無尽は山梨の誇る文化


毎日新聞No.568 【令和2年7月12日発行】

 新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの生活スタイルを大きく変えつつある。そんな中で気になるのは、“無尽”の今後である。
 無尽は、今ではたわいもない話題や時には真剣な議論も交わす「飲み会」であり、「旅行」にでかけることもある、山梨県民には身近なコミュニケーション手段である。何本もかけ持つ人もいることは、皆さんご承知の通りである。
 しかし、コロナのまん延で、無尽の開催は難しくなってしまっている。毎月の楽しみの場が、心を癒してくれる救いの場がなくなって、ストレスを抱えている方も多いだろう。また、元来互助扶助の精神による金融制度であることを鑑みると、むしろ現在ほど必要とされている時はないはずなのに、なんともむなしいものである。

 このまま、無尽は廃れてしまうのか。参考になりそうな話がテレビで紹介されていた。ただ見るだけではなく体験もできるウェブを使った有料仮想ツアーである。まるでその場にいるように、まずは空港のロビーが映し出され、その中の係員の点呼に応えてパスポートを提示する。その後、飛行機内が映し出されアナウンスを聞き、現地空港で合流した別のコンダクターに従い名所を回り現地の方の話に耳を傾ける。ツアーの昼食時間になったら、事前に宅配される材料セットを基に現地名物料理を各自自宅で作っておき、参加者全員で会話をしながら食べる。4時間ほどの内容で、単なる「見る」ツアーではなく、「体験」や「コミュニケーション」が詰まった魅力あるものだった。
 これになぞらえると、飲食店さんが無尽で提供する料理や酒を当日宅配し、ズームなどのテレビ会議システムを使っておしゃべりをする「無尽パック」なるものを提案するのはどうだろうか。もうやっているよ、という声も聞こえそうだが、外飲みの気分もちょっぴり味わえるぜいたくな「バーチャル飲み会」といったところである。なじみの店主が、料理の説明や話題提供でさりげなく割り込んで参加するのもいいだろう。

 無尽は山梨の誇る文化であり、大切なコミュニケーション手段である。みんなで知恵を絞って後世につなげていきたいと思う。

(山梨総合研究所 専務理事 村田俊也