絵本がつなぐ親子の時間


山梨日日新聞No.90【令和8年9月21日発行】

 累計発行部数が1,000万部を超える絵本「だるまさん」シリーズの作者、かがくいひろし氏の企画展が、山梨県立文学館で開催されている。先日、今まさに本シリーズの愛読者である我が子を連れて鑑賞した。「どてっ」と転んだり、「びろーん」と伸びたりするだるまさん。ユーモラスな原画や、絵本のキャラクターが動くアニメーションを前に、年齢を問わず多くの家族連れが、共に夢中になっている光景が印象的であった。

 出版業界では、デジタルメディアの普及や活字離れにより、「出版不況」と呼ばれる状況にある中、絵本市場は堅調に推移している。出版科学研究所が発行する『2025年版出版指標年報』によると、2024年の国内における絵本の推定販売金額は368億円で、前年比で4.8%増加。2014年と比較すると、約1.27倍に増加している。一方で、絵本のメインターゲットと重なる6歳未満人口は、同じ2014年から2024年の10年間で、約0.78倍にまで減少している。
 少子化の進行に反して、なぜ絵本は支持され続けているのだろうか。その一因として考えられるのが、家庭において子どもに向けられる時間の増加である。
 総務省の「社会生活基本調査」によると、6歳未満の子どもを持つ夫婦の1日当たりの育児時間は、近年増加傾向にある。直近の調査である2021年には、夫婦合計で4時間59分となり、過去20年間で1時間31分増加した。また、ベネッセ教育総合研究所の「幼児の生活アンケート」によると、母親と一緒に絵本を使う割合は、2010年が70.6%、2015年が72.1%、2022年が72.5%と7割を超える水準を維持している。これらの結果から、育児時間が増加する中で、絵本を介した親子の関わりが定着していることがうかがえる。
 加えて、実際に絵本を選び、購入しているのは、親などの大人が中心であることにも注目したい。絵本市場では既刊本の売上割合が高く、「ぐりとぐら」や「はらぺこあおむし」といった、親世代も幼少期に親しんだロングセラーが現在も書店に並んでいる。親自身が親しんだ作品を読み聞かせることで、子どもにとっては新たな体験に、親にとっては幼少期の追体験になり、世代を超えて絵本の面白さを共有する時間にもなっていると考えられる。
 このように、子どもに向けられる時間が増える中で、絵本は単に子どもに「読ませる」ものではなく、親子で「共に楽しむ」媒体として受け入れられていることが、絵本需要の背景にあるのだろう。また、こうした親子で絵本と触れ合える環境があることも、地域における子育てのしやすさや楽しさを構成する要素ではないだろうか。

 山梨県に目を向けると、人口100万人当たりの図書館数は全国1位であり、図書館が身近にある環境といえる。また、『山梨県図書館白書』によると、県内の公共図書館では、蔵書冊数・年間受入冊数ともに、絵本を含む児童向け図書が約3冊に1冊を占める。さらに、ほとんどの市町村で「ブックスタート」等の赤ちゃんへの絵本贈呈事業が実施され、北杜市内には絵本専門の図書館や美術館も点在している。
 こうした地域資源を活用し、絵本を通じて親子が一緒に過ごせる環境を山梨県の魅力として発信することは、子育て世代に選ばれる地域を目指す上で、有効な視点の一つとなるだろう。

(公益財団法人 山梨総合研究所 研究員 笠井 洋祐)