伝統的酒造り
毎日新聞No.681【令和7年1月19日発行】
2024年12月、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に日本の「伝統的酒造り」の登録が発表された。日本酒、本格焼酎・泡盛など、杜氏・蔵人等がこうじ菌を用い、長年の経験に基づき築き上げてきた日本の伝統的な酒造り技術が世界で認められるという喜ばしいニュースであった。
甲信地方では、良質な水に恵まれ、冷涼な気候の下で酒造りが盛んに行われており、関係者は消費の拡大に期待を寄せているだろう。また、近年では日本産酒類の海外での需要は拡大傾向にあり、アメリカやアジアを中心に輸出量は年々増えている。
一方で、国税庁が令和6年6月に公表した「酒のしおり」によると、成人一人当たりの年間酒類消費数量は平成4年の101.8リットルをピークに減少を続け、令和4年現在では75.4リットルとなっている。
ただし、酒類全体の消費量の減少には様々な要因が考えられるが、日本酒造組合中央会が2023年に行った「日本酒需要動向調査」によると、日本酒が好きと回答した女性の割合が2017年調査時から2倍に増え、好きな酒類でワインを抜き第2位であったことが公表されており、潜在的な日本酒への関心が高いことが推察される。
古来より、日本酒は非常に神聖なものとして扱われており、歴史を遡ると酒造りに使用される米はそもそも年に一回しか収穫できない貴重な食材であり、豊作の際には米を使用して酒を造り、神様にお供えをし、感謝してきた歴史(伝統)がある。
現代においても、祭事や婚礼といった日本の社会文化的行事に日本酒が不可欠な役割を果たしており、伝統的酒造りはこうした文化を根底で支える技術である。
近年では、ワインツーリズムならぬ、酒蔵ツーリズムも開催されるなど、日本産酒類の認知度向上が図られるとともに、築きあげた伝統を守りつつも、作り手のこだわりにより他商品との差別化を図り、従来の商品開発・製造・販売等の方法や飲み方に囚われない、新たなスタイルを確立している酒蔵も増えている。
今回の無形文化遺産登録を契機として、普段お酒を飲まない、飲んだことのない方にも、伝統的酒造りの文化的価値が見直され、日本の伝統的な文化として、改めて興味関心を持っていただけたらと願っている。
(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 山本 晃郷)