Vol.324-2 総合計画とWell-being(ウェルビーイング)―山梨総研流の活用術―
公益財団法人 山梨総合研究所
主任研究員 宇佐美 淳
1. はじめに
自治体における総合計画は、様々ある計画の最上位に位置付けられる計画とされる。総合計画に限らず自治体計画は、自治体のありたい未来を考え、その実現のために生じている現状と課題を振り返る大事なものである。
本稿では、総合計画をめぐる課題の内、総合戦略との一体化と策定過程への職員の参加について取り上げ、その前提として、いま総合計画策定に求められる要点について考察するとともに、総合計画とWell-being(ウェルビーイング)[1]について、その親和性や総合計画に指標として取り入れることのメリット・デメリットを始め、学術的な先行研究にも触れながら、山梨総合研究所が考える総合計画へのWell-being指標の設定について、その有効な活用方法を模索する。
2. 総合計画をめぐる幾つかの課題
2.1. 総合計画と総合戦略の一体化
本稿では、総合計画・総合戦略とは何かに関する議論は省略し(別途「小柳氏のNewsLetter」を参照)、早速本論に入っていきたい。
総合計画と総合戦略それぞれの策定状況(いずれも2024年4月現在)について、2024年6月に公益財団法人日本生産性本部自治体マネジメントセンターが行ったアンケート調査[2]の結果(以下、「日本生産性本部調査」という。)によると、次のグラフ1及び2のとおりとなっている。総合計画については、「計画期間中の総合計画がある」つまり策定している自治体が97.2%(n=760)、総合戦略については、「策定している」自治体が89.9%(n=760)と、いずれも高い割合となっている。

グラフ1 総合計画の策定状況

グラフ2 総合戦略の策定状況
両者をめぐっては、計画の構成や目標値などの点において類似している点が多く見られ、現在、多くの自治体でその一体化が進められている。
その実態が分かる1つのデータとして、日本生産性本部調査では、「総合計画の数値目標と総合戦略の基本目標はどのような関係になっているか」との質問(n=683)に対し、次のグラフ3のとおりとなっている。多くの自治体で両者が策定されている現状において、その目標値が「ほぼ一致していない」と「関係は特に考えていない」を合わせると31.8%となり、3割強の自治体で両者が一致していないことが分かっている。

グラフ3 総合計画の数値目標と総合戦略の基本目標との関係
では、総合計画との総合戦略の一体化について、総合戦略を所管する内閣官房及び内閣府はどのように考えているのか。内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局と内閣府地方創生推進室が連名で出している「地方版総合戦略の策定・効果検証のための手引き(令和5年12月版)」によると、両者の関係について、①目的や政策範囲が一致しないこと、②総合戦略(特に第3期)はデジタルの力の活用を目的としていること、③総合戦略は数値目標や重要業績評価指標(KPI)を設定することが適切であることを理由に、「基本的には単独の地方版総合戦略として策定することが適切」であるとしている(内閣官房・内閣府2023:20)。
ただし、総合計画を始めとした他の計画が総合戦略としての内容を備えているような場合には、これらの計画等と総合戦略を1つのものとして策定することは可能であるともしている(同上)。
しかし、念をおすように、1つのものとして策定等する場合であっても、まち・ひと・しごと創生法第9条及び第10条の規定により、都道府県の総合戦略は国の総合戦略を勘案して、市区町村の総合戦略は国及び都道府県の総合戦略を勘案して、それぞれ定めるよう努めなければならないことに留意するよう求められている(カッコ内は筆者、同上:20-21)。
では、何故、そこまでして敢えて別々に策定する必要があるのか[3]。結論から言えば財源(予算)獲得のためである。つまり、総合戦略を策定することにより、というよりも策定しておかないと、国から交付される地方創生交付金が手に入らない仕組みとなっている。
そう考えると次に疑問となるのは、それでは「地方創生」とは名ばかりで、その実態は国の(市区町村にとっては国と都道府県の)総合戦略を勘案して策定することにより、各自治体の自立性がどこまで重んじられるのか、という点である。
この点について、小西は、地方創生交付金の獲得を動機の1つとしつつ、国の要求を巧みにあしらいながらも、自立性を発揮することで、戦略的(したたか)かつ冷静に対応できる力を自治体は持っているとする、「自治体戦略論」を提起している(小西2021:60)。
つまり、国の総合戦略で重点項目とされている内容を、そのまま総合計画の基本目標や政策ないしは施策の方向性に位置付けることは、様々な点において誤りと言える。
2.2. 策定過程への職員の参加
続いて、総合計画の策定過程への職員の参加について考える。総合計画を含む自治体計画全般について、松井は、自治体で策定される計画の重要度を考えてみれば、一定程度の計画策定の経験や専門性を有した職員が計画査定に関わることが有益であり、そのため幹部職員や経験者が策定に参加することが合理的である一方で、実際の策定では幹部職員が参加し、未経験者が大半を占めている実態があるとする(松井2022:9)。
また、松井は、一見するとそうした実態と相反する結果として見えるが、計画策定には専門性以外での価値や目的があり、それは計画策定を通じた職員参加による人材育成ではないかと分析する(同上)。その人材育成について、松井は、計画策定への職員参加には、職員と職務状況の多様化が日常風景である現在において、旧態依然とした自主研究グループなどの任意の職員参加では職員全体の能力向上は期待できず、まさに公務の動機付け(Public Service Motivation)が期待されると指摘する(同上:9、11)。
こうした自治体における計画策定、特に総合計画の策定と職員との関係について、現役職員である小柳は、経験が少ない職員同士で総合計画をどうつくるのか十分に議論がなされず、前例を踏襲した計画となり、その結果、つくる側と読む側の双方にとっても退屈な計画になっているのではないかと問題提起する(小柳2025:70)。
3. 総合計画とWell-being(ウェルビーイング)
3.1. 総合計画とWell-beingの親和性
総合計画に関する書籍や論文は数多く存在する。また、Well-being自体に関するものも同様である。一方、総合計画におけるWell-beingのあり方に関する書籍や論文は未だ数少ないと言える。
それら数少ない先行研究の中でも、地方自治論ないし行政学の観点から考察を行った曽我の論文が注目される(曽我2024)。曽我は、まず、Well-being 自体について、その概念は範囲の確定が難しく、多義的なものになるとともに、幸福やクオリティー・オブ・ライフ(QOL)といった類似概念との異同も判然としないとした上で(曽我2024:7)、Well-beingの多義性や包括性は、学術的な概念としては弱点となるが、それらは、政策の方向性を導く理念としての強みとなり得るとする(同上)。
また、Well-beingは測定可能なものであり、EBPMなどの流れとも親和的なものとして用いられており、政策が社会経済に与えるインパクトを明確化し、その測定を行おうというロジックモデルや、その中でインプットからアウトカムに至る因果推論をより厳密に行おうというEBPMとWell-beingにおける測定は、同じ方向を向いたものと理解されるとする(同上)。
その上で、デジタル化による社会課題解決という方向性も鑑みると、自治体におけるWell-beingの利用の特徴として、総合計画との結びつきの強さを挙げている(同上:10)。
3.2. Well-being指標設定のメリットとデメリット
何故、Well-beingを総合計画の成果指標として設定するのか。その前に、そもそもWell-being指標とは何かをおさえておく必要がある。国(デジタル庁)のWell-being指標については、市民の「暮らしやすさ」と「幸福感(Well-being)」を数値化・可視化すること等の目的で設定された地域幸福度指標であるとされ、アンケートによる主観データに基づく主観指標(地域における幸福度・生活満足度を計る4つの設問と、3つの因子群(生活環境、地域の人間関係、自分らしい生き方)から構成)とオープンデータによる客観データに基づく客観指標(3つの因子群)により構成される。
なお、従来、本指標は、デジタル田園都市国家構想(総合戦略)の実現に向け活用することを目的としており、自治体間の優劣の比較やランキング付けなどは厳に慎むよう求められている。
よって、そのままを総合計画の成果指標として設定するのではなく、設定するための一工夫が必要となるが、設定にあたっての主なメリットとして以下の4つの点が挙げられる。
- 各政策や施策の方針が目指すべき状態とその達成状況を把握することを通じて、具体的な数値として評価を実施できること。
- まちづくりの理念や目指すべき将来像を頂点に、Well-being指標を基本目標や政策、それらに紐づく施策や事務事業という計画全体の最終的なアウトカム(成果)指標として位置付けた「ロジックモデル」を活用することにより、それを意識した施策や事務事業の実施及びそれらのアウトカム及びアウトプット(結果)指標に基づく評価が可能となること。

図1 ロジックモデルの構造
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- デジタル庁のWEBサイト[4]から、全国の自治体と比較分析ができること。
- 多くの自治体で従来から総合計画の策定時には住民や事業者等を対象にアンケート調査を実施しており、その中で各自治体の政策や施策に対する満足度と重要度をきいていることから、あくまでその基準を各自治体の政策や施策からWell-beingに代えるだけであり、行政側にとって抵抗感が少ないこと。
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一方で、デメリットも幾つか考えられる。例えば、①全国比較ができる自治体は、現時点ではまだ都市自治体に限定されており、町村に関するデータはほとんど公開が進んでいないこと、②他の自治体との比較自体が、他の自治体との競争を生みかねないこと等が挙げられる。
なお、山梨総合研究所が定義するアウトカムとアウトプットについては、次の図2のとおり。

図2 アウトプット指標とアウトカム指標の定義
3.3. 先行研究の整理―曽我論文への懐疑的考察
Well-being(地域幸福度)指標の問題点として、曽我は、まず、国(デジタル庁)の地域幸福度指標を自治体が利用する際に注意すべきこととして、地域幸福度指標では、Well-beingを左右すると考えられる人々や社会の状態と、人々の全体的な幸福度や満足度の双方を測定しているが、両者の関係は示されておらず、主観的評価が客観指標よりも低いことから、何らかの改善を図ったとしても、全体的な幸福度はほとんど改善しなかったということになりかねない点を挙げている(曽我2024:18-19)。
つまり、その場合の捉え方は別に次の2通りの視点があるのではないかと考える。1つは、客観指標自体の問題として、国(デジタル庁)が示す指標に必ずしも完全に従う必要はないということが前提と考える。
確かに、純粋に全国比較を行う場合、基準とする指標が全く一緒ではない点は引っ掛からなくもない。しかし、国(デジタル庁)が示す指標は「全国比較」を前提とすることもあり、特に客観指標については、都市部でなければ十分な意味をなさないものもある[5]。あくまで国(デジタル庁)が示す指標は1つの例であり、必ずしもそれと一言一句同じである必要はないものと考える。よって、原則は国(デジタル庁)が示す指標を取り入れつつ、各地域の実態に応じてそれに準じたものを別途設定することも可能なのではないだろうか。
もう1つの視点として、何故、主観指標と客観指標の差が生じたのかを考えること自体に意義があると考える。つまり、客観的評価が高いにも関わらず主観的評価が低いということは、客観的評価の結果が十分に主観的評価に成果としてつながっていないと考えられる。
曽我が挙げるもう1つのWell-being(地域幸福度)指標の問題点として、Well-beingと自治体が展開する施策や政策との関係が不明であり、Well-beingが数値的に把握されるからといって、政策や施策との関係が捉えやすくなるという保証はない点を挙げている(同上:20)。
確かに、現在既に動いている総合計画に対し、見直し等のタイミングで新たにWell-being指標を取り入れることだけでは、既に自治体が展開する政策や施策との関係が十分ではないことは否めない。
しかし、見直し等のタイミングにおいて行うべきことは、まさにそうした政策や施策、事務事業が、総合計画が示す最上位のまちづくりの理念や目指すべき将来像とつながっているかどうか、そのつながりを改めて確認すること、そして、そのための材料としてWell-being指標を活用することにある。
4. 山梨総研流の活用術
山梨総合研究所では、次の図3のとおり、総合計画の成果指標として独自にWell-being指標を設定し、総合計画内の基本目標や各種目標値(アウトプット指標)とのつながりを整理しつつ、総合戦略との一体化を図るにあたり、総合計画で位置付けるWell-being指標と総合戦略で位置付けられるKPI(重要業績評価指標)との整合性の確保を行うことを大前提に考えている。

図3 総合計画へのWell-being指標の設定
次に、具体的なWell-being指標にはどのようなものを設定しているのか。前述のとおり、その基本形は国(デジタル庁)で公開されているものとしているが、昨年度から独自に山梨県民を対象に実施しているアンケート調査の結果等を踏まえ、前述のとおり、そもそもWell-being指標の基本形が総合戦略用に設定されていることから、総合計画に設定するためのきき方や内容に工夫を図っている。次の表1は、Well-being指標のうち主観指標の一例である[6]。

表1 総合計画に位置付けるWell-being指標【主観指標】の一例
表1のWell-being指標【主観指標】については、冒頭3つの指標では、幸福度とともに満足度を、それ以降の各分野の指標については、満足度とともに重要度をきいている。指標の中で、満足度が低いものの、重要度が高いという結果が示された場合や、満足度が高いものの、重要度は低いという結果が示された場合などについては、重点的に施策や事務事業の見直しが必要となるものと思われる。
また、Well-being指標は、主観指標だけではなく、各分野の客観指標、主に国の各種統計調査結果が指標として設定されている。次の表2は、Well-being指標のうち客観指標の一例である。

表2 総合計画に位置付けるWell-being指標【客観指標】の一例
最終的には、これら主観指標と客観指標の両方の結果を分析する。例えば、客観指標は高いが、主観指標が低くなっている場合は、何故その差が生じるのかを分析・検証するとともに、それに紐づく政策や施策の目標値を含め、見直しを行うことなる。
5. おわりに
総合計画におけるWell-being指標の設定について、曽我は、今後「廃止の波及」のような現象にもつながるのではないかと暗に示唆している(曽我2024:4)。確かに、この間、総合計画における中心的指標の変遷を追ってみると、行政改革が盛んに叫ばれた際には財政指標が、また総合戦略とともに策定が努力義務化された人口ビジョンが登場した際には人口指標が、それぞれ多くの自治体で取り入れられた。
その後、人口減少が本格化し、各自治体で財政状況の悪化も懸念される中で、いずれの指標も、総合計画という自治体最上位の計画における中心的指標として設定することが難しい状況となっていった。
そこに登場したのがWell-beingであるが、財政や人口という明確に数字のみで測られる指標ではなく、主観と客観の両方から、しかも各地域の幸福度という点からも、まさに総合計画に設定する指標として受け入れられてきた。
今後は、流行り廃りの中で、いずれWell-beingに取って代わる指標が新たに登場する可能性、つまり「廃止の波及」が生じる可能性も完全には否定できない。
しかし、繰り返しになるが、Well-being指標を取り入れる本来の意味は、あくまでも各自治体での幸福度及び満足度を上げていくためには、どのように取り組んでいけば良いかを、行政だけでなく、調査対象である住民や事業者自身もともに考え、行動することを促すためのきっかけであり、決して他の自治体との競争を促すものではない。
そうした意味では、都市部や農村部といった地理的制約だけではなく、また、財政状況や人口の増減等に一概に左右されない形で、各自治体の現状に合ったWell-being「的」指標を検討し、その自治体の魅力的な豊かさをクローズアップし、住民全体で改めて共有するとともに、周囲に発信していくきっかけとなっていくことを望む。
【謝辞】
本稿執筆にあたり、実際に総合計画の策定過程に携わった経験を有する実務家研究者の一人である、新潟県の加茂市役所政策推進課課長補佐の小柳貴之氏には、大変お忙しい中、急かつ無理な依頼にも関わらず、本稿とのコラボ記事執筆にご快諾賜った。
同氏は、業務の傍ら、新潟から都内の大学院に通い、昨年度修士号を取得し、現在は同じ大学院の博士後期課程にて研究を続けている。
この場を借りて心より感謝申し上げる。
【参考文献・資料】※本文掲載順
公益財団法人日本生産性本部自治体マネジメントセンター「令和6年度『自治体総合計画に関するアンケート調査』結果」
小西敦(2021)「「地方創生」における都道府県の「戦略的」対応(一)」『自治研究』第97巻第12号、58-78
小西敦(2022)「「地方創生」における都道府県の「戦略的」対応(二・完)」」『自治研究』第98巻第2号、19-39
松井望(2022)「自治体計画策定への職員参加と人材育成」自治大学校編『自治大学校からの情報発信』vol.23、6-11
小柳貴之(2025)「Book review 自治体戦略としての「総合計画」―職員参加と住民参加を踏まえた策定・実施に向けて―竹内直人・松井望[編著]」自治実務セミナー編集部編『自治実務セミナー』2025年7月号、70
曽我謙悟(2024)「地方自治の現在の潮流―ウェルビーイングと総合計画―」『自治研究』第100巻第11号、3-28
一條義治(2020)『COPA BOOKS 自治体議会政策学会叢書 これからの総合計画―人口減少時代での考え方・つくり方―増補・改訂版』イマジン出版
玉村雅敏監修・著/公益財団法人日本生産性本部編(2014)『総合計画の新潮流―自治体経営を支えるトータル・システムの構築―』公人の友社
[1] 山梨総合研究所が考える「Well-being」については、藤原主任研究員による「山梨県民の幸せの形とは」『山梨日日新聞』(2025年1月13日)を参照。
[2] 本調査は、2024年6月10日~6月28日までの期間で、全国の市区町村1,538団体を対象に、郵送調査法により実施され、760団体から回答を得ている(回収率:49.4%、日本生産性本部2024:2)。
[3] なお、ここでいう「別々」とは、例えば一体化したとしても、「総合計画」の後半に「総合戦略」が位置付けられている場合も含む。本来これは「形式上」の一体化であり、元来「一体化」が意味するものとは異なる。
[4] デジタル庁「デジタル田園都市国家構想実現に向けた地域幸福度(Well-Being)指標の活用」<https://well-being.digital.go.jp/>(最終閲覧日・2025年7月29日)。
[5] 例えば、都市公園の数などが挙げられる。他方で、農村部でなければ十分な意味をなさないものとして、自然公園利用者数などが挙げられる。
[6] 2024年度に実施したアンケート調査結果の詳細等については、公益財団法人山梨総合研究所(2025)「令和6年度自主研究 “シン”やまなし未来共創プロジェクト やまなし白書2024年度版」を参照。なお、2025年度のアンケート調査結果については、今後山梨総合研究所のイベント等にて順次公開予定。