新しい学びの場を山梨に


山梨日日新聞No.67【令和7年7月7日発行】

 山梨県では現在、高等専門学校(高専)の設立に関する議論が進められている。これは、2023年の知事選において、長崎幸太郎氏が公約として掲げた施策の一つである。

 高専とは、創造的技術者を養成することを目的とした、中学校卒業を入学資格とする5年一貫の高等教育機関であるが、本県において高専設立の議論が本格化するのは今回で3回目となる。
 第1回目は、横内正明元知事の2期目(20112015年)に、即戦力となる人材の育成を望む県内産業界(特に機械・電子分野)からの強い要望があったことがきっかけである。結果として高専の設置には至らなかったが、山梨県立産業技術短期大学校都留キャンパスと工業系高校との連携により、実践的な人材育成が行われるようになった。
 第2回目は、高専設置を選挙公約に掲げた後藤斎前知事の在任中(20152019年)に行われたが、前回同様、機械・電子産業を担う即戦力人材の供給が目的であった。このときも高専の設置には至らなかったが、山梨県立甲府工業高等学校に卒業生を対象とした2年制課程の「創造工学科(専攻科)」が設置された。
 そして3回目となる今回は、これまでとは異なり、将来を見据えた人材育成へのシフトが明確に見られる。長崎知事の公約には、「Society 5.0 の新たな時代を切り拓くSTEAM人材を山梨に根付かせるため、サイエンスを基盤に、しなやかな頭脳と豊かな感性を持つ人材を育む高専の開設に向けた検討を進めます」と記されている。
 STEAMとは、科学、技術、工学、芸術・リベラルアーツ、数学の頭文字(英語)を取った造語であり、これらを分野横断的に学ぶことで、これからの時代に必要とされる人材を育成しようとする考え方である。
 2023年には、山梨総合研究所が県の委託を受けて、「山梨における高専の可能性」に関する調査報告書をまとめた。この調査結果を受け、県は昨年度、山梨に高専が本当に必要か、そして必要であるならばどのような高専が望ましいかを検討するための「技術系人材育成機関検討委員会」を発足させた。県内の産業界や教育機関から選出された委員によって構成されており、筆者もその一人として参加している。
 すでに4回の会議が開催され、活発な議論が行われてきた。まだ最終的な結論には至っていないが、高専の必要性についてはおおむね合意が形成されつつある。議論の中で頻繁に挙げられるキーワードは、「デジタル」「新たな価値の創造」「地域」などである。

 筆者は、新しい教育の場として高専のような機関が必要であると考えている。若者たちは、先行きが不透明な「VUCA(ブーカ)」とも言われる時代をどう生き抜くかという難題に取り組んでいかねばならない。だからこそ、教育の在り方も多様である必要がある。
 すでに徳島県では、モノをつくる力で社会に変化を生み出す人材育成を目指した「神山まるごと高専」が、石川県には、グローバルイノベーターを育成する「国際高等専門学校」が設立されている。
 このように、変化の時代に対応する「新しい教育」の潮流はすでに始まっている。本県においても、まずは将来どのような人材が必要とされるのかを見極め、その育成のために、どのような教育が望ましいのかを真剣に考えていかなければならない。高専設置に向けた今回の議論が、そうした本質的な問いを考える契機となることを期待している。

(公益財団法人 山梨総合研究所 理事長 今井 久