第三の居場所
毎日新聞No.226 【平成18年8月18日発行】
JR甲府駅の北口から山梨英和高校方面へ向かうと藤川のたもとに「瀬戸」という茶房があった。この店の主人は、ウーロン茶にこだわっていて、豆を原料とするコーヒーはお茶ではないとコーヒーはメニューにない。お客様は比較的高齢の方が多くたまり場のようになっていて、ガラス越しに見える中年のご婦人や白髪の知的な男性たちの談笑する光景はなんともほほ笑ましいものであった。「『瀬戸』はお年寄りのサロンにしたいのです」と言っていたが数年前に店じまいして今はない。
さて、戦争直後に生まれたいわゆる団塊の世代は全国で700万人、我が国の消費をリードし、新しい文化を生み出し、経済・社会に大きな影響を与えてきた。この団塊の世代が来年あたりから定年を迎える。いわゆる07年問題である。定年延長や再雇用などによって劇的な変化は避けられそうだが県内にも該当する人が5万人ぐらいいるだろう。
これまで、彼らには家庭という「第一の居場所」と職場という「第二の居場所」があった。ところが、退職すると毎日決まって行く「第二の居場所」が無くなり、改めて職場の持つ有形・無形の価値の重要さに気付くことになる。そうなると、職場に替わる「第三の居場所」とも言うべき場所が必要になるのだが、新たな「居場所」はそう簡単には見付からない。社会学者レイ・オルデンバーグは「第三の居場所」が社会的に重要な機能を担っていることを指摘しているが、そこに求められる機能とは、喫茶店やレストランのような機能であり、自宅以外のSOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)的機能であり、図書館のような機能であり、囲碁・将棋などのクラブ機能であり、シルバー人材センターのような仕事紹介機能であり、農山村と都市住民をつなぐコーディネート機能などである。
茶房「瀬戸」の試みはちょっと早すぎたのかもしれない。にぎわいの求心力を失ってしまった地方都市の中心市街地でこれから「第三の居場所」作りが始まるのではないだろうか。
(山梨総合研究所 専務理事 早川源)