山梨県とUP州 交流からビジネスへ
山梨日日新聞No.89【令和8年9月7日発行】
8月18日から23日にわたり、山梨県の「インド ウッタル・プラデーシュ(UP)州訪問」に同行してきた。
今回の訪問は、2024年に長崎知事がUP州を訪問した際に締結された「基本合意書」に端を発している。今年2月にはUP州のヨギ首相が来県し、合意を具体的で実行可能な取り組みへ発展させるため、グリーン水素、人材交流、観光などについて意見交換が行われた。
今回の訪問で長崎知事が強調していたのは、目的は単なる交流ではなく、今後の「ビジネスの礎」を築くことだという点である。その中でも、山梨県が最も力を入れているのがグリーン水素だと感じた。
グリーン水素とは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーにより、水を電気分解してつくる水素のことである。その具体的な仕組みの一つに、山梨県が力を入れてきたP2G(Power to Gas)がある。余剰電力を使って水素つくる技術で、簡単に言えば「電気をガスに変えて貯める仕組み」である。
山梨県は、特に地産地消型P2Gの先進地域として全国でも独自性を持つ。米倉山で社会実装されている「山梨モデル」を世界へ広めていきたいというのが、山梨県の大きな構想である。
インドでは、現在も石炭による発電の割合が高い一方、太陽光を中心とした再生可能エネルギーへの移行が急ピッチで進んでいる。そのため、UP州においてもP2Gへの期待は大きい。
UP州側の歓迎は非常に手厚かった。ヨギ首相は全セッションに出席し、首相官邸で夕食会も開いた。ニューデリーをはじめ訪問先には長崎知事、ヨギ首相、インドのモディ首相の特大パネルが設置され、移動時にはパトカーが先導し、交差点が警官によって封鎖される場面もあった。そこには山梨県、さらには日本への大きな期待が表れていたように思う。
モディ首相は2047年までにインドを先進国にする目標を掲げ、ヨギ首相も同年までにUP州のGDPを現在の10倍以上である6兆ドル(約900兆円)規模へ拡大することを目指している。その実現には海外からの投資が不可欠であり、山梨県、さらには日本からの投資への期待は大きい。ヨギ首相は「ビジネスパートナーシップ」を繰り返し強調し、日本のものづくりや品質への信頼を語っていた。
一方、経済規模に目を向けると、山梨県とUP州の大きな違いも見えてくる。UP州の人口は約2.4億人と、日本の約2倍、山梨県の約300倍である。GDPも、山梨県の約3.7兆円に対して、UP州は約72兆円と約20倍に達する。長崎知事は100億円規模の融資を計画していると明言したが、この規模の相手との経済連携には、山梨県単独でなく日本全体で取り組む視点も必要ではないか。
実際、山梨県が主導した「日印友好交流促進知事ネットワーク」には、現在12県が参加し、UP州への投資に向けた動きが進められている。山梨県がUP州と日本各地をつなぐ役割を果たすことができれば、今回の取り組みの意味はさらに大きくなる。
そして、印象的だったのが「90日」という期限である。長崎知事は、まず90日後の成果を検証し、プロジェクトを推進していくと話していた。この実効性を重視する姿勢は評価できる。
「交流」から「ビジネス」へ。今回の訪問は、その第一歩として良いスタートを切ったと感じる。今回話し合われた内容には具体的なものも多く、今後への期待は大きい。
人口約80万人の山梨県と、約2.4億人を抱えるUP州。一見すると規模の大きく異なる二つの地域が、それぞれの強みを持ち寄ることで、どのような新しい関係を築くことができるのか。「交流」の先に、本当の意味での「ビジネス」が生まれるのか。まずは90日後、その成果に注目したい。
(公益財団法人 山梨総合研究所 理事長 今井 久)