Vol.325 まちの緑地のインフラとしての可能性


公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 清水 季実子

1. はじめに

 近年、熱中症患者が多発し、酷暑とも災害級ともいわれる夏の暑さや、一度雨が降れば局地的に滝のような雨となり災害が発生する豪雨など、日本国内にいるだけでも気候変動による様々な影響を嫌でも感じざるを得ない状況となっている。そのような現状の中で、自然が持つ多様な機能を活かしながら、社会課題を解決しようという取り組みについて考えたい。

 

.緑地の多様な機能

 森林等を含め緑地には、地表面の温度低減や雨水貯留の効果をもつことが知られている。森の中や木陰を歩いたとき、涼しいと感じた経験を持つ方も多いのではないか。緑地には、以下のような機能があり、周辺環境の気温緩和や豪雨災害の軽減につながる他、人にとって心身に好影響を与えてくれる存在でもある。

2-1.気候変動対策

 緑地は、植物の光合成によるCO₂の吸収源としての役割を担うとともに、屋上緑化や壁面緑化による建物外壁等の表面温度の上昇や蓄熱の防止、植物の蒸散や緑陰による地表面等の温度の低減等を通じて、ヒートアイランド現象を緩和し、都市内に冷涼な空間を形成する機能を有している。

2-2.生物多様性の確保

 緑地は、動植物の生息地・生育地として地域固有の生態系を支える基盤であり、また、都市の住民がその生態系を学び、保全等に関わることのできる身近な場所でもある。ネイチャーポジティブ[1]の実現に向けて、良好な自然的環境を有する緑地の保全、再生が求められている。

2-3.防災力の向上

 緑地は、地震等による火災時の延焼を防ぎ、避難地・避難路等となることに加え、気候変動に伴う自然災害の激甚化・頻発化が懸念される中、雨水の貯留・浸透による浸水被害の軽減、急傾斜地等における土砂災害防止など、気候変動による影響への適応策としての機能を有するものである。それが、流域治水等の観点から都市のレジリエンスを高めるインフラとして再認識されている。

2-4.Well-beingの向上

 緑地は、大気や水質の改善、騒音の低減、異常気象やヒートアイランド現象の影響の緩和等を通じて、都市環境に起因する健康リスクの軽減に寄与すること、また、ストレスの緩和やリラックス効果、身体活動、住民の相互交流の促進、コミュニティの結束強化等を通じて、精神的・身体的・社会的な健康の増進といったWell-being(ウェルビーイング)にも寄与する存在である。

 

.グリーンインフラストラクチャーとは

 近年、持続可能な社会と経済の発展に寄与する「グリーンインフラストラクチャー(以下「グリーンインフラ」)」が注目され始めている。
 グリーンインフラとは、米国で発案された社会資本整備手法で、自然環境が有する多様な機能をインフラ整備に活用するという考え方を基本としており、欧米を中心に取組が進められていた。
 日本では、第二次国土形成計画(H27.8)で初めてその言葉が登場し、その後「第4次社会資本整備重点計画」他、様々な政府の計画で位置付けられ、「国土の適切な管理」「安全・安心で持続可能な国土」「人口減少・高齢化等に対応した持続可能な地域社会の形成」などを推進する上での課題への対応の一つとして、グリーンインフラの取組を推進してきた。
 国土交通省の「グリーンインフラ推進戦略2023」によると、グリーンインフラとは「社会資本整備や土地利用等のハード・ ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・ 都市・地域づくりを進める取組」とされ、社会課題の解決を図る社会資本整備やまちづくり等に自然を資本財(自然資本財)として取り入れ、課題解決の基盤として、その多様な機能を持続的に活用するものとなっている。
 グリーンインフラの目指す姿は「自然と共生する社会」で、自然と共生する社会として、以下の4つが掲げられている。

  • 自然に支えられ、安全・安心に暮らせる社会
  • 自然の中で、健康・快適に暮らし、クリエイティブに楽しく活動できる社会
  • 自然を通じて、安らぎとつながりが生まれ、子どもたちが健やかに育つ社会
  • 自然を活かした地域活性化により、豊かさや賑わいのある社会

 「防災・減災」だけでなく、「地域振興」や「環境」など様々な効果を発揮する取組となっている。
 なお、グリーンインフラ推進戦略2023におけるグリーンインフラのグリーンは、「ネイチャー(自然)」であり、樹木や花等の「緑」のみならず、土壌、水、風、地形といったものも含まれると定義されている。
  日本は、四方を海に囲まれていること、山地が多いため急峻な地形や急流の河川が多いこと、火山が多いことなどの特徴の他に、アジアモンスーン地域に位置していることから、夏から秋にかけて台風の経路となっている。このような諸条件の結果、日本は自然災害の多い国となっている。そのため、古来より自然と対立するのではなく、自然とうまく付き合うという文化を築いてきた。それは、グリーンインフラの目指す姿「自然と共生する社会」と近い感覚のものであると言えるだろう。山梨県の信玄堤も、古来より自然と調和しながら生活を営んできたことがわかるグリーンインフラの一例といえる。 

 

4.本県におけるグリーンインフラ

 グリーンインフラの概念は広く、市街地にある庭や公園、街路樹、田んぼや畑などの人の手が加わっているものの他に、森林や人間が立ち入ることすら困難な原生自然まですべてを含む。
 「自然に支えられ、安全・安心に暮らせる社会」の面からみると、山梨県は、すでにグリーンインフラを豊富に有している。周囲を山に囲まれた山梨県の森林面積は約348,283ha(令和4年度森林資源現況調査)、森林率は78%(都道府県別森林率・人工林率 R4.3.31現在)である。日本全体の森林率の平均は、67%であることから考えると、かなり高い値となっている。
 森林の主要な機能である水源かん養機能は、水の貯留、洪水の緩和、水質の浄化といった機能からなり、雨水が川へ流出する量を平準化し、おいしい水を作り出すことができる。また、森林は、土砂災害(土砂の流出や崩壊)を防止する機能も併せ持っている。山梨県の森林の4割程度(144,000ha)を占める県有林は、国際的なFSC®森林管理認証[2]を取得しており、対外的にも適正に管理していることが認められている。適正に管理された森林は、水源かん養や土砂災害防止機能が高く、グリーンインフラとしての役割を十分果たすことができると考えられる。
 他にも、県内には果樹園をはじめとした農地や河川などの多くのグリーンインフラがある。これらは、山梨県の人々の暮らし、文化などと密接に関わりながら育まれたものであり、今後も守り育んでいきたいものである。

 

.水の循環からグリーンインフラを考える

 市街地のグリーンインフラについて、個人でも貢献しやすい水の循環について、国内の事例から考える。
 線状降水帯などの発生に伴い、局地的に大量の雨が降り、家屋の浸水や膝まで浸かった状態で歩く人などをニュース等で見ることがあるが、アスファルトやコンクリートで覆われた市街地では、地下に水を浸透させて貯留することができず、降った雨はすべて下水道を経由して川などに排出されることになる。しかし、雨量が多く下水道の容量を超えてしまった場合、河川等に排出できなかった水により氾濫が発生する。つまり、下水道へ流れる水のピークを小さく、もしくは遅らせることができれば、氾濫を防止または軽減できる。そのため、すでに日本各地でグリーンインフラを用いた様々な取り組みが始まっている。

 東京都では、雨水流出抑制に資するとして、令和7年3月に「あまみずグリーンインフラCONCEPTBOOK」を発行し、グリーンインフラの普及啓発に努めている。

 

 また、京都市でも、地上に降った雨水を下水道に直接放流することなく一時的に貯留し、ゆっくりと地中に浸透させる構造を持った植栽空間として「雨庭」の整備を進めている。

「雨庭」のイメージ:雨水を地中に浸透させやすくするため、植栽の周辺に、砂利などを敷き詰めた「州浜」を設けている。砂利などは、深いところで約50cm の厚みがあり、砂利の隙間に雨水を一時的に貯留しておくことができる。また、四季を感じられるよう、様々な植栽も植えられている。

道路の縁石の一部を「穴あき」のブロックに据え替えることで、歩道上や直接「雨庭」内に降った雨水だけでなく、車道上に降った雨水も「雨庭」の中に取り込みます。(京都市ホームページより)

 

 最近の個人宅では、管理の手間と駐車場スペースの確保などから、全面が舗装されている庭をよく見かけるが、一部だけでも舗装せず、管理の手間の少ない樹木などを植える、また、地方自治体や企業も市街地に施設を整備する際はある程度まとまった緑地を確保し、グリーンインフラとして活用してはどうか。雨水を貯留するだけでなく、暑さをやわらげる、まちの美化などの効果も同時に期待できる。
 東京都や京都市は、人口が多く、市街地において舗装面も多く、山梨県と比較し、地域の課題としてより切迫しているのであろう。4で述べたように、山梨県にはすでに森林というグリーンインフラが整っているとともに、近年、自然災害の被害を比較的受けていない印象がある。しかし、今後、自然災害が激甚化・頻発化するといわれており、山梨県でも事前の備えは肝心であろう。

 

.最後に

 地方自治体がグリーンインフラを整備する際は、本来の地形、生えていた植物などの情報を踏まえ、整備・管理方針などを作る必要がある。植物が適正に生育してこそ、グリーンインフラの持つ多様な機能が発揮できる。
 世界規模の気候変動に対し、何かしなければ、何かしたいけど、何ができるのかというモヤモヤした気持ちを持つ人もいるだろう。グリーンインフラという言葉だけみるととても大掛かりな施設や設備で何かするというイメージを持つかもしれないが、今回は紹介できていないが、国や地方自治体が整備するような大掛かりなものもあれば、個人にできる小さなこともある。自宅の庭に雨水が結果として貯留されているだけでも豪雨災害の緩和や気候の緩和に一役買っているだけでなく、気温の低下や生き物の生息の場などの機能も有することになる。自宅の庭の管理だけでなく、地域にある緑地の維持管理などに地域の人々の活動を広げることができれば、地域活性化にもつながる。自分たちの生活を守るため、また心地よくするため、できることから一歩踏み出してみれば、よりよい未来につながっていくに違いない。

 


 【参考図書など】

グリーンインフラ推進戦略2023(国土交通省 令和5年9月)

やまなしの県有林(山梨県森林環境部県有林課 2025年)

あまみずグリーンインフラCONCEPTBOOK(東京都都市整備局 令和7年3月)

「雨庭」とは・・・(京都市ホームページ)

実践版!グリーンインフラ(グリーンインフラ研究会)

 

[1] ネイチャーポジティブ:自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること

[2] FSC®森林管理認証:環境、社会、経済の便益に適い、きちんと管理された森林から生産された林産物や、その他のリスクの低い林産物を使用した製品を目に見える形で消費者に届ける仕組みのこと。森林管理認証と加工・流通過程認証の2種類の認証がある。