山梨県民の幸せの形とは


山梨日日新聞No.57【令和7年1月14日発行】

 皆さんはウェルビーイングという言葉を聞いたことがあるだろうか。世界保健機関(WHO)によると、ウェルビーイングのことを「個人や社会の良い状態のことをいい、この状態は健康と同じように日常生活の一要素であり、社会的、経済的、環境的な状況によって決定される」と紹介している。
 なぜ、ウェルビーイングという考え方が広まったのか。これまでは経済的な豊かさが国民の幸せと捉えられており、経済の豊かさを表すGP(国内総生産)が、社会の豊かさの物差しとして使われていた。しかし、国の経済力が増加しても、実際のところの一人ひとりの生活は本当に豊かになっているのか、生活者の生活が豊かでなければ社会が豊かとは言い切れないのではないか、という疑問が生まれた。その中で、真の豊かさの実現を目指して、だれもが健康で長生きすること、一定水準の生活に必要な経済手段が確保できることなど、一人ひとりが「実感できる豊かさ」を重要視しようという価値観が世界で広がり、現在も注目が集まっている。

 こうしたウェルビーイングは、個人や集団の幸福感・満足度・生活の質・健康状態などを数値化する「ウェルビーイング指標」を用いることで、測定することが行われてきた。測定する基準や方法は様々であるが、日本ではデジタル庁において、各地域のまちづくりや事業に活用してもらうために、「地域幸福度(ウェルビーイング)指標」を定めており、いくつかの自治体では既にこの指標を用いて地域の現状を分析し取組を行っている。
 この指標は「主観的ウェルビーイング」と「客観的ウェルビーイング」の2種類に分けて数値で測るものである。「主観的ウェルビーイング」とは、一人ひとりが自分自身の感覚や認識で測るものであり、人生への幸福感や満足度、生活への自己評価などを数字で問う、といった方法で測定している。一方、「客観的ウェルビーイング」とは、平均寿命や生涯賃金など、客観的な統計データをもとに測定している。主観的な情報と客観的なデータを分けて評価することで、より正確で幅広い視点から地域の特徴をとらえ、それらを活かしながら県民の幸せに結びつく取組について考えていくことが可能となる。
 弊財団でも、山梨県民にとっての幸せの形を知りたい、という思いから今年度この指標を用いて独自にアンケート調査を行った。その結果を例えば年代別にみると、山梨県民の幸福度は40代が最も低く、60代以上が最も高くなっているといった違いがみられた。これらの結果と客観的データとの関連をみると、40代は仕事で自由時間が少なく、自己肯定感が低い人が多いことや、60代以上は暮らしている住居や地域に満足しており、精神的に健康な人が多いなど、各年代が置かれている暮らしや仕事を取り巻く環境が幸福度に影響を及ぼしている可能性があることが分かってきた。詳細は、2月26日に開催予定の山梨総研主催のフォーラムにおいて報告する予定である。

 「あなたは現在幸福ですか?」という問いに、皆さんはどう答えるだろうか。この問いの正解はひとつではない。同時にそれに関連する客観的データの数値も、全国平均よりも低いからよくないというわけではなく、山には山の、海には海の良さがあるように、単純に比較できるものではない。山梨県だからこそ感じることができる、山梨県民ならではの幸せは、どんな形をしているのか、皆さんと一緒に考えていきたい。

(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 藤原 佑樹)