無尽会の存続を
毎日新聞No.278 【平成21年1月9日発行】
「無尽承ります」「無尽会歓迎」。県内の飲食店前の看板では当然のように目にするこの文字。おそらく山梨県出身者以外で、この意味が理解できる人は少ないだろう。
その由来を調べてみると、頼母子講、つまり金銭等の融通を目的とした住民の相互扶助組織であることが分かった。山梨の無尽の歴史は古く、室町時代に遡ると言われている。現在では金銭の融通というより、飲食会や団体旅行等を通じた交流の場になっている。人々の交流が多様化、広域化した現在で、行政が関与しない住民主体の組織がこれほどの歴史をもって存続されてきたことは奇跡と言える。
しかしながら最近では、この無尽も徐々に衰退してきていると聞く。この組織をこのまま衰退させて良いのであろうか。
今後、日本社会が直面していく問題の一つに、少子高齢化があげられる。とりわけ高齢者の独居・孤立化の進行は大きな問題である。そのため社会福祉のあり方が盛んに議論され、地域社会をもとに相互扶助関係の構築を目指すという言葉を耳にする。
しかし、地域との関係が希薄になっている現代では、その基本となる地域社会がどのような組織単位を指しているかわからない。また仮にその組織単位が確定しても、その基盤となる組織をどのように構築していくのか議論がなされていない。県には、無尽を維持してきた歴史と伝統がまだ残っている。これほど地域社会をもとにし、お互いの顔が見える組織は他にはないだろう。
組織が維持されれば、高齢者の交流機会を維持することができる。また、世代を超えた交流による情報伝達機能や、治安維持、福祉、災害時の対応、情報交換などさまざまな場面での応用が可能であろう。
10年、20年後を考えた場合、全国的にも、また世界的にも非常に珍しいこの無尽という組織(財産)を衰退させてしまってはあまりにももったいない。県内の飲食店の看板から、無尽という文字が消えることなく存続され、地域社会を維持する住民主体の組織がどんな形でも受け継がれ残っていくことを切に願っている。
(山梨総合研究所 研究員 古屋 亮)