知価社会の基盤・県立図書館に期待


毎日新聞No.349 【平成23年10月28日発行】

 大震災から6ヶ月、放射能汚染、エネルギー、円高など様々な問題が一挙に噴出してきた。被災者は勿論、被災しなかった人々も転機に直面し、これまでの延長線上に未来を描くことが出来ず悩んでいる。

 さて、山梨は、中央自動車道全通後の1983年、「クリスタルバレー構想」を策定し、ものづくりの基盤である工業団地開発を進め、メカトロニクス産業を誘致し、成長発展してきた。しかし、ものづくりの現場は中国、タイ、ベトナムなどへ移転しその流れは止まりそうにない。いち早く海外展開した県内企業も、海外の業容は拡大してきたが本社工場や地域雇用をどうするかが大きな課題となっている。
 山梨総研では、健康長寿日本一という山梨のブランドや環境科学研究所の存在、薬草園などの地域資源を生かした「ウエルネス・クラスター(健康産業集積)構想」を提言している。この構想は県の産業ビジョンにも盛り込まれているが、衣・食・住・遊・学・薬・美・ロボットなど裾野の広い分野である。

 神戸市では、95年に起こった阪神淡路大震災の復興策として人工島「ポートアイランド」を拠点に「高度医療産業都市構想」を打ち出し医療産業によるまちづくりをめざしてきた。12年を経て、理化学研究所をはじめ内外から200を超える企業や団体が立地し、新たな雇用を生み出しつつある。この例からも産業・雇用を生み出していくためには10年、20年という歳月が必要である。
 リニア新時代には甲府から1時間圏内に定住人口6千万人という大市場が生まれる。高齢社会も現実化してくる。より高度なメカトロニクス産業の振興も重要だが、新しい産業育成も急務である。幸い、ビジネス支援をひとつの柱とする県立図書館が来年オープンする。新しい社会基盤が求められているこのときに開館する意義はきわめて大きい。11月27日には竹内悊(さとる)図書館情報大学名誉教授を招いて「新しい県立図書館を考える会」主催によるシンポジウムが開かれる。知価社会を支える基盤、新時代の活力源となる県立図書館に大いに期待したい。

(山梨総合研究所 副理事長 早川 源)