地域医療の現状と今後
山梨日日新聞No.84【令和8年6月1日発行】
今年3月、母が山梨県立中央病院で入院・手術を受け、大変お世話になった。同病院は2010年4月より、県による直接の運営から地方独立行政法人による運営に移管している。法人化後は、15年連続で黒字を達成している。
一方、地方の医療機関、特に自治体が直接運営している医療機関の経営状況は厳しさを増している。最近では、北海道の室蘭市立室蘭総合病院が、2025年度末時点で約85億円の負債を抱え、2028年3月末での閉院を発表した。また、静岡県の静岡市立清水病院は、2006年度から20年連続の赤字が続いており、2027年4月から市内の民間病院に運営を委託することを発表した。
地方の医療機関をめぐる経営状況の厳しさの背景には何があるのか。主に次の2つが考えられる。1つ目は人口減少である。コロナ禍では感染症対応などで医療需要が一時的に高まったものの、そもそも医療機関に通院・入院する母数となる人口自体が減少している。2つ目は医療従事者の担い手不足である。コロナ禍でエッセンシャル・ワーカーの代表例として挙げられた医療従事者であるが、都市部の医療機関に人材が流れる中、医療機関の間で限られた人材を奪い合う構図となっている。また、都市部においても、より高い賃金を提示できる、比較的規模の大きな医療機関に人材が集中するといった課題がある。
こうした状況も踏まえ、国は病床の再編等を進めるとともに、人口減少を見据え、地域ごとの医療機能の役割分担を進めている。その柱となるのが「地域医療構想」である。山梨県内では、特に過疎化の進行が激しい峡南地域において、各医療機関の役割や機能を明確にするとともに、一部病院の診療所化や、地域で適切な医療を効率的に提供するための地域医療連携推進法人の設立などを進めている。この地域医療連携推進法人の設立については、最近、南アルプス市内の3つの医療機関が1つの一般社団法人を設立して、県からその認定を受けている。
現行の「地域医療構想」は2016年に策定されたもので、その構想期間が2025年までとなっている。次の構想は2028年度末までに策定することとされており、2040年までの将来を見据え、医療機関機能に着目し、地域の医療機関の機能分化や連携の協議等を行うこととしている。また、人口規模や医療需要の変化、医療従事者の確保、医療機関の維持等の観点から、医療提供体制上の課題がある場合には、必要に応じて区域の見直しを検討することとされている。
今後、山梨県を始め地方の医療機関をめぐって、次期の「地域医療構想」による再編が進んだ場合、本来目指すべき方向とは逆に、私たちが受けられる医療サービスについて、それぞれが暮らす地域によって地域差が生じることも懸念される。こう考えると、私の母が必要な医療を受けられたのは、一定の医療体制が整った地域に暮らしていたからとも言える。現実には、地域によって受けられる医療サービスに一定の差が生じることは避けられない。
しかし、そこからつながる「安全・安心」な暮らしのためには、その差をできる限り小さくし、誰もが公平に守られるべきではないだろうか。そのためにも、今後は大規模な病院だけでなく、また各個人が掛かりつけ医としている診療所やクリニックを含めた医療機関同士だけでもなく、地域医療を支える関係機関全体の連携強化が求められる。
(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 宇佐美 淳)