Vol.337 民間企業等から自治体職員への転職の実態 ―独自WEBアンケート調査結果等の分析を中心に―
公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 宇佐美 淳
1. はじめに
上記厚生労働省の調査では対象から外れている公務員、中でも地方公務員については、総務省が毎年実施している「地方公共団体の勤務条件等に関する調査」[2]では、2025(令和7)年4月1日現在で、全都道府県及び市区町村における全職種の採用者数は67,874人で、そのうち経験者の採用は7,627人と全体の11.2%となっている(総務省2026:42、45)。
一方で、様々に変化する社会経済情勢の影響を受け、現実問題として何の脈絡もなく簡単に転職を決断できるわけでもない。実際の転職を想定した場合、年齢、性別、未既婚等の家族状況等によりケースは異なるものと考える。
本稿では、民間企業等からの転職で自治体行政を選択する際の可能性について、筆者が独自に実施したWEBアンケート調査のうち、事前(スクリーニング)調査結果の分析を始め、各種民間調査会社が実施した調査結果の概要をまとめるとともに、具体的な若手職員の声として、専門雑誌に掲載された特集記事からその概要をまとめ、民間企業等から自治体職員への転職の実態の一端を見ていく。
2. 国の制度や各種民間の調査結果の分析
2.1. 総務省「地域活性化起業人」制度からみる自治体行政が求める人材及びスキル
自治体行政側が民間企業等の経験者にどのような人材ないしスキルを求めているのかを考える一つの材料として、総務省の「地域活性化起業人」制度[3]に着目する。
本制度は、企業で培われた人脈やノウハウを活かしながら、地域活性化の取組を効果的・効率的に展開するとともに、企業における社会貢献を新しい形で果たすことや、経験豊富な人材への新たなライフステージの提供などにもつながる地域を起こす企業人材の仕組みとして、2022(令和4)年度から開始している制度となっている。
同制度は、企業と地方自治体が協定を締結し、受入自治体区域内での勤務日数を月の半分以上とする「企業派遣型」、企業に所属する個人と自治体が協定を締結し、勤務日数・時間 は月4日以上かつ月20時間以上で、受入自治体における滞在日数は月1日以上とする「副業型」、都市部の企業を退職したシニア人材を対象とした「シニア型」で構成されている。
以下、2022(令和4)年度(109例)、2023(令和5)年度(150例)、2024(令和6)年度(170例)、2025(令和7)年度(228例)の計657の事例全体を分析していく。
2.1.1. 自治体に不足する領域の外部化
まず見出されるのが、自治体に不足する領域の外部化である。地域活性化起業人制度を俯瞰すると、自治体が民間企業人材に求めているものは、単なる“専門知識”ではない。本質的には、「行政組織内部だけでは生み出しにくい変化・市場感覚・実行力」を補うことにあると言える特に事例を一通り分析すると、自治体が不足を感じているのは以下の5つとなる。
表1 自治体が不足を感じている領域と民間人材に期待していること

表1からは、自治体が「制度を作る人」よりも、「地域で成果を出す人」を求め始めていることが読み取れる。この変化は、従来型の公務員像とは大きく異なるものと考える。
2.1.2.「自治体が求める民間人材」の5類型
次に、事例分析からは、「自治体が求める民間人材」について、仮に① DX推進型人材、②「観光」人材ではない“地域マーケティング“人材、③事業開発人材、④「公民連携」を理解する人材、➄「地域で人を巻き込める力」を持つ人材(全体で共通)の5類型に分類してみた。
① DX推進型人材
2023(令和5)~2025(令和7)年度で最も急増しており、民間大手企業を中心に多くの社員が派遣されている。
しかし、自治体が本当に欲しいのは単なる「IT技術者(エンジニア)」ではなく、業務改革(つまり「X(トランスフォーメーション)」)を進める人や、アナログ業務を可視化できる人、現場を巻き込める人、ベンダー任せにしない人である。
自治体は「業務改善コンサルティング+現場実装者」となる人材を求めており、民間企業出身者が自治体行政への転職で有利になるのは、システム知識、データ活用、SaaS(Software as a Service)理解、業務フロー設計、PM(Project Management)経験を持つ人であると言える。
②「観光」をPRするだけの人材ではない“地域マーケティング“人材
大手民間企業からの社員派遣の頻度は極めて高くなっている。自治体が求めているのは単なる「観光」をPRするだけの人材ではなく、地域ブランディング、情報発信、SNS戦略、商品造成、交流人口・関係人口形成、地域PR、ファン・コミュニティ形成ができる人であり、これは行政内部では弱い領域となっている。その背景には、行政は、「公平性」「説明責任」「失敗回避」を優先するため、尖ったPRやブランド設計、ターゲティング、ペルソナ戦略を苦手とすることが挙げられる。一方で民間企業側は、誰に、何を、どう届け、どう行動変容させるかを日常的に考えている。
③事業開発人材
地域商社やふるさと納税、特産品販路開拓、新商品開発、地域ブランドに関連する事例が多くなっている。自治体が求めているのは、「補助金・助成金を管理する人」ではなく、「(あらゆる)地域資源を事業化できる人」である。この分野で民間企業の経験として評価されやすい経歴としては、商品企画、営業企画、EC(Electronic Commerce)、D2C(Direct to Consumer)、MD(Merchandising)、ブランド戦略、新規事業、マーケティング事業開発等であると考える。特にここ最近は(あらゆる)地域資源を“売れる形”にできる人の需要が急増している。
④「公民連携」を理解する人材
自治体は単なる専門家ではなく、「行政と民間の翻訳者」を求めている。典型的な例としては、エリアマネジメント、PPP(Public Private Partnership)/PFI(Private Finance Initiative)、地域商社、空き家活用、まちづくり会社が挙げられる。
こうした分野での活動に求められる能力としては、合意形成、利害調整、会議設計、ファシリテーション、補助金の理解、事業収支の理解であり、「行政も民間も分かるハイブリッド人材」であると考える。
⑤「地域で人を巻き込める力」を持つ人材
全事例に共通して、“専門性だけでは成功していない”ことである。ここで挙げられている成功事例には、住民との信頼関係の形成、行政における庁内調整、地域のキーパーソンとの信頼関係の構築、現場での実践が挙げられる。
一方で、特に民間大手企業の出身者が失敗しやすい点として、自治体では、正論、KPI、スピードだけでは動けず、地域では、信頼関係、根回し、空気感が極めて重要となることを十分に理解できていないことが事例分析から読み取れる。
自治体行政への転職で成功する人は、一般的に仕事ができる「優秀な人」ではなく、「地域に溶け込める人」であると考える。
2.1.3. 行政が民間人材に求める“人格特性”
ここまで見てきたのは主に“スキル”の面だが、求められる人材には、地域で人を巻き込めたり地域に溶け込める“人格特性”も重要となる。同制度に関する計657の事例群からは、暗黙的に次の特性が読み取れる。
表2 求められる特性と理由

表2の求められる人格特性から読み取れるのは、自治体は「行政を回す人」ではなく、「地域を動かす人」を求め始めているということが挙げられる。自治体行政側が欲しているのは「民間経験そのもの」ではなく、民間で培った“変化を起こす技術”だと考えられる。つまり、民間企業から自治体行政への転職とは、単なるキャリアチェンジではなく、「市場と公共を接続する仕事」への転換とも捉えられる。
2.2. 「官公庁・自治体への転職」意識調査結果からみる転職希望者が求めているもの
ここまでの「地域活性化企業人」制度に関する事例は、主に自治体行政側が民間人材に求める点をみてきた。ここからの民間調査会社による各種調査結果の分析では、主に民間人材が自治体行政(以下の調査では国行政も含む)への転職に求める点を見ていく。
現在民間企業に勤めている人を対象に、公務員(本調査の場合「国家公務員」及び「地方公務員」の両方を含む)への転職に関する全国規模で実施されている意識調査の結果から、エン株式会社による「官公庁・自治体への転職」意識調査結果に着目する。
同調査は、2021(令和3)年から2025(令和7)年の期間、2023(令和5)年を除き経年で実施している調査となっている。
2.2.1. 経年の変化
エン株式会社が実施した本調査結果からは、単なる「公務員的安定」ではなく、主に、生活基盤としての安定、社会貢献・公共性への参加、民間で培った経験の還元、柔軟な関わり方と情報の透明性が挙げられる。
特に2021(令和3)年以降、一貫して上位にあるのは「安定した収入」と「仕事を通じた社会貢献」となっている。中でも、ミドル層(35歳以上対象)調査では、「社会貢献」が60.0%で最も高くなったが、それ以外の年代も含めた全体では、「安定した収入」が、2022(令和4)年で66.0%、2024(令和6)年で68.0%、2025(令和7)年で62.0%と最も高くなっている。これは、コロナ禍以降の雇用・生活不安の中で、自治体行政が「公共性(社会貢献)」と同時に「生活安定の装置(安定した収入)」として見られていることを示唆していると考える。
また、転職に興味ありの割合は、調査対象の違いに注意が必要となるが、2021(令和3)年で89.0%と高く、2022(令和4)年は63.0%、2024(令和6)年上期[4]は56.0%となっている。2022(令和4)年以降は、それでも過半数が関心を持っていると言える。
つまり、官公庁・自治体への転職は「一部の特殊志向」ではなく、民間転職市場の中で一定の選択肢として定着していると見られる結果となっている。
一方で、公務員に外部人材を登用することへの「賛成」は、2021(令和3)年の86.0%から、2022(令和4)年に77.0%、2024(令和6)年下期に76.0%へとやや低下している。これは「反対」が急増したというより、「どちらでもない」が増えた構図となっている。民間企業からの転職者を含めた外部人材活用への期待は強いが、実際の処遇、役割、行政文化との接続に対する慎重さが増しているとも考えられる。
2.2.2. 年代別及び性別の違い
本調査では、年代が上がるほど、官公庁・自治体への転職の関心は高くなる傾向にあると言える。2024(令和6)年下期では、20代は39.0%、30代は53.0%、40代は67.0%、50代以上は73.0%となっている。2022(令和4)年も20代は44.0%、30代は62.0%、40代は74.0%、50代以上は76.0%と同じ傾向を示している。
この結果からは、よりポジティブな視点に立った場合、若年層ほど民間での成長機会や柔軟性を重視し、中高年層ほど経験の活用・還元先として行政を見ている様子が窺える。
また、本調査では、総じて男性は女性よりも転職への関心が高い傾向が見られる。2024(令和6)年下期は男性が67.0%、女性が55.0%、2024(令和6)年上期は男性が62.0%、女性が52.0%、2022(令和4)年は男性が68.0%、女性が57.0%となっている。理由では、男性は「社会貢献」や「能力・スキルの還元」が高く、女性は「安定した収入」や「働きやすい環境」が高い傾向となっている。
つまり、女性の方が安定収入や働きやすい環境を求めている一方で、男性は社会貢献を重視しているということが読み取れる。
また、2024(令和6)年下期では、「安定収入」は男性が58.0%、女性が69.0%、「社会貢献」は男性が58.0%、女性が46.0%、「働きやすい環境」は男性が19.0%、女性が32.0%となっている。不安点では、女性の「テレワーク・時短など働き方の柔軟性」への関心が高く、2024(令和6)年上期は男性が18.0%、女性が36.0%、2025(令和7)年は男性が17.0%、女性が32.0%となっている。この点については、女性の転職ニーズを「安定志向」と単純化せず、育児・介護・生活時間と公共的仕事を両立できる制度設計への期待として捉えることも大事であることの示唆と考える。
2.2.3. 関心分野の変化と障壁としての仕事情報の少なさ
民間企業に勤務している人で公務員の仕事に興味のある分野については、概ね「地方創生」「観光企画・マーケティング」「教育」がトップ3となっている。2021(令和3)年は地方創生が46.0%、観光企画・マーケティングが45.0%、教育が40.0%となっている。2022(令和4)年は観光企画・マーケティングが41.0%、地方創生が37.0%、教育が36.0%となっている。2024(令和6)年下期は地方創生が35.0%、観光企画・マーケティングが34.0%、教育が29.0%となっている。
この点については、民間企業出身者が行政に期待する仕事として、窓口・制度運用よりも「地域を動かす」「人を呼び込む」「教育や地域課題を変える」といった政策実装型の領域に集中していることを意味していると考えられる。特にマーケティング・観光、地方創生は、民間企業での経験との接続をイメージしやすい分野と言える。
一方で、一貫してみられた最大の不安は、「仕事に関する情報が少ない」となっている。2021(令和3)年は63.0%、2022(令和4)年は59.0%、2024(令和6)年上期は52.0%、2024(令和6)年下期は47.0%と低下傾向にはあるものの、なお最も高い割合となっている。情報の少なさに続く不安は、「能力・スキルが活かせる仕事があるか」、「給与など条件面が希望と合うか」となっている。
この点について、民間企業から自治体行政への転職希望者は、自治体の使命に共感していないのではなく、「自分がどの部署で、どの権限で、どの程度成果を出せるのか」が見えないため躊躇している様子も窺える。制度説明よりも、配属、職務範囲、意思決定、議会・住民・庁内調整、評価、異動、給与、任期後キャリアに関する一定程度の情報も前段で必要となることも考えられる。
2.3. 「大学生公務員イメージ調査(2014年卒~2027年卒)」からみる公務員観の変化
次に、20代の若者による自治体職員への就職に関する全国規模で実施されている意識調査の結果から、同世代の若者は自治体職員という仕事に何を求めているのかを考える一つの材料として、株式会社マイナビによる「大学生公務員のイメージ調査」結果に着目する。
本調査は大学生を対象としたものであり、直接的には「新卒学生の公務員イメージ」を測定したものとなっている。しかし、転職市場においても、公務員に対する社会的イメージは大きく共通しているため、「民間企業人材が自治体をどう見ているか」を考える上で有益な示唆を含んでいると言える。
2.3.1. 自治体職員の人気
2014(平成26)~2026(令和8)年の経年変化のポイントとして、「安定」一辺倒から「仕事内容・社会貢献」重視への変化が挙げられる。中でも2017(平成29)~2019(平成31)年頃までは、公務員志望理由の上位は、「安定している」、「福利厚生が充実している」、「給与・待遇が良い」が中心であった。特に2017(平成29)年では、「安定している」が82.4%、「休日や福利厚生が充実している」が71.0%と極めて高い数値であった。
一方で、2022(令和4)年になると、「社会的貢献度が高い」、「地域に密着した仕事ができる」、「様々な業務経験が積める」といった「仕事の意義」や「成長機会」を重視する回答が目立つようになる。この結果は、公務員志望の動機が「安定性」「社会的インパクト」へ徐々に移行しており、これは近年の民間企業人材の自治体転職動機と極めて近いものと考える。
また、全期間を通じて最も人気が高いのは、市区町村及び都道府県職員(自治体職員)となっている。特に、2020(令和2)年以降、「地方公務員人気の上昇」が繰り返し見て取れる結果となった。
一方で、国家公務員については、「労働環境」、「長時間勤務」への懸念が強まる結果となった。
これらのことから、「国を動かす仕事」よりも「地域に直接関われる仕事」への関心が高まっている様子が窺える。これは地方創生や地域課題解決への関心の高まりを反映しているものと考える。
株式会社マイナビが実施した本調査結果の内、2020(令和2)年では、「コロナの影響で公務員志望度が上昇」という結果が示された。民間企業で、採用抑制や雇用不安が広がる中、公務員の雇用安定性が再評価された結果と言える。
また、2024(令和6)年では、公務員志望が25.2%まで回復したが、2025(令和7)年では22.2%、2026(令和8)年では22.1%へと低下している。その背景には、2024(令和6)年では、公務員を志望しなくなった理由として、「試験対策が大変」、「倍率が高い」、「民間就活と両立できない」といった理由が大幅に減少している。
具体的な要因の1つとして、近年のSPI導入、教養試験縮小、民間併願可能な採用制度の普及が影響しているものと考える。
特に不足している情報としては、「詳しい仕事内容」、「職員の日常」、「キャリア形成」、「職場の雰囲気」となっている。
2.3.2. 魅力的な職場としての社会課題解決の現場
本調査で一貫して示される最大の障壁は「仕事内容が分からない」となっている。転職者にとっては、さらに、どんな仕事をするのか、民間経験をどう活かせるのか、キャリアはどう広がるのかが見えない現状となっている。採用広報は「試験情報」ではなく「仕事情報」へ転換する必要があるものと考える。
中でも2025(令和7)年では、公務員職場でのインターン参加経験者が19.5%、参加希望者が40.1%となっており、参加経験は年々増加している。特に低学年段階での職場体験が志望度向上に大きく影響することも示されている様子が窺える。
転職市場への応用を始め、自治体版インターンシップ、副業型、プロボノ型、地域課題プロジェクト型は極めて有効であると考える。
また、2026(令和8)年では「公務員になりたい気持ちが高まる条件」として、公務員の待遇改善が34.9%で最多となった。これは学生ですら「安定だけでは魅力が弱い」と感じ始めていることを意味するものと考える。民間経験者では、さらに、給与、裁量、副業、成果評価への関心が高い様子が窺える。
調査全体を通じて見えるのは、若者が公務員を選ぶ基準が「試験に受かるか」ではなく、「魅力的な職場か」へ変化していることであると考える。これは転職市場と同じ構造である。自治体は今後、採用試験中心から職務中心、そして人材獲得競争へ移行せざるを得ない状況となっている。
2.4. 小括
ここまで、国の制度の事例分析と民間調査会社が実施した調査結果の分析をみてきた。これらの分析から、民間から自治体行政への転職は、「安定を求める転職」であると同時に、「経験を公共に接続し直す転職」であり、「自治体は魅力がない」のではなく、「魅力が翻訳されていない」と捉えるのが適切であると考える。また、民間人材は公共性に惹かれている一方で、行政の仕事の実像、裁量、成果の出し方、組織文化が見えずに不安を抱いている様子が窺えた。
2014(平成26)年から2026(令和8)年までの株式会社マイナビによる調査結果を俯瞰すると、公務員の魅力は「安定」から「社会的価値」へと重心を移しつつある一方で、「仕事内容が見えない」という構造的課題は10年以上ほとんど改善していないことが分かった。
地方公務員人気の上昇は、地域課題解決への関心の高まりを反映しているが、その魅力を十分に伝えられているとは言い難く、民間企業から自治体への転職を促進するためには、試験制度改革以上に、仕事の実態、キャリア形成、民間経験の活用可能性を可視化することが重要となることも分かった。自治体はもはや「安定した就職先」としてではなく、「社会課題解決を担う専門職組織」として自らを発信する段階に入っていると言えるのではないだろうか。
3. 独自調査としての「民間企業等から自治体職員への転職に関する実態調査」
先に取り上げた既に全国規模で実施されている2種類の調査結果をまとめる中で明らかとなった点や、それらを深掘りし、「自治体職員の“新たな”魅力」を探り出すことを最終目的に、筆者独自のWEBアンケート調査を実施した。
本稿では、その前段として、現在までに民間企業等から自治体職員への転職経験の実態と、現在も当該自治体に正規職員の行政事務職として勤務している実態について、事前(スクリーニング)調査を行った結果を分析する[5]。
なお、本調査は、株式会社ジャストインシステムで提供しているFastaskを使用した。
3.1. 現在までの民間企業等から自治体職員への転職経験の実態
まず、現在自治体職員として勤務している人で、現在までに民間企業等から自治体職員への転職経験の有無について、全体と男女別は次のとおりとなった。

グラフ1 民間企業等から自治体職員への転職経験の有無【全体】

グラフ2 民間企業等から自治体職員への転職経験の有無【男女別】
全体では「現在までに民間企業等から自治体職員への転職の経験有無」について、28.1%が「はい(=あり)」と回答(n=1,791)し、男女別では、「はい」との回答で女性(n=1,011)24.6%に対し男性(n=780)32.7%と、男性の方が8.1ポイント上回る結果となった。
次に、性別と年代別のクロス集計については次のとおりとなった。

グラフ3 民間企業等から自治体職員への転職経験の有無【男性×年代別】

グラフ4 民間企業等から自治体職員への転職経験の有無【女性×年代別】
回答者の母数の問題もあるが、「はい」との回答について、男性では、20~24歳が41.1%で最も高く、次いで30~34歳が32.3%、25~29歳が30.7%となっている。
それに対して、女性では、25~29歳が25.2%で最も高く、次いで30~34歳が24.3%、20~24歳が23.9%となっている。
男性と女性とで年代別にわずかではあるが差異が見られる結果となった。特に、女性で25~29歳が最も高くなった理由は、追って実施している本調査の結果を待ちたい。
なお、全体のうち「はい」との回答者(n=504)の「子供の有無」と「未婚既婚」については次のとおりとなった。

グラフ5 民間企業等から自治体職員への転職経験がある回答者の属性
民間企業等から自治体職員への転職経験がある回答者の属性として、子供の有無については、「無し」が67.1%、未婚既婚については、「未婚(結婚したことがない)」が56.0%となった。
冒頭でも述べたとおり、結婚や子どもの存在は、転職そのものにある程度影響を与えているものと思われ、その一端がこれらの結果からも見て取れるものと思われる。
3.2. 現在も当該自治体に正規職員の行政事務職として勤務している実態
次に、現在自治体職員として勤務している人で、先の質問で転職経験「あり」と回答した方のうち、現在も当該自治体に正規職員の行政事務職として勤務しているか否か、全体と男女別は次のとおりとなった。

グラフ7 民間企業等から自治体職員への転職経験があり、現在も行政事務職に勤務【男女別】
先の全体は、今回の調査全体の回答者のうち、現在も当該自治体に正規職員の行政事務職として勤務しているか否かについて、「はい(=勤務している)」が15.2%(272人)との結果を示している。
男女別では、「はい」との回答で、男性が78.4%、女性が71.5%と、6.9ポイントの差で男性の方が高い結果となった。
上記の内容をまとめると、現在自治体職員として勤務している人のうち、28.1%(n=1,791)が民間企業等からの転職を経験しており、その男女差では男性の方が高く、性別と年代別のクロスの差について、女性の中では25~29歳が25.2%(n=409)と最も高い結果となった点が特徴と言える。
また、現在までに民間企業等からの転職経験を有しており、現在も当該自治体に正規職員の行政事務職として勤務している人の割合は、15.2%(n=1,791)となり、こちらもその男女差では男性の方が高い結果となった。
4. おわりに
過去に自治体職員としての経験を有する筆者の感覚としてではあるが、民間企業から自治体行政に転職する際、活かせる能力はビジネス感覚だけでなく、単純に“行政(お役所)”視点からの脱却への寄与が考えられる。自治体職員は年数を重ねれば重ねるほど、意識・無意識に関係なく、この“行政(お役所)”視点が染みついてしまう。そして、それは特有の組織(いわゆる“大部屋主義”など)で業務を進める行政の中で、ごく当たり前に、もっと言えば、そこからはみ出そうとする者に対する、一種の“抗体”のような反応が生じることも多々ある。
そうした総論だけでなく、特に最近では、総務省が自治体向けに「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」を示しているように(総務省2026)、「デジタル」に関する能力は、自治体職員に求められるものとして需要が高くなっている。それは特段「デジタル」に特化した能力を持っているということだけでなく、民間企業の多くでは当たり前に「デジタル」を活用していることが、自治体行政では未だに“ガラパゴス”状態であるということはよく聞く話である。
また、コンサルティング業界やスタートアップ企業からの転職であれば、自治体行政における政策分野毎への専門性はもとより、自治体行政全体を俯瞰して捉える視点は大いに活かせるものと考える。
確かに、自治体職員、特に本稿でその対象とする一般行政事務職は、あくまで総合職であり、様々な部署を経験することが前提となっている。しかし、これまで筆者がみてきた多くの事例では、例えば、元大手IT企業から市民課の戸籍係への配属や、元学校教員が危機管理課への配属、元地元銀行員が協働推進課への配属など、専門職でない限り、転職前の能力が十分に活かせる部署に配属されているかどうかは大いに疑問が残る。
その実態を明らかにするために実施した独自調査は、全国的にも管見の限り未だ実施されたことのない調査で、その意味からは実態の一端を明らかにすることができたものと考える。現在、民間企業等から自治体職員への転職経験があり、現在も当該自治体に正規職員の行政事務職として勤務している本調査回答者のうち15.2%の方(272人)を対象に本調査を実施するとともに、調査対象の方へのインタビュー調査も実施している。
最終的には、民間企業等から自治体職員への転職の実態を明らかにすることはもとより、民間企業間の転職だけでなく、民間企業から自治体行政への転職も当たり前の世界になることが十分想定される中で、「自治体職員の“新たな”魅力」を探り出すことが重要となる。そこには職業間の流動性が高まっていること、それが自治体行政の職場においても当たり前になることも重要となる。
その上で、今後の方向性として、自治体職員への転職は、それまでに培ってきた能力を活かすとともに、そこにさらに自治体職員としての能力が加わることで、「サステナブルキャリア」としての新たな価値の創出につなげていきたい。
【参考文献・資料】
厚生労働省(2021)「令和2年転職者実態調査の概況」
総務省(2026)「令和6年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果」
「地域活性化起業人制度」推進要綱(令和3年3月30日(総行応第78号))
総務省地域力創造グループ地域自立応援課(2023)「地域活性化起業人―令和4年度活用事例集―」
総務省地域力創造グループ地域自立応援課(2024)「地域活性化起業人―令和5年度活用事例集―」
総務省地域力創造グループ地域自立応援課(2025)「地域活性化起業人―令和6年度活用事例集―(企業派遣型)」
総務省地域力創造グループ地域自立応援課(2025)「地域活性化起業人―令和6年度活用事例集―(副業型)」
総務省地域力創造グループ地域自立応援課(2026)「地域活性化起業人―令和7年度活用事例集―(企業派遣型)」
総務省地域力創造グループ地域自立応援課(2026)「地域活性化起業人―令和7年度活用事例集―(副業型・シニア型)」
エン株式会社(2021)「ミドル3,000人に聞く「官公庁・自治体への転職」意識調査」[6]
エン株式会社(2021)「3,000人に聞く「官公庁・自治体への転職」意識調査」[7]
エン株式会社(2022)「1万3000人が回答!「官公庁・自治体への転職」意識調査」[8]
エン株式会社(2024)「3600人が回答!「官公庁・自治体への転職」意識調査」[9]
エン株式会社(2025)「ビジネスパーソン6500人に聞いた「官公庁・自治体への転職」意識調査」[10]
株式会社マイナビ(2013)「2014年卒マイナビ公務員イメージ調査」[11]
株式会社マイナビ(2014)「2015年卒マイナビ公務員イメージ調査」[12]
株式会社マイナビ(2015)「2016年卒マイナビ公務員イメージ調査」[13]
株式会社マイナビ(2016)「2017年卒マイナビ公務員イメージ調査」[14]
株式会社マイナビ(2017)「2018年卒マイナビ公務員イメージ調査」[15]
株式会社マイナビ(2018)「2019年卒マイナビ公務員イメージ調査」[16]
株式会社マイナビ(2019)「2020年卒マイナビ公務員イメージ調査」[17]
株式会社マイナビ(2020)「マイナビ2021年卒大学生公務員イメージ調査」[18]
株式会社マイナビ(2021)「2022年卒マイナビ公務員イメージ調査」[19]
株式会社マイナビ(2022)「マイナビ2023年卒公務員イメージ調査」[20]
株式会社マイナビ(2023)「マイナビ2024年卒大学生公務員イメージ調査」[21]
株式会社マイナビ(2024)「マイナビ2025年卒大学生公務員イメージ調査」[22]
株式会社マイナビ(2025)「マイナビ2026年卒大学生公務員イメージ調査」[23]
株式会社マイナビ(2026)「マイナビ2027年卒大学生公務員イメージ調査」[24]
総務省(2026)「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第5.1版】」
[1] 本調査は、全国の事業所17,218事業所及び個人(一般労働者)9,890人を対象に、前者は2020(令和2)年11月9日から12月7日まで、後者は12月7日から2021(令和3)年1月27日までの期間で実施され、それぞれ9,149事業所(回答率53.1%)、5,530人(回答率55.9%)から回答を得ている。
[2] 本調査は、全国都道府県及び市区町村を対象に実施されている。
[3] 以下、同制度については、総務省ホームページより「地域活性化起業人」ページを参照(最終閲覧日:2026年8月28日)。
[4] 2024(令和6)年の調査は、対象年代が異なる調査を年に2回行っており、「上期」「下期」で表記している。
[5] 本調査は、株式会社ジャストインシステムで提供しているFastaskに登録されている全国の20~34歳の男女で現在自治体職員として勤務している人を対象に、2026(令和8)年8月7日から同21日までの期間で実施し、1,791人から回答を得た。
なお、本調査における「民間企業等」は、法人の形態や職種は問わないが、フリーランス(組織に属さない仕事)や公務員及び準公務員の身分を有する職からの転職(地域おこし協力隊員や集落支援員も含む)、自治体内ないし自治体間での任期付職員や会計年度任用職員から正規職員への採用は除くこととしている。
また、「自治体職員」は、採用形態として、正規職員のみを対象とする(任期付職員や会計年度任用職員は対象外)。また、職種として、行政事務職のみを対象とすることとしている(技術職や教育職等は対象外)。
[6] エン株式会社が運営する『ミドルの転職』(https://mid-tenshoku.com/)を利用する35歳以上のユーザーを対象に、2020年12月25日~2021年3月4日の期間で実施された、インターネットによるアンケート調査で、3,357人から回答を得ている。
[7] エン株式会社が運営する『エン転職』(https://employment.en-japan.com/)『AMBI』(https://en-ambi.com/)『ミドルの転職』(https://mid-tenshoku.com/)『ミドルの転職』(https://mid-tenshoku.com/)を利用するユーザーを対象に、2021年10月18日~2021年10月22日の期間で実施された、インターネットによるアンケート調査で、3,334人から回答を得ている。
[8] エン株式会社が運営する『エン転職』(https://employment.en-japan.com/)『AMBI』(https://en-ambi.com/)『ミドルの転職』(https://mid-tenshoku.com/)『ミドルの転職』(https://mid-tenshoku.com/)を利用するユーザーを対象に、2022年9月28日~2022年10月26日の期間で実施された、インターネットによるアンケート調査で、13,613人から回答を得ている。
[9] エン株式会社が運営する『エン転職』(https://employment.en-japan.com/)を利用するユーザーを対象に、2024年7月29日~8月27日の期間で実施された、インターネットによるアンケート調査で、3,658人から回答を得ている。
[10] エン株式会社が運営する『エン転職』(https://employment.en-japan.com/)『AMBI』(https://en-ambi.com/)『ミドルの転職』(https://mid-tenshoku.com/)『ミドルの転職』(https://mid-tenshoku.com/)を利用するユーザーを対象に、2024年7月29日~11月13日の期間で実施された、インターネットによるアンケート調査で、6,509人から回答を得ている。
[11] マイナビ全会員を対象に、2013年2月4日~2013年2月11日の期間で実施された、インターネットによるアンケート調査で、2014年卒業予定の大学3年生・大学院1年生2,881人から回答を得ている。
[12] マイナビ全会員を対象に、2014年2月4日~2014年2月11日の期間で実施された、インターネットによるアンケート調査で、2015年卒業予定の大学3年生・大学院1年生2,632人から回答を得ている。
[13] マイナビ全会員を対象に、2015年1月20日~2015年1月27日の期間で実施された、インターネットによるアンケート調査で、2015年卒業予定の大学3年生・大学院1年生1,331人から回答を得ている。
[14] マイナビ全会員を対象に、2016年1月25日~2016年2月7日の期間で実施された、インターネットによるアンケート調査で、2017年卒業予定の大学3年生・大学院1年生2,194人から回答を得ている。
[15] マイナビ全会員を対象に、2017年1月17日~2017年1月31日の期間で実施された、インターネットによるアンケート調査で、2014年卒業予定の大学3年生・大学院1年生2,613人から回答を得ている。
[16] マイナビ全会員を対象に、2018年1月11日~2018年1月31日の期間で実施された、インターネットによるアンケート調査で、2014年卒業予定の大学3年生・大学院1年生2,960人から回答を得ている。
[17] マイナビ全会員を対象に、2019年1月17日~2019年1月27日の期間で実施された、インターネットによるアンケート調査で、2020年卒業予定の大学3年生・大学院1年生1,385人から回答を得ている。
[18] マイナビ全会員を対象に、2020年1月17日~2020年2月3日の期間で実施された、インターネットによるアンケート調査で、2020年卒業予定の大学3年生・大学院1年生3,159人から回答を得ている。
[19] マイナビ全会員を対象に、2021年1月18日~2021年2月8日の期間で実施された、インターネットによるアンケート調査で、2020年卒業予定の大学3年生・大学院1年生3,081人から回答を得ている。
[20] マイナビ全会員を対象に、2022年1月14日~2022年2月3日の期間で実施された、インターネットによるアンケート調査で、2020年卒業予定の大学3年生・大学院1年生2,839人から回答を得ている。
[21] マイナビ全会員を対象に、2023年1月10日~2023年1月26日の期間で実施された、インターネットによるアンケート調査で、2020年卒業予定の大学3年生・大学院1年生1,790人から回答を得ている。
[22] マイナビ全会員を対象に、2024年1月10日~2024年1月24日の期間で実施された、インターネットによるアンケート調査で、2020年卒業予定の大学3年生・大学院1年生1,386人から回答を得ている。
[23] マイナビ全会員を対象に、2025年1月10日~2025年1月24日の期間で実施された、インターネットによるアンケート調査で、2020年卒業予定の大学3年生・大学院1年生1,796人から回答を得ている。
[24] マイナビ全会員を対象に、2026年1月13日~2026年1月27日の期間で実施された、インターネットによるアンケート調査で、2020年卒業予定の大学3年生・大学院1年生1,645人から回答を得ている。

