Vol.324-1 総合計画の現状と課題 ―前例踏襲からの脱却―
加茂市役所 政策推進課 課長補佐
小柳 貴之
1. はじめに
総合計画が市町村で作られるようになってから、50年以上が経過している。総合計画は総花であると批判されたり、どこの市町村も同じような計画で金太郎飴のようだと揶揄されたりする。しばしば批判される総合計画であるが、地方自治法による基本構想の策定義務が廃止された現在でもほとんどの市町村が総合計画を策定している。
本論の目的は、総合計画の歴史や法制度、策定過程を見ることで、市町村における総合計画の現在の位置を確認し、今後の課題を明らかにすることである。また、総合計画は、都道府県及び市町村で策定されているが、本論では、筆者が基礎自治体の職員であることから市町村の総合計画を対象とする。総合計画は基本構想、基本計画、実施計画の3層で構成されることが多く、策定が義務付けられていた基本構想のみを策定するケースは少ないことから、特に断りがなければ、これらの計画体系を本論では総合計画と呼ぶこととする。
2. 総合計画の歴史
基本構想の策定が市町村に義務付けられ、総合計画が策定されるようになってから50年以上が経過しているが、長い歴史の中でどのように変化してきたのか確認する。
1966年に旧自治省が計画づくりのガイドラインともいえる「報告書」を作成し、ここで基本構想、基本計画、実施計画という3層の計画体系が示された。その後、1969年の地方自治法改正によって基本構想の策定が義務付けられた。総合計画が制度として姿を現すのはこのときであるが、法改正を行った国の動き以前に、国の経済・国土計画の影響をうけて地域開発計画の策定ムードが県レベルを中心に広がっていて、地方自治法の改正は長期総合の自治体計画に拍車をかけただけだとも指摘される(松下:1999)。基本構想の策定が義務化されたことで、全国の市町村で総合計画が策定されるようになった。1980年代後半に入ると、旧自治省の調査によれば、計画の策定率は基本構想が90%、基本計画が80%、実施計画が70%を超え、計画が十分に定着したことから1995年まで行われていた旧自治省の調査は実施しないこととなった(新川:2003)。
1990年代に入ると地方分権改革が進められ、義務付け・枠付けの見直しが行われた。こうした見直しの動きから、2011年に地方自治法が改正され、「市町村は議会の議決を経て基本構想を定める」という規定が削除された。総合計画は法定計画から任意計画へと変わったのである。
国レベルの計画づくりの動きとして、2015年にまち・ひと・しごと創生法によって、市町村が地方版総合戦略(以下「総合戦略」という)を策定することが努力義務とされた。「総合」という言葉から総合計画との違いがわかりにくいが、国から示された策定のための手引き[1]によれば、総合戦略は人口減少克服・地方創生を目的としているが、総合計画等は各地方公共団体の総合的な振興・発展などを目的としたものであり、KPIの設定が義務付けられていないことから、総合戦略は総合計画とは別に策定されることが求められた。ただし、見直しの際に手引きに示された総合戦略に求められる要件を充たせば、総合戦略と総合計画の一体化は可能とされ、基本計画と総合戦略を一体化する団体は増加傾向(三菱UFJ:2024)にあり、従来の総合計画のあり方から変化が見られるようになった。
3. 総合計画の策定状況
基本構想の策定義務は廃止されてから10年以上が経過している。基本構想の計画期間は10年であることが多いことから、市町村が総合計画を続けようとしなければ、既に計画期間が終了しているケースが見込まれる。
2024年度の策定状況を見てみると、基本構想が95.1%、基本計画が92.1%、実施計画が77.8%となっている(図1)[2]。地方自治法による基本構想の策定義務はなくなったが、9割以上の自治体が基本構想、基本計画を策定していることが確認できる。

図1 市区町における総合計画の策定状況
4. 総合計画を策定する根拠
市町村は法的な根拠に基づいて活動すべきものであるが、総合計画の法的な根拠は何か確認してみる。1969年の地方自治法改正によって、市町村は議会の議決による基本構想の策定が義務付けられ、当時は地方自治法が策定の根拠となっていた。しかし、地方分権改革で計画等の策定及びその手続きの見直しが行われ、2011年の地方自治法改正により、基本構想の策定を義務付ける規定は廃止された。基本構想の策定は国によって義務付けられていたが、その規定がなくなった現在では、市町村が総合計画を策定し、それに基づいて行政運営を行うには市町村自らが何らかの法的な根拠を持つことが必要となった。
では、市町村はどのような法的根拠によって総合計画を策定しているのだろうか。日本生産性本部のアンケート調査によれば、「議決すべき事件を定める条例」が最も多く、次いで「総合計画条例」、「自治基本条例」と続き、総合計画を策定する何らかの根拠条例がある市区町が89.7%となっている(図2)。日本生産性本部は2016年にも同様の調査を行っているが、前回の調査では、総合計画を策定する「根拠はない」が22.3%であったのに対し、今回の調査では、15.2%に減少している。これは、総合計画の義務付けが廃止されたからやめようということではなく、市町村が法的な根拠を持って総合計画を策定し、行政運営に活かそうとしていると考えられる。

図2 市区町における総合計画を策定する根拠
総合計画を作る法的な根拠について見てきたが、各市町村において予算や条例を議決する重要な役割を果たしている議会はどのように総合計画に関与しているか見てみる。
総合計画を議決対象としている市区町の割合を見てみると、基本構想は78.8%、基本計画は35.9%、実施計画は5.4%である(図3)。計画によって大きく異なるが、これは、基本構想、基本計画、実施計画の順に計画期間が短くなり、計画内容もより具体的になることが影響していると考えられる。計画の運用に融通性を持たせたい、事務効率などが要因であろう。総合計画によって事務事業や予算をどこまで統制するかはとても難しい問題である。

図3 市区町における総合計画の議決実施状況
5. 総合計画の策定過程への市民参加と職員参加
総合計画、特に基本構想の目的は総合的かつ計画的な行政運営を図るためであるが、策定過程に市民や職員が参加するケースが多く見られる。総合計画の策定には市民参加・職員参加の手続きが不可欠である(松下:1991)ことが指摘されているが、なぜ総合計画の策定過程に市民参加や職員参加が必要なのか、また、市民や職員がどのように関わっているのか見てみる。
パブリックコメント、市民アンケートは9割以上の一般市で広く採用されている(図4)。これは、幅広く効率的に意見を集めることができる点が多く採用されている理由だと思われる。アンケートは統計学的に根拠にできる回答数があれば、審議会や議会、市民に対して説得力のある説明をすることができる。
対面型の意見収集としては、市民ワークショップが63.4%、若年層からの意見収集が48.9%、自治会・町内会からの意見収集が32.3%、市民説明会24.0%となっている。総合計画の策定過程に市民が関わることで、政策に関する議論を通じてあらかじめ合意形成を図ることができ、実施の段階での反発を抑えられるとされる。
次に、職員の参加について見てみる。行政が作る計画なので職員の参加は当然であるが、コンサルタントやシンクタンクに丸投げ、企画担当部署の職員だけが書いている等の問題が指摘されていた。本論でいう職員参加は、計画の担当職員だけでなく、分野ごとの多くの職員が関わることとするが、その意味で職員参加による計画策定の3つの効果として、①政策の総合化、②内製化による信頼の醸成、③人材育成・活用があげられている(松井:2024)。

図4 一般市における総合計画策定過程への市民参加の状況
筆者は、業務として総合計画の策定過程で市民ワークショップや審議会を見てきた。市民ワークショップでは、市民のグループに職員が加わって話し合うことで、行政が取り組むべき課題を共有したり、行政の取組やその狙いを市民に説明したりできるなど、さまざまなメリットがあったと感じている。審議会のテーマごとの分科会では、委員と政策分野別の職員が議論することで、さまざまなプロセスを経た計画案の方向性が正しいのか確認できたと感じている。市民・職員の計画策定過程への参加は、市町村の政策形成能力の向上にもつながるのではないだろうか。
6. 総合計画をめぐる近年の動向
総合計画をめぐる近年の動向として、①総合戦略、②国の計画行政の見直し、③SDGsの3点を取り上げたい。
(既に述べたとおり、)2015年にまち・ひと・しごと創生法で総合戦略を定めることが努力義務とされたが、同年10月までに一定の要件を充たした総合戦略を策定すると市町村に交付金[3]が交付されたことから、総合戦略の策定は進んだ。総合戦略策定の手引き[4]において、総合計画等と地方版総合戦略の相違点として、①目的が異なる、②政策範囲が異なる、③数値目標は重要業績評価指数を設定するなど手法が異なる点が指摘されているが、基本計画と総合戦略の一体化を行う市の割合は増加傾向にある(三菱UFJ:2024)。
2021年には、これまでの国の総合戦略はデジタル田園都市国家構想総合戦略として見直され、県や市町村にも地方版総合戦略の策定・改訂に努めるよう通知が出されている。デジタル田園都市国家構想総合戦略に対応した総合戦略とは別に総合計画を策定している一般市は60.6%であり(三菱UFJ:2024)、既存の総合戦略と総合計画の関係と大きな変化はないが、今後一体化が進むのか注目される。
国による効率的・効果的な計画行政に向けた見直しも進められている。総合計画は国による策定の義務付け等はないが、2023年に「計画策定等における地方分権改革の推進について~効率的・効果的な計画行政に向けたナビゲーション・ガイド~」が閣議決定され、計画行政全般について見直し方針が示されている。その内容としては、国が計画の形式を規定しないことや、計画の策定にあたっては「できる規定」を優先的に検討すること、関連する既存の計画等の統廃合など計画等の策定にあたっての方針や、国・地方の事務負担の適正化が示されている。こうした方針に従って、国・地方の計画行政のあり方も見直しが進められていくものと思われる。

図5 一般市における総合戦略と総合計画との関係
2015年に国連で採択されたSDGsに取り組む自治体が増えている。一般市では、SDGsに「取組を実施している」が77.8%、「取組の推進に向けて具体的な検討をしている」が5.5%となっていて、過去のデータと比較するとSDGsの取組は大きくなっている。また、実施している取組の内容としては、「目標達成に向け、既存の計画にSDGsの概念や要素、取組を盛り込む」が91.1%、「具体的な事業を実施する」が36.9%となっている(三菱UFJ:2024)。計画に盛り込んだ割合に比べて事業を実施する割合が半分以下になっていることから、計画しても実施が難しい状況があるように推察される。
7. 総合計画のこれからの課題
これまで総合計画の歴史的な変化を見てきたが、総合計画のこれからの課題として2点指摘したい。1点目は、前例踏襲ではなく、各自治体が総合計画を定める目的と使い方を明確にすることである。総合計画は実に多機能である。他の市町村が総合計画を作っているから、という理由で作ると、時間と労力と予算がかかるわりに、行政も市民も有効性が感じられないのではないだろうか。計画を作るまでは熱心に取り組まれるが、作った後は使われず、机にしまっておかれる計画書になりかねない。多くの市町村は総合計画を国からの義務付けによって、言わば外発的に作り始めたものであるが、各市町村が総合計画を作る目的を明確にすることによって非常に多くの効果をもたらすことができる可能性を持っている。たとえば、財政難が問題となっている自治体であれば事業と予算を統制する機能を強化すればよいし、もっと大きな自治体の方向性を示したいのであれば、構想やビジョンを示すものにすれば良い。国から示されたモデルにとらわれず、これからの行政運営に必要な計画にする必要があるのではないだろうか。
2点目は、計画の内容だけでなく、策定や実施、検証においても人口減少を十分に考慮することである。自治体の人口が減少することは既に指摘され、指標の設定においてもむやみに右肩上がりにしない、人口減少に対応できる自治体づくりが求められている。計画を作る自治体の職員も減少することから、策定過程においてワークショップをこれまでと同じ回数を実施したり、計画を検証したりすることが難しくなることも考えられる。国が計画行政の見直し方針を示しているが、特に小規模な市町村では、策定・実施・検証などの見直しが急務になるのではないだろうか。
総合計画の策定も運用も自由になったからこそ、それぞれの自治体がおかれている実情を踏まえて、どのように使っていくか、市民も巻き込んで十分に検討して活用していくことが必要ではないだろうか。
【参考文献】
竹内直人・松井望ほか(2024)『自治体戦略としての「総合計画」-職員参加と住民参加を踏まえた策定・実施に向けて』第一法規
新川達郎(2003)「自治体計画行政の現状と課題」『都市問題』第94巻10号、3-26
日本生産性本部(2024)「令和6年度『自治体総合計画に関するアンケート調査』結果」
松下圭一(1999)『自治体は変わるか』岩波書店
三菱UFJリサーチ&コンサルティング自治体経営改革室(2024)「令和5年度 自治体経営改革に関する実態調査 報告書」
[1] 内閣府地方創生推進室(2015)「地方版総合戦略策定のための手引き」。
[2] この調査では、村は団体数が少ないため調査対象から除外されている。
[3] 内閣府地方創生推進室(平成27年11月10日付け)「地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金(地方創生先行型) 地方版総合戦略先行策定分(タイプⅡ)の交付対象の決定について」<https://www.chisou.go.jp/sousei/pdf/h27-11-10-uwanose-type2.pdf>(最終閲覧日:2025年7月13日)。
[4] 内閣府地方創生推進室(2015)「地方版総合計画策定の手引き」<https://www.chisou.go.jp/sousei/meeting/tihousousei_setumeikai/h27-04-03-siryo1-1.pdf>(最終閲覧日:2025年7月23日)。
