子どもを育てて思うこと


毎日新聞No.697【令和7年8月31日発行】

 今年6月に厚生労働省が発表した2024年の人口動態統計(概数)によると、合計特殊出生率は1.15と過去最低を更新した。前回の1.20からさらに下がり、少子化の流れは止まらない。地域別では、山梨県1.26、長野県1.30で全国平均をわずかに上回るが、いずれも低下傾向である。
 山梨県が人口の現状と目指すべき将来の方向性を示した「人口ビジョン2.0(案)」では、2024年に実施した調査で推計された県民希望出生率が1.65と公表された。2015年調査の1.870.22ポイント下回り、「希望」でも2人に届かない。

 筆者も「不確実な時代」に子育てを経験した。バブル崩壊後に大学進学、就職氷河期に社会人となり、将来が見通せない中で結婚と出産をした。第1子を授かったときは不安が先立ち、「自信がない」と泣いたのを覚えている。
 仕事と子育ての両立は想像以上に厳しかった。突然の発熱で保育園から呼び出される。看病で何日も休み同僚に迷惑をかけて肩身が狭くなる。外出の予定が子どもの機嫌や体調で取りやめとなる。自分の欲しいもの、やりたいことは我慢を余儀なくされる。世の保護者と同様にできなかったこと、諦めたこと、悔しかったことは数え切れない。
 2人目を流産したときは辞職も考えた。長男の「ママ、辞めないでね」の一言に支えられ、その後、第2子にも恵まれた。昨年、その長男が20歳を迎え、成長の軌跡を動画にまとめると、泣いて悩んだ日々も振り返れば楽しさが勝り、幸福感しかないことに気がついた。
 子育てから学ぶことは多い。計画通りに進まないこと、予期せぬ出来事に対応する力が必要なこと、自分を二の次にしながらも楽しみを見つける術を得ること等々だ。
 次男も中学生となり手はかからなくなったが、「親業」から解放されたわけではない。今でも「自分のことだけしたい」と思う瞬間もある。それでも、生まれ変わっても、たとえ里親だったとしても親になる道を選ぶだろう。
 高校卒業後に県外に出た長男は、「それでも子育てするなら山梨なんだよな」とつぶやいた。子を持つことを前提にし、山梨で育った経験を肯定する姿は、地域にも私にも小さな丸印をつけてくれたように感じた。

 出生率の低下は「子どもを望まない」からではなく、不安や制約が選択を狭めている現実があるからである。不安でも、大変でも、完璧でなくても、「大丈夫よ」と声をかけてもらい、少し手を差し伸べてもらえる―。そんな温かい社会や地域であれば、子育ての一歩はもっと踏み出しやすくなるのかもしれない。

(公益財団法人 山梨総合研究所 主任研究員 渡辺 たま緒