生成AIと察すること
毎日新聞No.724【令和8年9月13日発行】
近年、生成AIを文章作成や要約、校正に使う機会が増えている。独立行政法人 情報処理推進機構の「DX動向2026」でも、それらは生成AIの主な用途に挙がっている。
私自身も、下書きや表現の見直しに生成AIを使うことがある。うまくいけば考えが整理される一方、そういうことではないと感じる場面も少なくない。「少し自然にして」と頼んだら全体を大きく書き換えられ、「短くして」と伝えたら残してほしい部分まで削られる。やり取りを重ねるうちに、生成AIに対しても人と会話するときのように、察してもらうことを前提に伝えていたことが、ずれの一因なのではないかと思うようになった。
私たちは日常会話で、多くの情報を省略している。「これ、お願いできますか」といった表現でも、相手と経緯や目的を共有していれば通じる。足りない部分を補い、意図を察してくれるからである。
日本語では、主語や目的語が表面に出ず、文脈から補われることが多い。言語処理の分野では、こうした省略が何を指しているのかをコンピュータで特定する「ゼロ照応解析」とよばれる研究が行われている。
2024年の言語処理学会では、当時の生成AIの性能では、日本語のゼロ照応解析で十分な性能を発揮できなかったとの報告もあった。現在の生成AIにそのまま当てはめることはできないが、日本語の省略を生成AIが補う難しさを示す一例ではある。生成AIの使い勝手が悪いと感じる人の中には、普段なら言わなくても伝わることまで言葉にすることに、わずらわしさを感じる人もいるのかもしれない。
もちろん、日本語には、すべてを言葉にせず、余白を残す良さもある。ただ、正確に意図を伝える必要のある場面では、省略がすれ違いの原因になることもある。
生成AIに頼む際は、目的や前提、条件を具体的に伝えることが大切だ。「自然に直して」より、「内容は変えず、不自然な表現だけを直して」と伝えた方が、ずれは少ない。
この問題は生成AIに限らない。職場や家庭でも、これくらい言わなくても分かるだろうと思ったことが伝わらず、すれ違うことはないだろうか。
生成AIを使い始め、物事の伝え方を改めて意識するようになった。ほんの一言説明を加えるだけで、その後の確認や行き違いを減らせる。意識的に少し丁寧に伝えることは、手間を増やすようでいて、結果としてお互いにとっての楽につながるのかもしれない。
(山梨総合研究所 主任研究員 望月 泰介)