本を読む楽しみ


山梨日日新聞No.76【令和7年12月8日発行】

 「趣味は読書である」というと、なんとなく暗い印象を与える気がして、子どものころ、あまり大きな声では言えなかったし、言わなかった。周囲に本を積極的に読んでいそうな友人もいなかった。高校生あたりから10年程度、本をほとんど読まない空白期間があり、大人になってから読書を再開したが、図書館や書店に行ってもあまり同年代を見かけないし、電車などで周囲を見渡しても本を読んでいる人は少なく、みんなスマホにくぎ付けである。令和5年度に文化庁が実施した「国語に関する世論調査」によると、16歳以上では1か月に本を読む冊数が「なし」の人が62.6%と最も多く、高校生以上の半数が本を全く読んでいないということになる。
 一方で、以前ある市の会議に参加した際に、学校において、「朝読」という時間が設けられていることを知った。朝読とは、「みんなでやる」「毎日やる」「好きな本でよい」「ただ読むだけ」という4つの原則のもとに行われる朝の10分の読書活動のことで、山梨県では、小学校91%、中学校83%、高校68%の実施率(20255月現在 朝の読書推進協議会調べ)となっている。会議の席上でも、今の子どもは昔より本を読んでいるという話も出た。

 子どもの頃の読書の習慣が、なぜ大人になると消えてしまうのか。読書には様々なプラスの効果があるといわれているが、読書を再開または新たに始めるために、どんなことが必要なのだろうか。
 まず、ジャンルを問わず、話題になっている本を読んでみる。子どもの頃の読書感想文や国語の授業の弊害なのか、本に対して苦手意識のある人が多いように思う。本はエンタメだと考え、面白いということを最優先で選ぶ。その際は、大勢の人が面白いと言っている本なら、期待できるし、入手も容易である。次に、なかなか最後まで読み切ることができない人は、短時間でさっと読み切れる短編から始めてみるのもよいと思う。あとは、映画やドラマなどになっているものも読みやすいのではないか。スキルアップにつながる、勉強になるという理由で本を選ぶと、ページが進まず、面倒になってそのままということも多いと思う。私も教養のためと思って購入した哲学の本を途中まで読んでずっと放置したままとなっている。読書が好きだと言っておきながら興味がなければその程度である。
 先日、山梨県立文学館で開催されていた「ベストセラー誕生!「南総里見八犬伝」の世界」を観てきた。106冊に及ぶ長編を足かけ29年かけて書き上げた作者はもちろんだが、挿絵の画家、出版元、読者など本が好きな多くの人々の情熱を垣間見ることができた。書籍や作家に関するイベント、表紙デザインなどへの興味から読書につなげていくのもひとつの方法かもしれない。私も、関連書籍のコーナーにあった本に興味をひかれて読もうとしているところである。

 また、図書館に行くと、子どもの本のコーナーで親が子どもと一緒に本を選び、子どもの本だけを借りていく光景をよく目にする。我が家の場合は、まず子どもと分かれ、それぞれが目当ての場所へ行く。それぞれが借りたい本を選んだ後、子どもと合流し、本を借りている。せっかく図書館に来たのだから、大人もたまには自分向けの本を借りてみるのはどうだろうか。
 一人ひとりが、それぞれのやり方で本に親しむことができれば、日々の楽しみが増えるに違いない。

(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 清水 季実子