コモンズと住民の自治


毎日新聞No.692【令和7年6月22日発行】

 全国と比較しても自然豊かな山梨県、長野県、静岡県の3県には、自然がもたらす資源を周辺住民が共同で管理・保全してきた、歴史を有するコモンズ(共有地・入会地)が幾つも存在する。
 例えば、山梨県では、明治44年、当時相次ぎ発生した大水害を受け、時の明治天皇が県下の御料地の一部を県民の暮らしの復興のために下賜された森林が、現在の「恩賜林」として県内各地で県土の保全や林産物の供給を始め、水資源の確保などに寄与してきた。
 また、長野県には、温泉資源が豊富で、住民が共同で使用する「共同湯」があり、静岡県では、武田信玄と徳川家康の戦いの舞台である三方ヶ原が、元々3つの村の入会地であったことをその名前の由来としている。

 コモンズは、決して自然資源だけに限らない。例えば、社会教育法第42条に規定する「公民館に類似する施設(公民館類似施設)」が挙げられ、その多くは、住民自身の発意により、住民自身が資金を出し合い、設立後の管理・運営も住民自らが行うというものである。特に長野県には、「地域公民館」(長野市)や「町内公民館(自治公民館)」(松本市)などの名称で数多く設けられている。
 こうした住民自身が設立し管理・運営している地域公民館等は、地域内の人のつながりや、その地域が有する歴史や文化の継承などの拠点として位置付けられる。
 先に触れた自然資源としてのコモンズは、その所有権を基に、関係する住民による組合が作られるなど、言わば外からは閉ざされた関係性となる。また、社会教育法第20条等で規定する公設公営や公設民営の公民館では、公平であるがゆえに住民の誰もが利用できる前提でありながらも、その実態は公平とは言い切れない利用状況も垣間見られる。
 そうしたなか、長野県の地域公民館等は、その地域で培われてきた歴史や文化の継承を始め、そこで生活する様々な住民同士をつなぐという、言わば外に開かれた多くの人々が関わることのできるものとなっている。

 地域公民館等に限らずコモンズ全体で、管理・運営する住民の高齢化や地域自体の過疎化など多くの課題を抱えているが、地域公民館等が有する歴史や文化を継承したり人をつないだりする性質は、地方の地域にこそ必要とされる大切なものであり、いかにしてそれらを活かしていくかが今後求められる。

(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 宇佐美 淳