城と稼ぐ地方創生2.0
山梨日日新聞No.66【令和7年6月23日発行】
妻と私は、公益財団法人日本城郭協会の公式ガイドブック『日本100名城』『続・100名城』を道しるべに全国を巡り、各城のスタンプを集めている。これまでに前者は89城、後者は79城を踏破した。妻の収集癖に付き合ったのがきっかけだが、今では夫婦共通のライフワークだ。現地を歩くたびに、築城に至る政治的思惑、合戦譚や地元に残る伝説など、城が秘めた唯一無二の物語が訪れる人を惹きつけてやまない。私は常々、城は地方創生をけん引する万能コンテンツだと確信している。
2025年5月、政府の新地方創生本部が石破首相に提出した「地方創生2.0」提言は、文化資産の高付加価値化のひとつと据え、自治体・大学・金融機関・経済団体等が連携し、磨き上げた地域コンテンツを全国へ横展開する構想である。その好事例が、先日私が訪れた沖縄のグスク群だ。沖縄で「城」を意味する「グスク」は、琉球王国の歴史や宗教文化を体現する独自の城郭であり、曲線的な石垣や自然との調和が特徴である。
琉球王国の象徴・首里城周辺では、宿泊と工芸体験をパッケージ化した滞在型コンテンツがあり、例えば「春の御城まつり~首里手作り市~」の開催時には、首里織や琉球ガラスのワークショップとセットにした宿泊プランを提供している。さらに2019年の火災で焼失した正殿の復元工事を公開する「見せる復興」に取り組み、2023年度の首里城公園入場者は百万人規模に達し、復元そのものが観光資源となっている。首里城再建費の一部はクラウドファンディングで全国から寄付が集まり、地元住民と共に再興に参加する「共感経済」の芽も育っている。
一方、世界遺産・中城城(なかぐすくじょう)では、最先端映像と立体音響が連動するナイトウォークの開催に加え、NFT 形式(改ざん不可のブロックチェーン上に唯一性を証明するデジタル所有権を刻む仕組み)の「中城城跡デジタル城下町民証」を発行し、専用のSNSでコミュニティを形成している。今後は、特典やクーポンを配布し地元地域での消費を拡大するとともに、電子商品券「地域通貨まーい」との連携も検討しているという。
これらの取り組みは、歴史資産×デジタル×地域通貨という掛け算により、城が「見る遺産」から「稼ぐ装置」へと進化していることを示す。鍵を握るのは、地域資源を優良コンテンツとして磨き上げ、地元地域で消費させるシステムの構築である。首里城や中城城で芽生えた地域経済エコシステムこそ、地域経済を下支えする土壌となる。
山梨では、舞鶴城を中心に、南側に開業した「小江戸甲府 花小路」が、県産ヒノキと赤松で町家風の街並みを再現し、甲州ワインや地元野菜の食事処など地場色豊かな店舗が軒を連ねている。また、北側の観光拠点「甲州夢小路」と結ぶ「南北回遊軸」を形成し、徒歩圏内で「買う・味わう・学ぶ」を完結させることで、沖縄と同様に現地での消費を促す仕組みだ。
城にはロマンがある。そのロマンをICTなどの潮流と結び付け、地域の未来を照らす灯に変える動きは全国で加速している。私自身、研究者、そして一人の城マニアとして、これからもスタンプ帳を片手に、新たな成功物語を刻む城を追い続けたい。
(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 在原 巧)