黒曜石が結ぶ広域連携
毎日新聞No.516 【平成30年6月8日発行】
八ヶ岳を中心としたエリアにおける縄文文化が、「日本遺産(Japan Heritage)」に認定された。
日本遺産とは、文化庁が平成27年から認定を開始した比較的新しい取り組みである。地域内に点在する遺産を1つのエリアとして捉え、地域の歴史的魅力や特色を、独自の「ストーリー」を通じて発信することで、地域住民のアイデンティティの再確認や地域愛の醸成、地域のブランド化を促し、地域活性化への足がかりとすることを目指している。現在の認定数は67件となっており、認定を受けた自治体には情報発信や調査研究等の費用として3年間に限り補助金が交付される。
今回の日本遺産認定においては、エリアを山梨県(甲府市,北杜市,韮崎市,南アルプス市,笛吹市,甲州市)と、長野県(茅野市,富士見町,原村,諏訪市,岡谷市,下諏訪町,長和町,川上村)の範囲とし、ストーリーとして「星降る中部高地の縄文世界 ― 数千年を遡(さかのぼ)る黒曜石鉱山と縄文人に出会う旅 ―」を掲げた。
縄文時代、八ヶ岳を中心とした中部高地は黒曜石の一大産地であり、数千年にわたり採掘が続けられた。黒曜石は火山が生み出す天然ガラスであり、中部高地産は良質なものが多く、割れ口が鋭く加工しやすいため、矢じりやナイフなどに珍重された。
また、黒曜石鉱山は星ヶ塔など、地名に「星」が付く高原地帯に多く、黒曜石を大地に降り積もった星のかけらと信じたことから、こうした地名が生まれたとされている。
さらに、八ヶ岳山麓の集落には、黒曜石を求めて遠方から人が集まり、東西の文化交流が行われ、青森県や滋賀県からも出土が確認されており、日本の「地域ブランド」発祥の地とも言われている。縄文時代中期(約5000年前)の八ヶ岳山麓は日本で最大の集落数を誇り、国宝である「縄文のビーナス(土偶)」をはじめとした芸術性の高い縄文文化が花開いていたことから「縄文銀座」と称されることもある。
今回の認定を受けて、山梨と長野の広域連携の新しい枠組みができることとなった。行政の垣根を越えた積極的な取り組みを期待したい。
(山梨総合研究所 研究員 大多和 健人)