果物コミュニケーション
毎日新聞No.723【令和8年8月30日発行】
山梨の夏は、モモとブドウの季節である。山梨県は、モモ・ブドウ・スモモの出荷量が全国1位であり、果実の農業生産額は、県の農業生産額全体の57.9%にあたる約775億円(令和7年 山梨県発表)である。このことからもわかるように、果物の生産は、山梨県農業の主要な分野である。そのような環境のため、身近に果物の生産者がいる県民も多いのではないだろうか。
山梨県では、夏になるとモモやブドウをおすそ分けでいただく機会が多くなる。私は、山梨県生まれではないため、親戚や職場などから次々舞い込むモモやブドウに、「買えば高いのに、もらっちゃっていいの?」と最初は戸惑った。また、県民の方に、「モモやブドウは買うものじゃない、もらうものだ」と言われ驚いたが、山梨県へ来て数年でその意味がわかるようになった。親戚、職場、近所の方などからもらうたびに、「このモモは誰からだっけ?」となることもよくある。家にありすぎて、おいしいうちに食べようとしても、食べるスピードがもらうスピードに追い付かず、腐らせてしまうこともある。
特にモモは傷むのが早い。あげる側には「出荷はできないけど食べればおいしいのに、もったいない。このままだと処分することになる」という思いがあり、もらう側には「食べなければ傷んで捨てることになるなんてもったいない。おいしいし、買えば高いものだ」という思いがある。そんな双方の思いから、高級な果物であるモモも、気軽なおすそ分けできる果物となるのではないか。
最近、夫の仕事の関係で、まとまった量のモモが家に来ることが増えた。そこで、集合住宅の1階である我が家の玄関脇に、ご自由にどうぞと書いてモモを置いてみることにした。すると、近所にお住まいの方が少しずつ持ち帰ってくれて、次の日にはなくなっていた。モモを入れておいたかごにお菓子が入っていたり、会った際に野菜をいただいたり、雑談の機会が増えたりと、その後、近所の方との交流が増えた。果物のおすそ分けをきっかけとした人と人とのつながりは、果樹産地ならではの風景であろう。夏の「果物コミュニケーション」をこれからも大切にしていきたい。
(山梨総合研究所 主任研究員 清水 季実子)