「日常」という地域資源


毎日新聞No.346 【平成23年9月16日発行】

  先日、山梨県立大学で「山梨から発信する新しいツーリズム」をテーマとする観光講座が開催され、山梨で「ワインツーリズム」を立ち上げた1人である笹本貴之氏の講義を受講した。
  「ワインツーリズム」とは、欧米のワイン産地では普及している旅のスタイルである。ワイナリーやブドウ畑を訪ね、造り手たちと交流し、ワインと郷土料理を楽しむことはもちろん、その土地の風景・風土、四季の生活などを楽しむ旅である。

  2008年に甲州市内ではじまったワインツーリズムは、順次甲府市、笛吹市のルートも新設され、今年は40社以上のワイナリーが参加する予定だ。
  私も2年前に参加したが、このワインツーリズムの醍醐味はガイドブックにある。ガイドブックには、ワイナリーが集積するいくつかの地域ごとにウォーキングマップが掲載されている。事前に送付されたガイドブックを眺めながら、徒歩で、あるいは循環バスを利用して、どのようなルートでワイナリーを巡ろうかと、当日のプランに思いを巡らせるところからワインツーリズムは始まる。
  ワインを楽しみ、造り手の話を聞き、目の前に広がるブドウ畑の中を散策し、のどかな風景に心を奪われる。疲れた時には、縁側カフェでひと休み、地元の方々のもてなしを受ける。笹本氏の言う「産地の日常」を十分に楽しむことが出来る。
  このワインツーリズムは、住民主体の地域活性化をコンセプトに始まったが、何気ない地域の日常生活を、産地の風景や暮らしそのものの魅力を、「地域資源」として捉えたところに単なるイベントとは違う良さがある。地元の人も、訪れる人も、この地域資源を共有・体感できる。

  山梨県は昨年度策定した産業振興ビジョンのなかで「地域ブランドを活用したニューツーリズム」を成長分野として挙げており、今秋にも「やまなしブランドツーリズム」をスタートさせる予定である。民間の力ではじまったワインツーリズムには、その中心的役割を果たしてほしいと願っている。今年のワインツーリズムは11月5日、6日の開催予定である。ぜひみなさんも参加してみませんか?

(山梨総合研究所 主任研究員  小柳 哲史)