させる上では非常に有効な手立てであり生産性向上に資する効果も大きいが、対象企業の多くを「その気にさせる」には工夫が必要である。
一案として、M&Aを行う前段階として、企業間の連携・協働の効果が実感できる「中間ステージ」を挟み込むことを提案したい。なお、この提案は既存の事業承継支援の手法を否定するものではないので、注意が必要である。企業経営者が事業承継の必要性を理解し、支援スキームに協力していただけるのであれば、これまでどおり、当初から事業承継を淡々と進めるのが近道であることは論を待たない。
2 グループ化とその目的
前項で取り上げた中間ステージとは、将来的な事業統合やM&Aを見据えつつも、当面の取り組みとして企業間の連携・協働を進める「グループ化」を指している。
つまり、
- 複数の企業が独立したままの状態で事業連携を進めること
- その事業連携は原則として対等な関係性のもとで実施されること
- 事業連携の成果を見極めつつ将来的な事業統合をも見据えること
の3条件を充足することをもって「グループ化」と称し、企業価値の存続と実質的な企業規模の拡大を実現することを提案したい。
グループ化を含む企業間結合は「アライアンス」と称されることも多い。このアライアンスには上記のグループ化ばかりでなく、資本移転や資本創出などの資本的結合も含むことが一般的であるため、これと区分するため、ここではグループ化と称することとする。
また、経済産業省関東経済産業局は、「令和6年度事業承継・M&Aによる中小企業のグループ化を通じた生産性向上可能性調査事業」を通じ、M&Aを事業承継の手段としてだけでなく、企業の規模拡大や事業の多角化の戦略的手段として活用することを促した。この事業は、成長志向のある親会社がポテンシャルを持つ複数の中小企業を子会社(グループイン企業)化し、グループ一体となって成長を目指すことを企図したものであり、アライアンスと同様、資本的結合を前提としたものである。この経済産業局の事業スキームも同じグループ化と呼称されるものではあるが、M&A等を行った上でのグループ化であり、筆者が提案する、M&A等の前段階としてのグループ化とは異なるものである。
図3 経済産業省が想定するグループ化のイメージ

ここで事業連携としてのグループ化の目的を改めて整理する。
第一に企業価値の存続である。将来にわたり個社で存続することに不安がある企業の価値を永らえることが最初にして最大の目的となる。
第二に企業の成長余力の増大である。生産性向上により継続した賃上げを可能にするとともに企業の投資余力を増加させることが、選別と淘汰の時代を生き抜くために必要である。
第三に事業承継・M&Aの円滑化である。事業連携の成果は直接的な事業効果ばかりでなく、企業風土の均てん化を通じ、M&A等への心理的障壁を取り除く効果が期待される。
3 グループ化の特徴
グループ化の第一の特徴は、「対等な形で参画」できるスキームであることである。
グループ化は通常のM&Aのような「買収する企業」と「買収される企業」といった不均衡な力関係に陥ることなく、対等な関係性で進める事業連携である。後継者不在企業をM&Aで承継するケースではどうしても救済色の濃いスキームとならざるを得ないが、これが売り手企業側の心理的抵抗感の源となっている。このことを踏まえ、グループ化に当たっては上も下もない対等な関係を構築することに、まずは注力する。
グループ化の第二の特徴は「緩やかな連携」から始めるスキームであることである。
もちろん組織や事業全体の包括的な連携・協働でもよいが、参加企業の申し合わせにより部分的・局所的な連携からはじめてみるという、言わば「お試し連携」でシナジー効果の有無をテストするパターンもあり得る。例えば、価格交渉を共同で行うとか、総務や営業部門を共通化して人員を有効活用するといった、部門や業務を限定した事業連携のケースが考えられる。こうした連携を通じ、次の段階に歩を進めることも悪くないと実感してもらえるかが鍵となる。
グループ化の第三の特徴は「企業の統合プロセスを前倒しで実施」することである。
企業の統合プロセスはPMI(post merger integration)と呼ばれ、経営統合によるシナジーを最大化するために、新しい組織体制の下で長期的成長を支えるマネジメントの仕組みづくりや企業価値の向上を推進する取り組みを言う。内部統制やシステムの構築・統合などが主な内容となるが、広義において企業風土を合一化することもその内容に含まれる。合併してもPMIがうまく機能せずに企業内に複数の企業文化が残存するケースは少なくない。このような不幸・非効率を回避するためには、グループ化により経営統合より前の段階で組織・業務のすり合わせを進めることが望ましいのである。
こうして信頼関係を構築し、統合後の摩擦の軽減を図ることが非常に有効である。
Ⅲ グループ化の実践
1 グループ化のステップ
グループ化を進めるためには、概ね次のようなステップを辿ることが望ましい。
図4 グループ化の基本ステップ

第一ステップはグループ化戦略の策定である。これは本来、企業自身が策定することが望ましいが、行政の存在感が大きい本県においては、県や支援機関が通則となる戦略規程を策定することも含めて考えたい。例えば、行政が作成した戦略規程をテンプレートとして各企業が適宜アレンジして活用できるようにすることが期待される。グループ化戦略の内容は、グループ化の目的や対象とする経営資源、その資源の提供や共有の方法などである。また、その経営資源を誰が、どのようにしてコントロールすべきかを定義するとともに、可能な限り複数のシナリオを用意して企業が必要に応じて選択できるようにすることが必要である。
第二のステップはパートナー企業の選定である。グループ化により企業の経営資源を交換・共有することになるので、その相手方を決める必要がある。このパートナー企業の選定は、同じ業種の企業をパートナーとする「水平連携」と、違う業種の企業をパートナーとする「垂直連携」とがある。例えばトラック協会に加盟する他の運送事業者との間でのグループ化が前者であり、部品・材料の調達・仕入から組立・製造、輸送・流通、輸出・販売といった商流の上流から下流までの間の複数の過程で他の企業と連携するのが後者である。
第三のステップは条件交渉である。事業連携の具体的な枠組みやそれに伴う諸条件について、双方で交渉し合意点を見出す。事業連携は最初からコンクリートにせず徐々に成熟させていく柔軟性を持つことが肝要であり、後年における評価・見直しの機会やその方法についても明確にしておくことが望ましい。
第四のステップは合意書締結である。合意した諸条件を書面にして締結する。各企業の経営資源の交換・共有を内容とする文書になるため、紳士協定のような曖昧なものではなく正式な契約書とすることが望ましい。この合意書の締結をもってグループ化が成立したと見なされる。
第五のステップはプロジェクトの運営・管理である。プロジェクト組織をつくり、グループ化を推進する社内体制を確立する。グループ化の成果を実感しやすくするために、参画する企業間の風通しを良くする工夫が必要である。プロジェクトの進行管理を必要以上に形式張ったものにしないことにも配慮すべきではないかと思われる。
第六のステップはグループ化の終結・評価である。グループ化は永遠に続くものではなく必ず終わりの時期が来る。1年で終わるものもあれば10年近く続くものもあるが、いつか終結するということが前提である。終結時にはプロジェクトの評価も併せて行い、次の段階、つまりより広範な事業連携や経営統合協議に進むか否かの判断を行うことも重要である。
2 事業連携の候補領域
事業連携の候補領域としてまず考えられるのは、バックオフィスの共通化である。総務や法務などの管理部門はバックオフィスと呼ばれ、直接売上を生む事業部門に対し、その兵站(ロジスティクス)を担う部門である。先述したとおり、小規模零細企業がバックオフィスに十分な人的資源を割くことは容易ではないため、事業連携により共通化することができれば大きな経営資源の節約になる。
人材育成の共同化も候補領域として考えられる。たとえば、県が実施している「やまなしキャリアアップ・ユニバーシティ」によるリスキリングサービスを共同で受講することにより、必要とするスキルの磨き上げを図る。またその結果を受け、適材適所による人材の再配置を進めることが可能となる。グループ内で企業の垣根を超えた労働移動(転籍)を受容することが、リスキリングの効果を更に高めることにつながる。
また、営業・宣伝業務の共同化も候補領域となりうる。特に、物資やエネルギー価格の高騰に伴う価格改定の交渉を共同で行うことは、特に下請的地位にある企業にとって力強い援軍を得たに等しい効果がある。ブランディングを共同で行うことによりユーザーに対して分かりやすい形で付加価値の高い製品やサービスに関するコミュニケーションを行うことも、連携の効果を発揮するのに適した分野と言える。
さらに、新しい製品・サービスの開発を共同で行うことも候補領域として考えられる。特に、半導体やAIなどの先進領域においてオープンイノベーションを進めることを前提として事業連携を進めることは、オール山梨で他地域との開発競争に打ち勝つために、戦略としてぜひ採用したい領域である。
3 グループ化の効果
グループ化により期待される効果にはさまざまなものがあり、列記すると次のとおりである。
- 人材の有効活用
- 交渉力・営業力の強化
- 新分野展開・業容拡大
- 経営戦略の高度化
上記から分かるように、グループ化は「攻め」の経営に適した戦略と言えるが、元来は個社での存続に、先行き黄信号や赤信号が灯りかねない企業の自己防衛策として立案されたものであることに注意を要する。守るために攻めるのであり、攻めることによってより強固で安定した企業経営が可能になる。
4 行政への期待
グループ化は企業の自主的な取り組みとして行うのではなく、県の政策として推進されることが望ましい。多くの企業にとって経験知のない分野であるとともに、事業連携の効果が十分に発揮されるまでの間の言わばアイドリング期間の採算を確保するための財政支援が必要だからである。
県にはまず、グループ化戦略の策定を行ってほしい。先述した戦略規程の策定を含む全体構想を立案し、県内企業に提示することが望ましい。
次に、グループ化支援メニューの具体策として、県の支援施策の構築を行っていただきたい。パイロット事業に取り組むための直接経費(人件費及び物件費)のほか、企業説明会や個別相談会の開催にかかる経費、伴走支援を行う専門家やコンサルタントの派遣経費などがこれに含まれる。
さらに、企業説明会・個別相談会の開催と並行して、モデル事業に取り組む企業を募集・選定していただきたい。モデル企業は、初手としては規模の小さな同業者組合をターゲットとし、当該組合の理解と協力を得て行うこととしてはどうか。例として、山梨県中小企業団体中央会に加盟する企業組合に呼び掛けてみることを提案したい。
以上の流れにより、山梨発のグループ化事業を、官民挙げて推進していくことが望ましい。
Ⅳ まとめ
事業連携によるグループ化が必要となる背景や目的、具体的な進め方は以上であるが、グループ化は単なる弱者連合ではなく、県内中小企業の成長を加速させる戦略的な取り組みであり、企業にとっての選択肢であることを強調しておきたい。
それは、個社ではできないことをグループで実現することであり、ゆくゆくは、事業承継やM&Aへとつなげていくための心理的ハードルを下げることでもある。
同時に、自ら変わっていかないと生き抜くことが困難になるであろう時代にあって、既存事業の維持存続のみに拘泥することなく、生産性向上・新事業創出・人材活用を同時に達成できる打ち出の小槌を手に入れることでもある。
そうすることによって初めて山梨県産業の競争力強化が可能となるのであり、県内中小企業が将来にわたり、その存在感を確保しつつ成長していくことができるようになるのである。
