デジタル的説明を


毎日新聞No.48 【平成11年8月4日発行】

~地上波デジタルでお茶の間はどう変わる?~

 大学1年の時、夏休みに帰省してみると、実家の居間に、なんとビデオデッキがあった。当時、家庭用のビデオデッキは、値段は下がりつつあったものの、一人暮しの学生にはまだまだ高嶺の花で、家の中にビデオがあることに私はいたく感動した。
 だが、市販のビデオソフトなどまだまだ少なく、レンタルビデオ屋もなかったので、使用目的はテレビ番組の録画と再生だけ。人気のテレビドラマを、放送を見ながら録画し、また再生して見なおすという、実に妙な使い方をしていた。音声はモノラルで、画質はひどいものだった。

 就職して、給料がもらえるようになると、自分専用のビデオデッキを購入した。ステレオ音声で画質も良い。スタイルも良くなった。その後、2台目のビデオデッキ(ベータ)、ビデオディスクプレーヤー、8ミリビデオカメラなどを次々に購入し、ほとんどの映像ソフトを楽しむことが出来るようになった。

 さらに世の中には、S-VHSやデジタルビデオカメラ、DVDなど、さらなる高画質をめざして、さまざまなAV機器が誕生した。近く、デジタルVHSもお目見えするらしい。

 だが、最も注目したいのは、毎日見ている、地上波テレビのデジタル化である。スケジュールの遅れを懸念する向きはあるものの、2010年にはデジタル化が完了するそうだ。HDTVと呼ばれる、高画質・高品位な放送を見るのは今から楽しみだ。

 また、デジタルの圧縮技術を使った多チャンネル、データ放送、双方向サービスなど、これまでのテレビの概念を変える、どうやら革命的な出来事になるようである。経済波及効果も212兆円だという。

 なんだか良いことばかりのようだが、それにしても、なぜデジタル化なのか、何が変わるのか、そして何をしなければならないのかが、視聴者側、昔風に言えばお茶の間に余り伝わってこない。チャンネル変更やアンテナ交代で、たとえデジタル化を望まなくても、負担を強いられることもありそうな話も聞く。あいまいさを残さない、「デジタル的」な説明を期待したいものである。

(山梨総合研究所研究員・水石 和仁)