社会から孤立する高齢者


山梨日日新聞No.70【令和7年9月1日発行】

 私が地域包括支援センターに在籍した四年間で直面した、現代日本社会の喫緊の課題の一つである高齢者の社会的孤立。地域社会における人間関係の希薄化が進む中で、もはや一部の特殊なケースではなく、誰の身にも起こりうる深刻な社会問題となっている。

 この問題が引き起こしている悲劇の一つに、他者との交流が途絶えた末の「孤独死」がある。急な体調不良に見舞われても助けを求める術がなく、発見が大幅に遅れてしまう。また、認知症の進行や気力の低下が、食事や服薬、入浴といった基本的な生活行為の放棄につながる「セルフ・ネグレクト」という状態に陥ることもある。
 問題の根深さは、その「孤立」という特性ゆえの発見と介入の困難さであり、加えて核家族化の進展と地縁的なつながりが脆弱化し、かつて地域社会が自然に有していた、「緩やかな見守り」という名のセーフティネットが、だんだんと機能不全に陥ってきていることにある。
 令和7年度の山梨県の「高齢者福祉基礎調査結果」によると、県の高齢化率は31.9%に達し、五年前から1.5ポイント上昇している。だが、より注目したいのが在宅ひとり暮らし高齢者の割合であり、高齢者人口の26.7%、つまり4人に1人以上が単身で生活しているということである。この数字は五年で3.6ポイントも増加しており、高齢化そのものを上回るペースで加速している。避けられぬ高齢者人口の増加と相まって、孤立のリスクを抱える層が確実に拡大していくという未来を示している。

 では、この静かで深刻な危機に、社会はどう向き合うべきだろうか。国や自治体の制度改革という大きな枠組みだけでは決して乗り越えられないところまできている。行政という「公助」の限界を前提とした、企業や地域、そして個人をも巻き込む重層的な社会システムの構築が必要となってくる。
 その中核となるのは、国が推し進める「地域包括ケアシステム」という、高齢者が住み慣れた地域で、医療や介護を受けながら自分らしく暮らし続けることを、地域全体で支える仕組みである。その理念が地域社会へ浸透することが重要であり、専門職によるサービス網の構築に留まらず、ボランティアによる見守りや地域サロンの活性化など、住民同士の「顔の見える関係」という、温もりある社会資本の再構築が必要だろう。
 地域に根差す企業の役割も大きい。人生百年時代における、定年という画一的な区切りを見直し、高齢者が培った知識や経験を社会に還元できる場を提供する。それが経済的安定をもたらすとともに、高齢者の社会的な役割意識の醸成や孤立の防止につながっていく。
 同時に、個人レベルでの社会との継続的な関わりと、地域への参画も必要である。それは将来の孤立を防ぐための「自助」であり、ひいては地域全体を支える「共助」にもつながる。隣人への挨拶や地域の活動への参加など、その一つ一つの小さな行動こそが、希薄化したコミュニティに新たなつながりを生む原動力となっていくだろう。

 社会全体で支え合う意識を持つことが、この先の未来をより良くしていくための第一歩となるはずだ。この課題を単に「問題」として捉えるのではなく、誰もが安心して暮らせる持続可能な社会をデザインする好機と捉える視点が、今、私たちには求められている。

(公益財団法人 山梨総合研究所 研究員 望月 泰介