高齢者の入り口を考える


山梨日日新聞No.87【令和8年8月10日発行】

 「高齢者」という言葉には、どこか65歳以上というイメージがついている。国の統計では、年齢3区分の一つとして65歳以上人口が示され、高齢化率も65歳以上人口の割合で示される。年金や介護保険など、65歳前後を一つの節目とする制度も多い。こうした制度や統計が、65歳を高齢者の入口として意識させてきた面がある。

 しかし実際には、高齢者の年齢が法律で一律に65歳と決められているわけではない。年金、介護保険、医療、雇用、交通安全など、制度ごとに対象年齢は異なる。
 では、60歳以上の人は、この「高齢者」の入口をどのように考えているのだろうか。内閣府が平成26年度に全国の60歳以上の男女を対象に実施した「高齢者の日常生活に関する意識調査」では、何歳頃から高齢者だと思うかとの問いに対し、回答は「70歳以上」が29.1%、「75歳以上」が27.9%で、「65歳以上」は6.4%にとどまった。制度や統計では65歳が入口になりやすいが、実感ではもう少し上の年齢を高齢者とみる人が多いことがうかがえる。
 このずれは、「高齢者」という言葉が、単なる年齢の区分にとどまらず、支援や配慮が必要な人を指す響きも帯びていることと関係しているのではないか。本人はまだ働ける。地域で役割も果たせる。誰かを支える側でもある。そう感じている人にとって、65歳になった途端に「高齢者」と呼ばれることは、少し実感と合わないのかもしれない。
 この問題については、専門分野からも提言が出されている。日本老年学会と日本老年医学会は平成29年、「高齢者の定義と区分に関する提言」を公表し、75歳以上を「高齢者」、6574歳を「准高齢者」とする考え方を示した。その背景には、以前と比べて65歳以上の人の心身の健康が保たれるようになり、特に6574歳では、活発な社会活動が可能な人が多いことが挙げられる。
 ただ、65歳以上という統計や制度上の年齢区分、あるいは社会で使われてきた「高齢者」という名称を、すぐに見直すことは簡単ではない。高齢化率などを長期的に比較するうえで同じ区分を用いる意味があり、制度上の対象年齢も、それぞれの制度の目的や支援の必要性に応じて考えられるものである。ここで考えたいのは、そうした基準を動かすことではなく、日常の呼びかけや案内の中で、「高齢者」という言葉の扱い方とそれがどう受け止められるかという点である。
 「高齢者」という言葉をすべて避ける必要はない。支援を必要とする人を制度につなげる場面では伝わりやすい言葉である。一方で、広報や地域活動、交流の案内などでは、言い換えられる場合もある。対象を示す必要があれば「65歳以上の方」と年齢で示し、地域活動では「地域活動に関心のある方」、サロンでは「気軽に集まって話したい方」など、目的に合った言葉を使うことも考えられる。

 65歳を過ぎても現役で働き、地域を支える人は多い。年齢の区分は必要であっても、それが本人に「もう高齢者なのだ」と感じさせ、前向きな活動から距離を置くきっかけになってはもったいない。必要な支援は届けながら、その人の経験や力も生かしていく。65歳という統計や一部制度上の入口が、気持ちを後ろ向きにする入口にならないよう、場面に応じた呼び方を考えることも大切ではないだろうか。

(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 望月 泰介