東京パラ後の共生社会


毎日新聞No.600【令和3年10月3日発行】

 新型コロナ禍で、開催への賛否があった夏季パラリンピック東京大会は、あっという間に通り過ぎた。競泳や車いすテニス・ラグビー・バスケットなど選手のパフォーマンスの高さ、強さに熱い感動を覚え、陸上男子走り高跳びの鈴木徹選手(山梨市)の挑戦し続ける姿にも勇気をいただいた。
 今回、個人的に最も注目したのはボッチャだった。中でも、脳性まひの杉村英孝選手(伊豆介護センター)の静かな闘志と、正確無比の投球を支える技術と精神力には、超人の称号を贈りたくなった。障害に応じて、ボールを蹴ったり、滑り台状の補助具を使ったりと、多様性を許容するルールにも面白さを感じた。

 山梨総研では本年度、地域課題を見つめ、未来を共に創る新たなプロジェクト「やまなし未来共創HUB」を立ち上げた。「だれもが働きがいを感じられる社会を創ろう!」などの共創テーマを設け、関心のある方々によるオンラインミーティングを始めている。
 障害者の就労や雇用を取り巻く環境整備には、さまざまな障壁が横たわる。まずミスマッチの原因がどこにあるのか意見を出し合い、従来の「福祉」中心の視点に「労働力」の観点も加えながら、障害者をはじめ多様な人々が働きがいを持てる環境づくりのために何ができるか模索している。将来的には障害者就労支援施設での新たな商品開発やサービス提供、その付加価値を高める仕組みづくりなどビジネスモデルにつなげ、幸福度の高い社会の形成をめざす。
 昨年度、ある自治体の障害福祉計画策定支援でヒアリングした際、障害者やその家族から就労支援施設などの充実を求める声が目立った。施設職員からは「私たちは福祉のプロだが、営業のプロではない」という嘆きの声も聞いた。こういう課題を共有していくことが解決への第一歩だと思う。

 東京パラリンピックは「共生社会の具現化」を掲げ、重度障害のある選手が、健常者も到達できそうにない難しい領域での活躍を示した。個々の特性と多様性を尊重することの大切さを今まで以上に強く認識させられた私たちは、この感動を胸に、共生社会の前進につなげていかなければならないだろう。

(山梨総合研究所 主任研究員 鷹野 裕之)