ナイトタイムエコノミー


山梨日日新聞No.71【令和7年9月15日発行】

 「新宿から甲府まで特急電車で90分」。本県の立地をアピールする場で耳にする常套句だ。首都・東京との隣接は、時として薬にもなるし毒にもなる。その一例が観光である。
 本県の観光振興における課題のひとつとして、客の多くが日帰り観光にとどまることが挙げられる。山梨県観光入込客統計調査によると、令和5年に本県を訪れた県外観光客の居住地は「東京都」が28.7%で最多、次いで「神奈川県」19.6%、「静岡県」16.1%、「埼玉県」8.3%、「千葉県」6.2%であり、東京圏が約6割を占めている。また、県外観光客の滞在状況をみると、令和5年は52.1%、令和4年は57.7%が「日帰り」であり、都心から日帰りで楽しめる距離感が集客に寄与している様子がうかがえる。
 一方で、滞在時間は観光消費額に影響する。同調査の県外観光客における令和5年観光消費額単価をみると、日帰り客の6,816円に対して宿泊客は23,380円と約3倍であった。また、観光庁が公表するインバウンド消費動向調査(令和6年結果)では、本県は訪日外国人旅行者の平均泊数が1.1泊、一人あたり消費単価が2.5万円に対し、長野県は平均泊数が3.6泊、一人あたり消費単価が6.3万円に上る。滞在時間の長さは観光消費額全体の底上げに大きく貢献する。

 長期滞在を促す仕掛けとして注目すべきは、「ナイトタイムエコノミー(以下、「NTE」)」である。NTEとは夜間の経済活動のことで、観光庁の定義によると「18時から翌朝6時までの活動」を指す。夜間と聞くと都市部の歓楽街を想起しやすいが、NTEには飲食や娯楽関連の活動のみならず、住民同士の交流、文化的活動など多岐にわたる活動が包含され、夏季の日照時間が長い欧米諸国ではこれが定着している。日本においても、昨今、連日の猛暑が活動時間を夜間にずらす動きを後押ししている。日本政策投資銀行の調査研究レポートによると、NTEの活性化は観光客の宿泊誘因による経済効果だけでなく、滞在時間の分散によるオーバーツーリズム対策としての効果や、雇用創出、コミュニティ形成、地域文化の創出・維持など地方創生につながることも期待される。
 では、地方部だからこそ楽しめるNTEとは何か。その一例として、長崎県雲仙市では(一社)雲仙観光局が地元住民と協力し、夜の大自然を満喫できる観光ツアー「プレミアムナイト」を展開している。平成28年、雲仙観光局が主催した地元住民や事業者が参加するワーキンググループからこの取り組みが誕生した。まず、貸し切りバスで雲仙温泉街を出発。夜間通行止めの国立公園内を特別な許可を得て周遊し、満天の星空を臨む展望台を目指す。ツアー中の案内は地元住民が務め、担当者によって十人十色の地元話でゲストを楽しませる。最後は温泉街へ戻り、参加者はそのまま市内へ宿泊する。現在は舞台をゴルフ場へ移しているが、地域密着型の内容は例年大変な人気を集めている。このように、NTEの活性化には地域住民の理解や協力を得ることも重要で、住民自身がその地の夜を楽しむ風土が醸成されてこそ、観光客の来訪満足度も向上するといわれる。

 本県においても、都市部では味わえない夜間の魅力を強調することで、「日帰り」観光地から脱却できるかもしれない。美しい星空や澄んだ空気、静謐な時間など山梨ならではの「ナイトタイム」を上手く活用し、誘客の促進やまちの賑わいが創出されることを期待する。

(公益財団法人 山梨総合研究所 研究員 日原 智香